第19話 アーバンを攻略したいメルラ
醤油ができるまでの発酵期間のあいだ、メルラはアーバンを追いかけ回していた。旦那様は諦めたようで、アーバンにまとわりつくメルラは、厨房でちょこまかと動き回り料理人達の邪魔をしていた。ゲーム設定のヒロインにしては空回りが凄まじい。
「なんで、メルラが厨房にいるのですか?」
私は料理長アーバンに問いかけた。
「メイド長兼侍女長マリッサから『メイドとして使えないし、料理が得意だと本人が言うので料理長にあげる』と言われました」
アーバンはそう言いながら、迷惑そうに舌打ちをしていた。アーバンもメルラには見向きもしない。周りのコック達は骨抜きになっているけれどね。
メルラが野菜を洗おうとすると、若い見習料理人のブレットが代わりに野菜を洗い、それを切ろうとするメルラを中堅料理人モリスが代わりに切る。
「なぜ、メルラの仕事を奪うのですか?」
「あらぁ~~、奥さまぁ~~。だってぇ、水は冷たいしぃ包丁で手を切ったらぁ、大変だからですわぁ~~! もちろん揚げ物もぉ、顔に跳ねたらシミになっちゃうぅ~~」
「メルラは厨房には向いていないわね」
「えぇ~~、どうしてそんな意地悪を言うのですかぁ~~? 酷いぃ~~。アーバン様、奥様が間違っていますよねぇ~~?」
「そうですね。奥様の今の言葉は間違っていますね! 厨房には向いていないのではなくて、真面目に働くことに向いていないのですよ。こんな性根では、なにをさせてもうまくいかないでしょうね」
「うんうん。ほぇ? どういう意味よ?」
ぷぅと膨れるメルラは子猫のように愛らしくて、それに加えて色っぽさもある。厨房の男達はデレデレとしているから、天性のキャバクラ向き女性と言えるのかも。
ゲームのメルラは清楚系カスミソウだったはずなのに、容姿もかなりズレがあるのよね。やはりここはあのゲームの世界とは違う、もう一つのパラレルワールドなのかもしれない。
「邪魔だから、鍋やフライパン磨きでも隅っこでしていてよ。あ、手伝った奴は減給な! いいですよね? エメラルド奥様」
「いいけど。アーバンはメルラを見てなんとも思わないの? そこの見習いのブレッドなんて目がハートよ」
「全くなにも感じませんよ。エメラルド奥様の前では、どんな女も平凡すぎます」
嬉しいけれどその時のメルラの顔が気になった。可愛い顔を醜くゆがませていたのよ。嫌な予感がした。おかしなことを企んでいなければいいけど・・・・・・
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