アポカリスト ―終焉の学園―
志島余生
おまけ(Introduction)
◆予告編① —黒—
*こちらは作品の雰囲気を手っ取り早く知って戴くための予告編です。
宜しければ参考にご覧ください。
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「本、よく読んでるよね。面白いの?」
僕の問い掛けに、少女は首を小さく左右に振った。
「ううん。全然」
「えっ?」
「ほとんどの本はね、ほんとに退屈。でもいいの。退屈ってことは、それだけ幸せってことだから」
「へ、へぇ。そういう見方もあるんだね」
正直彼女が何を言ってるのかよく分からなかった。
だが不思議と心地悪くはない。
彼女は最初に出会ったときからこんなふうに世のなかすべてを達観したような不思議な言葉を言う。その言葉ひとつひとつが僕のなかで何度も反響してやまない。
うまく言葉にはできないけれど。
僕は孤児だった。
別に特別不幸とも不運とも思わない。物心ついたときからそうだったし、何より《鴉》——
親に棄てられた者、売られた者、貧しさから法を犯した者、特殊な体質や病気や事情を抱える者。そういう《ワケあり》を集めて化物と戦わせているのがこの島の、この学園だ。
《ワケあり》は仮にこの島から逃げたとしても、四方を囲む海を越えたとしても、行き場なんてない。
どこにも逃げ場はないのだ。
この島にはいつも濃い霧が立ち込めている。
この霧を見ていると僕はいつも妙に不安になる。焦燥に駆られると言うのだろうか。とにかく腹のなかまで霧が侵入してきたような、厭な気持ちだ。
何か霧の奥から得体の知れない化物が迫ってくるような——
——まぁ実際、その化物と戦うのが僕たちなんだけど。
だけど、それだけじゃない。
この霧の奥にいるのは。
何かもっと危険な——
「その、
「うん?」
「看ててくれてありがとう。救護班の仕事だとしても、嬉しかったよ」
「いいよ、お礼なんて」
「だけど僕の気が済まないんだ。何かお返し、みたいなことできないかなって……」
「へぇ。
「まぁその、僕にできることなんて、あまりないけど……」
「ズルい」
「えっ?」
「そんなふうに言われると、何もしなくていいよって言いづらくなっちゃうじゃん。沙垣君も結構ズルいこと言うなぁ」
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
「うん——分かった」
「じゃあ、お返し、待ってるね。必ず何かして」
彼女に出会うまで僕にはあまり人を好きになった経験がない。
もちろん気になるとか、付き合いたいくらいに思うことはあっても、僕にはそれがいわゆる一般的な「恋」とかいうのと同じか自信が持てなかった。
——好きっていうのはどういう基準で自信が持てるんだろう。
きっとそんなふうに思う時点で、ちゃんと人を好きになってはいないんだろう。
いつか何かの本——漫画に書いてあった気がする。ちゃんとした愛情を受けて育たなかった子供はちゃんと人に愛情を注げないのだと。
そんなことはないと思いたい。現に同じ《鴉》でも付き合ってる子たちはいる。
でももしかしたら——自分は人とは違うのかな、と思い始めていた。
そんな矢先に彼女と出会った。
もし。
彼女を見失うことがあれば。
自分はどうなってしまうのだろう。
そんなことは考えるのも嫌だけど。
「またね、沙垣君」
何気なく言って小さく手を振る彼女の顔が、いまも目に焼き付いて離れない。
彼女でなくちゃ駄目だ。
駄目なんだ。
そう分かっていたはずなのに。
あのときの自分に——
もっとその勇気があれば。
もっと。
——自分を信じることができていれば。
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※予告編は本編と異なる可能性があります。ご了承ください。
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