番外編

注)ユートピア・ワールドの最終話までの内容を含みます。本編には影響しない話ですので、読まなくても問題はありません。

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 イベント終了から少しして、アカリエに一人の客が入って来た。


「いらっしゃいませって、ソルさん。こんにちは」

「アカリちゃん、こんにちは。ちょっと防具を直して欲しいんだけど、大丈夫かな?」

「はい。代わりの服はお持ちですか?」

「うん。更衣室借りて良い?」

「はい」


 ソルは、更衣室に入って服を着替える。そして、着ていた防具をアカリに渡した。


「結構消耗してますね」

「イベントで優勝したのは良いんだけど、ものすごく強い人と最後に戦ってね。互いにかすり傷を何度も負わせて負わされてを繰り返してたから、結構消耗しちゃったみたい」

「ああ、フレイさんですね。あの人も結構やり込んでいる人ですから」


 強い人と聞いて、アカリはすぐにフレイの事だと気付いた。


「そうなんだ。私とは違うゲームをやり込んでるのかな。まぁ、私もこのゲームをやり込んでるとは言えないけど」

「そうなんですか?」

「うん。休日の二日くらいしかまともに出来ないからね。恋人との時間もあるし」

「ほぇ~、恋人さんがいらっしゃるんですね。こちらにログインしているんですか?」

「ううん。買えなかったから。それとね。面白い子も見つけたんだ」


 そう言われて、アカリはすぐにある人物が頭を過ぎった。


「白い髪の赤い眼をした子ですか?」

「正解。知り合い?」

「幼馴染みです。可愛いですよね」


 アカリがそう言うと、ソルは、少し目を見開いてから寂しげに笑う。


「そうなんだ……大切にしてあげてね」

「えっ? あ、はい」

「それじゃあ、また来週取りに来るね。防具の修理よろしくね」

「はい! 任せてください!」

「うん」


 ソルは、アカリに手を振って、アカリエを出て行く。それを見送ったアカリは、ソルの防具を手に取る。


「何だろう? ハクちゃんに、何か感じたのかな? 今度、ハクちゃんにも訊こっと」


 アカリは裏に戻って、ソルの防具の修理をしに向かった。


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 ログアウトしたソル……日輪日向ひのわひなたは、ゆっくりと身体を起こす。


「あっ、もう終わりましたか?」


 日向が起きた事に気付いた恋人の和水舞歌なごみまいかが、ベッドの脇から声を掛けた。先程まで、ゲームに入っている日向の横で本を読んでいたようで、サイドテーブルに本を置いた。


「うん。優勝したよ。ブイ」

「おめでとうございます。日向さんでも苦戦はしましたか?」

「途中までは余裕だったかな。でも、途中で超強い人にあったよ。時間切れまで戦ったけど、決着が付かなかったんだ。本当に強かったなぁ。ジークさんみたいだった」

「そうなんですね。楽しそうで何よりです」

「それとね。さくちゃんみたいな子がいたんだ」


 舞歌の表情が驚いたように固まった。


「あっ、でも、見た目だけね。中身は、まだ分からないかな。でも、負けず嫌いな部分は、さくちゃんらしかったかも。腕を斬り飛ばされても、突っ込んできたしね」

「懐かしいですね」

「しかもね! 幼馴染みの子が金髪のエルフだったんだ。ちょっとあの頃を思い出して、寂しく感じちゃった」

「それはそうですよ。あれから十年経っても、傷は残ったままですから」


 舞歌は、日向の頭を優しく撫でる。日向は、嬉しそうに目を細めた。


「いつか、また会えると良いな……」

「そうですね……」


 日向と舞歌は、互いに微笑み合った。その心に今はいない友人の姿を思い描いて。

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