ビルの屋上からは銀河が見えた
十六夜 水明
光の海に身を委ねて
ある女の、眼下には宙に輝く星々をそのまま写し出したような煌びやかな都会の夜景が広がっていた。
そこは、高層ビルの屋上。
虚しくも彼女の瞳には、そんな輝く星の光は無く、絶望の色によって染め上げられていた。
『希望』なんて無い。
『未来』なんて考えらんない。
『パートナー』なんて居ない。
『全て』どうでもいい、どうにでもなれ。
『家族』なんて居ないも同然。
『友達』は仮面を着けていて、
『親友』には、裏切られる。
『彼氏』は、その親友と浮気し、結婚して2人して私との縁を切った。
在るのは『絶望』。
残ったのは幸せだった頃の『過去』。
何も知らなかった頃の『過去』。
思い残すのは、
『神様は私を捨てたんだ』
という神に対しての恨み。
『全て』に裏切られ、絶望したその人物は走馬灯のように、今までに遭った自身の不幸を、ただただ振り返っていた。
〖もう、全て壊れてしまえば良いのに〗
しかし彼女には、この世を壊すまでの力も、変えるまでの勇気も、もう手のひらから滑り落ちていて欠片も残っていなかった。
〖それなら、自分がこの世界から去ってしまえば、もう苦しくない〗
それなら簡単だ。と、結論付け、女は目の前パラペット(手すり)を乗り越えて、あと数歩進めば落ちるまでの場所で立ち止まる。
本当にここで終わってしまって良いのか?
もう、楽になりたいんだ。
悲しむ人が居るんじゃないか?
母親とか。
母親なんて居ない。
居るのは、私を産んだ女だけだ。
そんな自問自答を、ひたすらに繰り返し、女はやっと決心した。
1歩前に進む。
目の前には、都市部特有の蛍光灯やLED、街灯。繁華街のネオン。
まるで、光の海だ。
これが、人生最後に見る光景なら文句はない。
そう最期に満足そうに、微笑んだ女は、もう1歩前に歩みを運ぶ。
そこには、足の踏み場は無く下には光の海が広がっていた。
艶など一切無い枝毛ばかりの髪を下からの風になびかせ、着古し色褪せた服で空気抵抗を受けながら……………。
その色褪せた服は、かつて彼女の彼氏が「可愛いね」と言ってくれた、綺麗な空色のワンピースだった。
そして───────。
女は、光の海へと落ちていった。
まるで、これからの全てを委ねるように───────。
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