五章 俺のほうがありがとう
第27話
その夜。早めに布団に入ったもののなかなか寝付けず、俺は寝返りばかり打っていた。
そろそろ寝ないとまずいよな。いま何時だろう、と思って枕もとのスマホに手を伸ばす。画面を明るくすると、いつの間にか通知が来ていた。
『ハル、明日、試合出るか?』
二時間くらい前だった。
どうせ寝られないしな、と思いながら部屋の明かりをつける。連絡は
また急な連絡だな、と思うけれど、俺にだって感傷的な気持ちがまったくないわけじゃないので、純平が連絡をくれた理由もわかる気がした。
『展開次第だと思うけど、出番がないわけじゃないと思う』
夕方の先生との会話を思い出しながら、返信した。敵同士なのであまり情報を提供するのは良くないだろうが、このくらいなら問題ないだろう。
それから眠くなるまでの暇つぶしに、最近図書館で借りた小説を読み始める。サン=テグジュペリの『人間の土地 堀口大學訳』。
純平からの返信は来ない。まあ、もう寝たのだろうと思って、俺も明かりを消して布団の中に潜る。目を瞑ってからのまどろみの中、ふっと思い出す。
『人間であるということは、自分には関係がないと思われるような不幸な出来事に対して忸怩たることだ』
有名な一文だ。
人間らしさとは、なんなんだろう。
そんなことが頭に浮かんで、自嘲する。なにを格好つけて、俺はいっちょ前に悩んでいるのやら。
きっと今日は疲れているのだ。
さっさと寝よう。
そして翌朝。スマホに設定しておいたアラームで目が覚める。やっぱり少し寝不足だなと思う。まあ、だからと言って起きないわけにはいかない。無理矢理目をこじ開けて、起き上がる。下に降りて、顔を洗ってそのまま朝食を済ませる。そして二階に戻ると、純平からの返信が来ていた。
『そっか』『投げ合えたらいいな』
バスを降りて球場に入る。
狭く天井の低い、薄暗い通路をぞろぞろと通り抜けていく。
「眠そうだな」と
「あまり眠れなくて」
「そうか。調子はどうだ?」
「まあ、いつも通りです。試合になったらまた変わるとは思いますけど」
「頼むぜ」
バシバシと背中をたたかれる。
ベンチに入ると、一気に視界が開ける。黒い土。外野にはきれいに整備された芝が広がっている。
ベンチ前に出てキャッチボールをしていると、相手ベンチの様子が目に入った。純平と目が合う。あいつは不敵にもにやっと笑ってみせる。俺はふいっと目をそらして、これといった反応を返さない。
そして、深く息を吸った。
いよいよだ。
七月二十六日。北九州市民球場。県大会二回戦。第一試合。
先攻は福岡南。後攻の西国の先発は、エースの
安住の投球練習が終わって、トップバッターの
続いて、「プレイ!」という審判のコール。
――試合開始だ。
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