奴隷エルフが、名状しがたき『何か』に見える俺は、手遅れなのだろうか?

読んで頂けたら、うれしいです!

第1話 目覚め ~奴隷エルフと白装束の巫女~

※この作品には過激な表現を含みます! ご注意下さい。


『避けろッ!!ロードレックッ!!』


頭に強い衝撃が走る。何かに強打されたようだ。視界が揺らぎ、膝から崩れ落ちる。

まずい・・・。体に力が張らない。ここで倒れるわけには行かないのに。

地面に倒れ伏したところで、視界を赤い液体が覆っていく。

脈拍の音が大きく聞こえる。

動け!俺の体!動いてくれッ!

俺の祈りも空しく、ジンジンと痛む体は、指先一つピクリとも動かない。

周囲で飛び交う悲鳴と怒号が、少しずつ遠くなっていく。

こんなところで・・・。俺は終わるのか・・・。



ひんやりと冷たい手が、俺の頬を撫でた気がした。


『たっぷりと可愛がってあげますね・・・。ふふっ』

ぼろ布をまとった金髪エルフの少女が、嬉しそうに笑うのにあわせ、彼女の長い耳が上下に動いた。

首につけた奴隷の証に手を当てた少女は、もう片方の手で、横たわる人間を、愛おしそうに撫でつづけた。



頭が殴られたように痛む。

私はゆっくりと目を開け、痛む身体を動かして周囲を見回した。

私は、両手を縛られて、たいまつで照らされた壇上に膝をついてる。

どうやら、怪しげな異教徒に囚われてしまったらしい。

頭がズキズキと痛むのは、この騒がしい人々の叫びのせいだ。


「イヤッ!イヤッ!クゥトゥルフ!」「イヤッ!イヤッ!クゥトゥルフ!」


何がそんなに嫌なんだろうか?

大勢の民衆が、私に向かって何かの呪文を懸命に唱えている。

上体を揺らして、一心不乱に祈っている姿は、南方の異教徒のようだ。

真夜中にもかかわらず、同じ言葉を何度も繰り返す男女の熱は最高潮に達している。

幻覚かもしれないが、熱心に抱擁を交わし、肌を重ね交じり合っているようにも見える。彼ら彼女らが着ている白い服は、夜にもかかわらず非常に暑そうだ。


どうなることかと、冷や汗をかいている私は、全然暑くない。

脱ぐなら私にも、服を一着分けてもらえないだろうか?

それに、服をはだけて絡み合う美男美女が眼前に広がるのは、目のやりばに困る。

いや、じっくり見ておくべきか?などと、現実逃避しながら、大きく深呼吸をする。


何とかして、ここから脱出しなければ。

身体は痛く、足は痺れている。手首の縄は固い。

覆面をつけた大男が持っているこん棒は、大きな斧か?

何だか赤い色が付いているが・・・。

あ、なんか研ぎ始めたぞ?


物思いにふけっていると、やがて、フッと静かになった。

大勢の人々がこちらを向いて押し黙る、異常な光景を前に急に不安になる。

何だ?何が始まるんだ?

かがり火だけが、夜をこうこうと照らす。

虫の声だけが、静かに広場に響いている。


異教徒たちの視線が怖い。この異様な静けさには覚えがある。

学校の授業で間違えたり、食堂で大きな音を立ててしまったときのようだ。

あれっ、私、なんかやっちゃいました?

テヘペロしたら、許してくれませんか?


壇上にきしむ軽い足音が聞こえ、何かが近づいてくる。

甘い香りがする。不思議ないい香りが体を包むような感覚がある。

ぼんやりとした意識の中で、何かが、私を覗き込んだ気がした。

恐怖に体がすくむ。目の前のモノは一体なんだ?人ではない、別の何か・・・。

何か恐ろしい存在に見つめられているように感じられ、足が震える。


行方不明になった教授が言った言葉を思い出す。

『深淵がのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ・・・。』

今は亡き、教授が視界の端に立っているような気がする。

教授、私に力を下さい・・・。


こんなところで、負けてたまるか!

私は唇をかみ、相手をにらみつけようとした。


私が相手の顔を見ようと、顔を上げると、そこには美しい少女がいた。

切りそろえた黒髪と大きな目から幼さを感じるが、通った高い鼻筋と、慈愛に満ちた表情から、聖母のような大人びた雰囲気がある。

身に着けた薄布からは、すきとおるような美しい肌と豊満な乳房がのぞき、妖しい魅力を放っている。


あまりの美しさに私はハッと息をのむと、気恥ずかしくなって、思わず視線をずらした。

こちらの気持ちを見透かしたように少女は優しげに微笑むと、


「今宵の生贄を発表しようッ!」


民衆に向かって、高らかに宣言したのであった。


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