友人Aについて

@HinokiKonnbu0707

現実的な貧乏

『貧乏』


あなたはこれを聞いてどんな家庭環境を想像するだろうか?


例えば小学生、給食費も払えず給食を食べない子供?それはそもそも学校通えないから違う。


継ぎ接ぎのパッチワークのクソダサお古を着ている?違うな、だとしたらイジメの標的まっしぐら、本人自身も恥ずかしくて不登校になっているはず。


正解は、普通に友達と喋る男の子Aだ。


普通に筆箱、教科書は一通り揃っているし、目が悪いからメガネもかけている。


習い事でプールも通っているし給食費も、母子家庭という特殊な家庭環境のお陰で多少免除は受けているが何不自由なく払えている。


そう、何不自由無いのだ。


細かいところを挙げていくとすると、このAくんは不自由無い生活を送っているのにも関わらず自分は貧乏だと感じている。


理由は色々だ。夏祭りでもらえるお小遣いが3000円だし、散髪は近所のスーパー内にある1000円カットだし、私服はいとこからのお古が8割、親がゲーマーだったお陰で多少ゲームソフトは買えていたが、それでも誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントにはある程度制限が付いていたのだ。


これだけ話すと、一部の人たちからは間違いなく、お前貧乏を舐めるなよ?と怒りを買うだろう。


それで良いと思う。


基準なんて人それぞれ、私はこれを貧乏だと思うし、当のAくんも貧乏だと言っていた。


私は、このAくんの友達、そうだな、B子とでも言っておこうか?私はAくんの小学生からの同級生、所謂幼なじみという奴だろう。


ずっと、ずーーーっと話し相手だった。


そんなAくんに対して私はずっと思うことがあった。


私は…………………コイツが嫌いだ。


どうしようもないくらいコイツが嫌いだ。


だけど、離れたくないんだ、突き放したくないんだ、コイツだけは。






これは、十数年、私という存在が見てきたAくんという友達がどういう存在か、これを見ている人に知って欲しく、私がその上で言いたいことだけを述べていく、ただそれだけの物語だ。
























先程も話したように、Aくんは自分の状況を貧乏だと思っている。だが、それに気付いたのは本当に最近のことだそうだ。


Aくんも私も現在すでに20歳、ようやくお酒が飲める年頃だ。タバコは吸っていない、互いに金の無駄だと知っているから。


だが自分が貧乏だと気付いたのは18歳後半、高校を卒魚してしばらくしてのことらしい。


Aくんは、多少家系が苦しいことは自覚していたし、単純に勉強はダルいから、そんな感じの理由で高卒で就職し働いていた。


就職を機にAくんは家族総出で引越しをした、引越しをしたのは立地も良く家もゆったり過ごしやすいアパート、日当たりが悪いのが玉に瑕だが、それでも社会人一年目としては立派なアパートだろう。


家族がいることを除けば。


そのアパートは、Aくん曰く、家族全員で生活費を折半することでなんとか住める場所らしい、おっと、Aくんの個人情報だし何人かは言わないでおこうか。


そこから、何となく察してはいたがAくんは自分で生活費を入れることで初めて、明確に我が家が貧乏だと言うことに気付いたらしい。


傍から見ていても実に滑稽である。


Aくんは社会人一年目の癖に、家に月9万円の生活費を入れている。


さて、ここで高いと見るか安いと見るかであなたの金銭感覚が分かってくるんじゃないかな?


まあ、大半の方はお察しの通り、それはもう半端な額じゃなかった。


Aくんは一年目にしては手取り17万後半とそこそこ良い額をもらえていたため多少貯金はできた。


できたはずだった。


だがAくんは、実家暮らしという甘え、そして実家暮らし故の出費を考慮せず、貯金をしていなかった。


Aくんは社会人になってからは、時間があれば食事は外食が多くなっていた。


Aくん曰く、学生時代の反動、とのこと。


分からなくもないかな、学生時代出来なかったことを社会人になりお金と時間さえあれば、それを実行したいと思うのは若者なら誰もが思うことだから。


別に外食だけならどうってことない、多少1~2万月の出費が増えるだけだ。


だが、Aくんには他にも出費があるのだ。生活費9万に加え、日々の通勤の交通費一万五千円、さらには普通免許を学生時代に取ってしまったが故の、自家用車維持費に一万五千円。


そこに追い討ちを掛けるのは、Aくん自身の決断、実は高卒初の就職場は、なんとブラック企業、深入りする前にAくんは転職を決めたのだ。


しかし、転職をしたが故の低賃金、これがAくんにとって最大の痛手であった。


転職後のAくんの手取りは15万前後、出費は月に確定で12万、ここに諸々の雑費を含めると、真面目に2万貯まるか否かのレベルだったのだ。


ここら辺でAくんはようやく自覚するのだ。


あれ?もしかして自分は貧乏なのではないか?と。


第三者である私からすれば、遅すぎる、能無しめ、そう思ってしまうような、流れるような転落っぷりであった。


かつては真面目な優等生、将来有望と呼ばれた期待の学生はもういない。


そこに居るのは、貧困、己の愚かさ、抜け出そうにもすぐには抜け出せない泥沼に泣き崩れる変わり果てた幼なじみなのだ。


Aくんは貧乏を自覚した際に、抜け出すためにどうすれば良いか考えた。結論から言うと、Aくんの低賃金に理由、そこにはAくんが契約社員であるということが1つある。


正社員になればまた数万円は給与が変わる、そんな希望を見つけたAくんは仕事のモチベーションを見つけることが出来たのだ。


そして今日、今私と話しているAくんは、悲しみの涙で酔い潰れていた。


理由は単純明快、Aくんはしばらくの間正社員になれないのだ。


Aくんが勤める職種は、詳しい内容は省くが正社員が転勤確実な仕事なのだ。


およそ一年間はおそらく転勤が無いとは言われたものの、そのおそらくが確定にならない限りAくんは金が貯まるまでここから動き出すことは出来なかった。


思い出して欲しい、Aくんの住む家は、、つまりAくんがいきなり正社員になり一人暮らしを初めてしまえば、残りの家族はいきなりジ・エンド、路頭コース確定特急である。


そう、つまりAくんは自身が一人暮らし用の資金を貯めることができても、家族がこの家から離れる資金を持たぬため、結果的にはAくんは単純に正社員になることが不可能なのである。


そして今、Aくんはここで泣いていた。やるせないこの世界に。


Aくんにとっては誰も悪くない、悪者等いないのだ。強いて挙げるなら、碌に貯金もせずにブラックに負けて転職をしてしまった自身を呪っているかもしれない。


ああ貧乏だ、貧乏は切ない。誰にも共感して貰えない、貧乏は辛い。そう繰り返しAくんは酒を飲む、涙を流す。見ているのが辛かった。





何故そうまでしてAくんは自分を攻めるのだ?少しは家族に当たっても良いだろう?






これをここまで読み進めているあなたはきっとそう思ったでしょう?


そりゃそうさ、一番近くで聞いてきて、一番近くで見てきた私が一番そう思っている。


でもできないのだ、Aくんは優しいから。どうしようもなく他人に甘くて、どうしようもなく自分に厳しい。


気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


私がAくんを嫌いな理由はきっとこういうところなのだ。Aくんは度を超えて優しいのだ。


Aくんの本性はそんなことないのに。この人はそんな人間じゃないのに。


昔から板に付いていて、すっかり抜け出せなくなってしまった、『優しい人間』というレッテルから逃げ出せなくなっているだけのただの弱い人間なのに。


Aくんは現実だけでなく、精神までも貧乏なんだ。誰かに嫌われたくないから、『親』、『姉弟』、『家族』という鎖が己を縛っているのだ。




















ああ、逸れてきてしまったな。


そう、Aくんは貧乏なのだ。ただ、その現実に泣いているだけなのだ。それ以上でも、以下でもない。


言いたい事、話したいことだけはそれだけだ。


ここまで読んだあなたは、共感してくれた物珍しい人間か、はたまた最後まで私を否定したい大層な心情の持ち主か。


ここからでは何も見えない、何も聞こえない私には分かりかねてしまうね。


ただ、1つ言えるのは、ここまで読んでくれてありがとう。君は相当、暇なんだねってことだけ。





じゃあ、おやすみ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る