【有能を追放する主人公】無能扱いしてクビにした魔術師が実は強く、手の届かない所へいってしまったので、打倒魔王を掲げつつ謝罪する資格を取得しようと思います。

矢凪川 蓮

解雇

第1話 クエスト

光は僅か。


 レンガ状に形成されている一室で、壁に何本もの松明が弱々しく辺りを不気味に照らす。まともに換気をしていないのか埃が充満し、俺は呼吸に違和感を覚える。


 だが、そんな些細な雰囲気や状況なんざ気にしている暇はない。なんせ目の前には石の塊の集合体のような魔物、ゴーレムの大軍がこっちをジーッと見つめているからだ。


 それもただの様子見じゃない。俺達にどのタイミングで襲いかかればいいかって観察しているだけだ。


 俺と同じくらいの背丈のゴーレムはパッと見二十は下らないし、大きなゴーレムは一体だが三倍以上の大きさ。


 それに比べてこちらは五人の人間ときた。

 青色の短髪と瞳、他の奴らよりも顔のパーツが良い。そしてリーダーであり勇者候補とも言われている俺、ベグド。

 スキンヘッドが特徴的で、凶暴に加えて力自慢だが仲間には優しく頼りになる巨漢な格闘家、ゴルド。

 綺麗な黒髪に高身長、性格はちとキツいがスタイル共に顔も美女で正確な射撃を得意とする弓使い、レネ。

 金色の髪を子供みたいに左右に束ね、喋り方も独特で少しイラッとすることもあるがパーティーに欠かせない優秀な女僧侶、ウラロ。

 そして支援魔法が主の魔術士、餓鬼みたいに小さく弱々しく、黒髪で目元があまり見えないロワン。


 ゴーレムから見ればさぞかし脆いパーティーに見えるだろうな。自分より小さく、遥かに脆い生物がたったの五人だ。だが、それでもゴーレムは攻撃してこない。

 そんな理由は俺達には分かりきっていた。俺達の自信満々な態度に加えて噂が魔王軍だけでなく、人間領地に隠れ住まう魔物にも広まってきたらしい。気分が高鳴るのを実感しながら、俺は奴らを鼻で笑い、背中に背負っていた大剣を取り出した。



「...さ〜て、今日も元気よくダンジョン攻略といきますか。前のオークの大群に比べると迫力は足りないけど、良い運動位にはなるだろ?」



 緊張感もクソもないような気軽な口調で俺は仲間に話しかけた。すると俺と同じく笑みを零していたスキンヘッドのゴルドが白い歯を見せながら答えてくる。



「ハハ!そんなこと言って、ヘマすんなよ?俺達は今この世界で一番期待されてると言ってもいいくらいに優秀なパーティーなんだ。その上勇者候補のお前がコケたら、良い笑いものだぜ?」



「分かってんよそんくらいは。墓石に入る時はせめて尊敬される英雄として入りたいからな。レネはどうだ?相手は石のゴーレム。お前の弓、通るか?」



 俺はレネを煽るように尋ねるが、彼女は逆に煽り返すかのように鼻で笑った。

 黒くて綺麗な髪を靡かせ、気が強くて反抗的、なのに美女...反則的な組み合わせだよな。



「当たり前でしょ?あんな程度のゴーレム倒せない程弱くわない。まぁ?足でまといの可愛い可愛いロワ坊やが、ビクビク小便チビっちゃったら話は変わっちゃうかもね〜。」



「キャハハハ!レネちゃんひどーい。ロワちん泣いちゃうよ〜?可愛そ可愛そ!うふふふふふ!」



 レネの悪口と追い討ちを掛ける金髪でくせっ毛の強いウラロの笑い声を受けた子供みたいに小さい黒髪のロワンは顔を暗くさせ、見てわかるほどにしょんぼりとした。

 まるで小動物、女に良いように言われない意気地無しで弱虫ロワン。反抗も出来ないバカ男の末路は哀れでしかないな。



「おいおい、その辺にしといてやれよ〜。そんな奴に構ってる暇はないだろ?さっさとこの仕事終わらせようぜ。

 おい、いつものやつかけろよ。」



 俺はゴーレムに目線を合わせ、手で合図をしながら指示をする。だが一向に変化はなく、俺は振り返ると、ロワンの奴が持っている古びた杖を女みたいにギュッと握って一丁前に悔しそうにしてやがった。俺はカチンときたね。



「おい!早くかけろよお得意の保護スキルをよ!それとも仕事放棄か?パーティー辞めたいのか?あ?」



 俺は苛立ちで怒鳴り出すと、ロワンは怯えながら杖を構えた。



「お...全強化オールグレード!」



 ロワンはスキルを唱えると、生み出された光の粒子が俺達を包んだ。力とやる気が満ちていき、いつもと同じ感覚だ。だが、俺はやる気に満ちても苛立ちは消えなかった。だからアイツに聞こえるように大きく舌打ちをしてやった。



「チッ...さっさとしろよ無能が。俺のおかげで辛うじて飯食えてんのにトロトロすんなよウスノロ。」



 そんなあからさまに悪口をしてもコイツは何も言えない。いつもビクビクして反論も何もない。そんなロワンに他の三人もクスクスと笑いがこぼれる。


 俺は間違ってない。間違ってたらコイツらだって反論するだろう。大バカはロワン、お前だよ。惨めに一生ビクビクしてんだな。


 俺は床に唾を吐き捨てると、体勢を低くする。これもいつも通りで、三人は俺に合わせて戦闘体形へと変わってくれる。本当によく出来た仲間だぜ。



「うっし....行くぞ!!」



 俺はそう言ったの同時に足に力を入れ、ゴーレム軍団に突撃する。俺の相手は当然小さい方のゴーレムで大きい奴は後ろでドンッと構えている。俺は思わず鼻で笑う。何故なら、どいつもこいつも変わらない戦法で全員負けてんだ。俺は勝利を確信するまでに至った。



「俺みたいな大物来たら、一番の実力者が来ないと駄目だろ?こんな雑魚は俺になんか勝てはしない。兵隊の浪費ってことに気付かないもんかね?ま、そこは流石魔物って所か。」



 呟きながら走る俺に、一番最初の犠牲者が目の前に来る。大きな石の拳で俺を倒そうとするが、俺はその腕ごと大剣で斬り砕いた。ロワンのスキルに加えて俺は魔法で肉体強化を得ている。こうなるとは当然だった。


 慌てふためいている馬鹿の首部分を斬り跳ね、俺は一番近いゴーレムに斬りかかった。

 俺の実力にビビったゴーレムは生半可な攻撃をしてくる。これも今までのヤツらと同じ、思わず笑い声が出そうになった。


 そして一体、また一体と殺していくと、俺に敵わないと感じたのか俺以外の奴らを狙おうとするゴーレムも現れた。その判断は遅すぎるし、無駄なんだがな。


 俺の後方にはゴルドが大股広げてゴーレムを待ち構えていた。俺が粗方の処理で、ゴルドの役割は近接が苦手な後衛の保護だ。


 ゴルドは動きはトロイが、タフネスと攻撃力は俺をも凌ぐ力を持ってる。俺が斬れるなら、ゴルドにとってもゴーレムは敵ではない。


 襲ってくるゴーレムの頭を殴り、両拳に嵌めてある道具に魔力を込めた。



「ハハ!派手に吹き飛べぇぇ!!」



 ゴルドはそう叫ぶと、間合いにきたゴーレムに力を込めた拳を放つ。その拳は大きくないものの威力は強く、硬いゴーレムを貫通させ一発でノックアウト。他のゴーレムも動揺していた。



「おう!今日も絶好調のようだなゴルド!」



「当たり前だ!こうやって活躍せんと、俺がいる意味無くなっちまうからな!パワー位はお前に勝たないとな!」



 パワー位くらいって、そのガタイから分かる頑丈さも取り柄だろうが。謙遜しやがって。


 俺はそんなゴルドを軽く笑うと、自分の真横に猛スピードで物体が飛んでくる。飛び抜けて行った方を見てみると、俺の近くに迫っていたゴーレムの額に弓が刺さっており、それは奥深くまで刺さっているのか一発でゴーレムは倒れる。



「ボーッとしてんじゃないわよ。危うく雑魚ゴームズに倒されるところじゃないの?鼻が伸びてんなら折って上げようか?」



「気遣いだけは受け取っとくわレネ。でも、少し位は攻撃受けても良いかもなって思ったんだよ。殆ど俺達無傷なんだからウラロの出番が無いからな。優秀な回復係なのに可哀想だろ?」



「そう〜?ウラロからすれば働かなくてもお金貰えるから全然いいよ〜?ほら、ちゃっちゃと片付けちゃって!もうお腹減ったよぉ〜。」



 戦闘中だと言うのにこの気の緩み様。一件、ロワンより使えないように見えるが、ウラロの回復魔法は凄いし、スキルもその回復力を二倍に引き出すんだから、腕なんて生えるレベルだ。正直、俺よりも優秀なんじゃないかって時々思う。



「分かったよ。さて、そんなウラロの為にもう遊びは終わらせるか...速攻で決めてやる。


 ....スキル・神速ゴッドラッシュ。」



 スキルを唱えると、俺の身体に青い光の粒子が付着していき、身体に負荷がかかるのと同時に力が漲る。

 ゴーレム達を睨みつけ、俺は足に力を踏み込んだ。いつもより何倍ものスピードで俺は次々にゴーレムを叩き斬っていた。手前から順々に斬っていくが、高速移動の最中見えたゴーレムはピクリともしない。

 当たり前のことだが、コイツらは俺のスピードについていけない。今も青い光が走ってる程度にしか見えないだろうな。


 俺は手下どものゴーレムを全て斬り伏せ、大きなゴーレムの足元まで来る。そこでようやく俺の姿を認識したのか、ゴーレムは声にならない唸り声を上げながら大きな拳を繰り出す。


 拳から放たれた風圧と振動でその威力は凡そ分かる。とてつもない威力だが、俺にとっては鈍すぎるし脅威ではなく、心地いい扇風機にしか思えない。


 大きなゴーレムを鼻で笑い、俺は奴の足に大剣を突き立て、そのままゴーレムの身体を走り登るのと同時に斬っていく。

 ゴーレムは石とは思えない柔らかさで剣には殆ど負荷を感じない。頭まで登り、飛び跳ねると、そんな柔らかいゴーレムを嘲笑いながら俺は奴の頭から一刀両断。


 大きなゴーレムは二つに割れ、力無く倒れた。


 スキルを引っ込ませ、俺は振り返ってみると、来た時以上の砂埃を巻き散らかせながら多くの石が転がっていた。

 そしてその先は俺の仲間達が俺を笑顔で待っていた。


 俺は身体をノバしながら、ウラロに近寄った。



「それじゃあウラロ、いつもの〜。」



「はいはい。魔法・回復ヒール。」



 緑の粒子は俺を包んでいき、スキルの副作用の身体負荷が取れていき、戦闘前の調子に戻っていった。



「ありがとな。それじゃあ、依頼完了ってことでさっさと宿に帰ろう。ウラロと同じく腹減った〜。」



 そう言いながら俺は仲間達と一人づつハイタッチをしていた。そしてロワンの方にも俺は向かい、差し出す。その行為にロワンだけでなく他メンバーも目を見開いて驚いていた。



「....何ボーッとしてんだよ。ほら、ハイタッチ。」



「え?...でも、僕はいつも....」



「いつもしてないから?そんなのどうでもいいだろ?俺達は仲間なんだから。ほら。」



 全然引いていかない手を見てロワンは戸惑いつつ、そっとハイタッチをする。超絶久しぶりの行為にロワンはニヤニヤとしていた。


 そんな事があり、俺達は自分達の住処へと向かっていった。そんな帰路で、レネが不満そうに俺に小さな声で話しかけてきた。



「アンタ、どういうつもり?急に優しくなっちゃって...変な正義感目覚めて善人ぶるつもり?」



 その問いに俺はニヤケ顔で返した。誰が見ても分かる悪巧み顔でレネもそれに安心していたように表情も柔らかくなった。



「....最後の最後には優しくしなきゃだろ?今夜はロワンとのお別れ会があるんだからな。」

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