第2話『異世界東京』(3/3)

 そのヒロの様子を見て、ラピスは楽しそうに言う。

「ヒロもできるじゃん? その手で壁に触れてみなよ。すごいよ? イヒヒヒ」


 ヒロは半信半疑のまま言われるままに、壁に手のひらをそっと当ててみた。

 するとその瞬間、石が一瞬で押し潰されるような破砕音を聞くと、壁が直径二メートルほどまで粉砕されていた。


 ヒロはあっけに取られて言葉を漏らす。

「マジで?」


 ラピスは大きく頷くように言う。

「うん。うん。よくできました。これで魔法童貞は卒業ね。イヒヒヒ」


 ヒロは自分の手のひらを見つめ、しみじみと言った。

「これが魔法……」


 ところがそれを、あっけなく砕く者がいたラピスだ。

「うっそーん。それあたしの技術だよ?」


 ヒロは始めに眉を上げて、目を見開き口を大きく開けた。

「え? えー! 騙したのか? ひっでーなー」


 ラピスは拗ねるようにして言う。

「騙していないよ? 約束したジャン。いいものあげるって」


 思い出したようにヒロは、右手拳で左手のひらを叩きいう。

「あっ……。そうだな、そりゃ言っていたな」


 するとポツリとラピスから、残念なお知らせが届く。

「ヒロはほぼ魔力ないよ? というよりなんか変……」


 愕然としたヒロは力なくいう。

「俺魔力ないんか……。変?」


 ラピスはヒロを安心させるかのように、優しく答えた。

「それはちょっと調べてみるけど、ナノマシンが完成しないとね」


 ところが、不確かな魔力より科学なら再現性があると考え、興味が高いことを伝えた。

「科学技術であの破壊ができたわけか……。なら、尚更興味深いな」


 ラピスは思った通りと言わんばかりの表情を浮かべながら言う。

「ヒロならそう言うと思っていた。使いこなせば銃弾や物理的な物は大抵防げるわ。あと、手刀でなんでも切断できるわ。イヒヒヒ」


 魔法ではない科学技術の結晶でナノマシンを作り出すなど、まるで追随させないその技術力にヒロは舌を巻く。

 とはいえ、ただの人が魔力と呼ばれる未知のエネルギー源を得てそれを扱う現象って、なんなのか気になり始めた。


 あの高校生風の者は警察に捕まり、そのまま連れて行かれてしまう。ヒロは内心、もう少し観察していたかったのだ。

 あれだけ派手にやらかしたのなら、ニュースにでもなりそうなので、目撃者もいないし壁はこのままにして研究室へ戻る。


 ヒロは、壊した壁は知らぬ存ぜぬで通すつもりだった。

 

 室内にある大型のテレビをつけると、そこにはどこかの紛争地帯かと思わせるほどの映像が目に飛び込んできた。


 ビルは倒壊し、車は炎上すると人は逃げ惑いあたりは焼けこげたあとや破壊された道路などで、通行不能な状態が見て取れる。


 ニュースレポーターがヘリコプターのいる上空から地上へカメラを向けて放送を続けている。


 『緊急ニュースです』

 テレビのテロップには表示され、先の高校生の使う魔力砲のような似た物を出鱈目に放つ者がいたり、火球を乱れ打ちする者や風を扱う者などあれも彼もが好き放題に暴れている。


 何が起きたのか、まるで見当がつかないでいるとラピスがいう。

「ね。起きているでしょ。あのこたち魔力に目覚めたのね」


 まるで当たり前のようなそぶりを見せる。

 ヒロはもしやと思い背後にある大木へ振り返ると、ラピスはまた嬉しそうに言う。

「ピンポーン! 大正解! さすがあたしのヒロね。イヒヒヒ」


 ヒロは想像したことを言った。

「あの大木の何かが発生源となり、上空まで突き抜けて『魔法ウイルス』を散布しているわけか。あの大木自体にも魔法がかかっていて、気が付かないというおちか?」


 ラピスの声はますます弾んで答えた。

「ピンポーン! ピンポーン! 大正解だよ! さすがだね。もう結婚しよ?」


 それでも不思議なことは、ヒロ自身にはラピスの科学技術により手に入れた超振動だけだ。魔力だと思われるものは何一つないし、その兆候すら感じ取れない。


 これは自身だけのことなのかそれともリナやゴダード教授も同じなのか、気になったところだった。


 考え込んでいる時に、テレビではニュースレポーターの絶叫で思わず目をやってしまうと、二重に驚きヒロは声を上げる。

「リナさん!?」


 そこに写っているのは仮面をしていても明らかに、リナだとわかる姿の女性がいた。

 黒いファーがついたようなトレンチコートのような物をきて腕を組みながら、何か魔力の塊となる球体を放ち器用に操る姿が写しだされた。


 なんでそこにいるというよりは、魔力を器用に扱うのは元来の器用さからかとヒロは考察をした。

 威力や維持する様子から、先の光を放つ男子高校生よりも、威力も脅威度も高いと考えていた。


 そこでラピスは珍しく関心した様子を見せて言う。

「うん。なかなかね。短期間であそこまでできれば上々よ? ヒロの記憶にあるもう一人の人も恐らくはできるはずね」

 

 ヒロはその言葉を聞いたとき、改めて思ってしまった。

『自分は誰かに比べて劣る』研究もうまくいかないし……。今度は同じ条件のはずなのに魔法すら使えない。


 そこでヒロは口にしてしまう。

「やっぱり、俺は……」


 そこでラピスが割り込むようにして言う。

「ヒロ! ストーップ!」


 ヒロはなんだか突然のことで驚く。

「え?」


 ラピスは自信満々に、ヒロを元気付けるかのように言う。

「あたしがついているから大丈夫! 技術力見たでしょ? まだ他にもあるから楽しみにしていて」


 あまりの剣幕とまるで違う明るさに、ヒロはどこか気持ちが救われたような気がしていた。


 先の暴れた人らをみていると、ここまでは個人的な事情や話でも、世間や世界がこの現象を放っておくはずがない。


 再びテレビに目を映すと、リナやそのほかの者たちの周囲を軍隊が囲み始めた。


 このような事態になるのは、当然分かりそうな物だ。

 何を意図してリナはこの動きをしたのか、何か明確な目的がありかつ、勝利を確信しているとヒロの目には映る。


 そこでヒロは自身の推測を述べた。

「このシナリオはもしかすると、砲撃を浴びても無傷でいられる凄さを訴求してかつ、何かを集める宣伝をするのが落としどころか……」


 ラピスもヒロの考えに同調して他の推測する内容をいう。

「あたしも同じ考えよ? 多分宣伝ね。教祖にでもなるつもりかしら?」


 そこでヒロは合点行ったのか、理解したかのようにいう。

「なるほど、そうか!」


 ピスはヒロの推測した内容を促す。

「何か閃いたの?」


 ヒロは持論を述べた。

「前代未聞のこの力は誰しも不安だし頼りたくなる。そこで圧倒的な力を誇る教祖が現れたら……」


 ラピスはその後のことを予測しているかのようにいう。

「そうね、みな街灯に集まる虫のごとく有象無象がやってくるわ」


 ただヒロにはわからないことがあった。

「教祖になって何をするつもりなんだリナは……」


 ヒロは成り行きを見つめながら、固唾を飲んで見守るしかなかった。

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