第25話 とある可能性

 私達が向かっているのは、フレ姉のギルド(仮)だった。大きな建物を買って、ギルド代わりに使っているみたい。まだギルドを作れる状態じゃないから、仮って事らしい。


「ギルドは、いつ頃作れるの?」

「そろそろ追加されるらしいが、次の街に行くと出て来るみたいだな」

「次の街?」

「ああ、東の森や南のジャングルの先のエリアには、こことは違う街があるんだ。ただ、今のハクだと少し苦戦するかもな」


 ここ以外の街があるという話は、ちょっと魅力的だ。私で苦戦するって事は、一気にモンスターのレベルもアップするって感じなのかな。


「そうなんだ。じゃあ、しばらく入口で修行かな。【支援魔法才能】の実戦にもなるし」

「それは良いかもな。それはそうと着いたぞ」


 フレ姉がそう言って止まったのは、大きな屋敷の前だった。


「おぉ……これって、一般に売ってるものなの?」

「ああ、一位二位を争う高さだ。私達も全員で金を出し合って買ったからな。ざっと、五百億以上だ」

「おおぅ……」


 あまりにも大金過ぎて、それしか声が出なかった。


「姉さんって頭のおかしいレベリングするもんね。そりゃ、高い素材とかも集まるから、お金持ちになるよ」

「効率が良いと言え。強くなるために強い敵と戦うのは当たり前だろ。ギリギリ勝てるかどうかの戦いは良いものだぞ」

「変態気質。マゾ?」


 アク姉がそう言った瞬間、フレ姉が思いっきり叩いた。


「痛っ!? マゾじゃなくてサドじゃん!」

「もう一度叩かれるか大人しく家に入るか選べ」

「家に入りま~す」


 アク姉がそう言ったので、フレ姉は舌打ちをしてから私達に許可証を出してくれた。多分、もう一度叩きたかったのだと思う。仲が良くて良かった。

 フレ姉の先導で屋敷に入っていく。中は、ものすごく綺麗な感じで西洋風な屋敷だった。中には、誰もいない。


「イベントから帰ってきてねぇみたいだな。まぁ、帰ってきたらうるせぇからな。私の部屋に移動するぞ」


 そうして案内されたフレ姉の部屋は、ものすごく広かった。アク姉のパーティーハウスの倍ぐらいある。


「適当に座ってくれ。ギルドマスターになる予定だからって、一番大きな部屋を宛がわれてな。正直、手に余ってる」

「テーブルと椅子が三脚とポットみたいなのだけだしね。冷蔵庫とかないの?

「冷蔵庫を置いて何を入れろってんだ。酒か?」

「お茶とか水とか置いておけば良いんじゃない?」

「私用のジュース!」

「お前は遠慮しろ」


 そう言いながら、フレ姉がお茶を入れてくれる。多分、このゲームでよく出て来る赤紅茶だと思う。一度お茶を飲んで落ち着く。


「そういえば、白ちゃん。私の血って美味しかった?」

「そういや、プレイヤーから吸血すんのは、初めてなのか?」


 こういやって二人から別々の質問をされる事はよくあるので、得に気にしない。慣れたら普通に返せるし。


「うん。プレイヤーは初めて。アク姉の血はね、美味しかったっていうより、良い匂いが混じっていて飲みやすかった。他のプレイヤーの人も吸ったけど、汗みたいな匂いとか変な匂いが混じってて嫌だった」

「ん? プレイヤーによって変わっているって事か?」

「うん。一番美味しかったのは、アク姉」

「ふふん!」


 アク姉が、ドヤ顔でフレ姉を見た。それがむかついたのか、顔にアイアンクローをやられていた。


「種族は違うか?」

「う~ん……アク姉がエルフだったくらいかな」

「エルフ……種族差か?」

「そういえば、そういう話もあるね。でも、スキル差で変わるから、何とも言えなくない? 一応、始めた時に皆でHPとMPを比べたら、確かにエルフを選んでいる私が多かったけど、二とか一とかだったよ」

「MPが一・二倍とかになっているとしたらどうだ?」

「差は広がる一方って事?」

「そうだ。同じく獣人を選んでいる奴はHPが多いという話もある。眉唾物だとも考えていたが、ハクの話を聞くと、その可能性も信じられそうだな」

「じゃあ、普通の人の特徴は?」

「平均値だろうな。考えるに、優れた部分の他に劣っている部分があるんだろう。物理防御が弱いとかな」

「でも、最初にそれを明確にしないなんて、運営も酷くない?」

「最初にそれを知らせるとステータスに拘って、自由に設定出来ねぇからとかが考えられるな。まぁ、明確に差は出ないと思いたいところだな。スキルで補える範囲だと考えておこう」


 途中からフレ姉とアク姉の討論が広げられた。こういうとき、私はただの傍聴者になっている。こういうところを見ても、やっぱりフレ姉とアク姉は仲が良いと思う。


「でも、血の美味しさに関係する?」

「そういや、そういう話だったな」


 二人の視線が私に突き刺さる。


「それじゃあ、試してみる?」

「私とアクアの血を飲み比べるって感じか」

「ううん。それだけだと種族による違いは分からないと思うから、アカリも連れて行く感じかな」

「ああ、個人差の可能性か」


 アク姉が特別美味しいという可能性もあるので、それを検証するために、アカリにも協力して貰えば、分かりやすいと思う。


「なら、予定でも立てて検証する日を作るか。アカリの予定もあるしな」

「うん。それが良いと思う……って、そういえば、アク姉達の家にシャワーなかった?」

「あるよ。今日もイベント前に浴びてきたんだ」


 ニコニコと答えるアク姉に、私とフレ姉は呆れたような目をしていた。


「その可能性はない?」

「あるな。だが、種族差の可能性は否定しきれない」

「じゃあ、アカリには私が確認するね」

「ああ、頼む。全く、ゲーム内でシャワーを浴びて何になるんだ」

「えぇ、気持ちいいじゃん。まさか、姉さん……現実でも……痛たたた!!」


 またフレ姉をからかうから、アイアンクローを食らってる。


「お前の方がマゾだろ」

「姉さんに痛めつけられても嬉しく何ともない! 出来れば、ハクちゃんが良い!」

「お前のシスコンっぷりも異常だな」

「姉さんだって、ハクちゃんが可愛くて堪らないくせに」

「そりゃあ、お前と違って中身も可愛い妹だからな」

「誰が見た目だけだ!!」


 アク姉は、頬を膨らませて怒っていた。そこからは、また姉妹三人で雑談をしていった。積もる話があるわけじゃなかったけど、普通に楽しい時間を過ごす事が出来た。

 イベントで優勝出来なかったり、自分が弱いことを痛感したりと色々あったけど、楽しい一日ではあった。唯一の心残りとしては、フレ姉と戦えなかった事だけだ。久しぶりだから、一回くらい真面目に戦ってみたかった。アク姉は、ああいう性格だから、まともに戦えないと諦めている。フレ姉程じゃないけど、戦う事は好きなので、少しくらいはちゃんと戦いたいけどね。

 今後は、【吸血】の検証に加えて、東と南の新しいエリアの開拓が、主な行動になると思う。戦い方も新しくしたい部分はあるし、やることは満載だ。結構凝ったゲームだし、長く楽しめそう。

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