第15話 豪邸すぎるタヌキの屋敷

 楽しい昼食が終わって皆で食後のお茶を飲んでいた。お腹もいっぱいになったところだし、お仕事再開だわね。


「さて、今から早速、タヌキの家に行きましょう!」

 私は声も高らかにそう宣言した。


「げっ! なっ、なんでそうなるんですかぁ? 一緒に昼飯を食べた仲でしょう? 私はすっかり許されたと思っていました」


「あぁ、同じ釜の飯を食べた仲だと言いたいのね? でも残念。釜の飯とは言っても今日はお米がなかったし、私はそんなことでうやむやにはしないわよ。タヌキ家のお宝を差押えに行きます」


「そ、そんな。宝なんてありませんよ。古いだけの骨董品が、ほんの少しあるだけです」


「まずは見せていただきましょうか? 案内してくださいね」


 涙目のタヌキの背後で、メルラがつまらなそうに左手にしていた指輪を、右手で無造作に回していた。この仕草がどこか懐かしい気がしたけれど、その時はどうしても思い出せなかった。



☆彡 ★彡


 

 タヌキの邸宅の玄関には、豪華な金細工が施された大きな門があった。門の両側には金箔が施された柱が立っている。門をくぐると緑豊かな景色の中に、美しく整えられた小道が続いていた。小道には石畳が敷かれ、その両側には季節の花々が咲き誇っていた。さらに歩を進めると、錦鯉の泳ぐ池が現れる。庭園の一角には、風情ある座り石や小さな滝まで作られていた。


 邸宅の内部にも金箔を施した装飾品や彫金が施された家具があり、隣接する倉にはたくさんの骨董品が所狭しと保管されていた。着服したお金でずいぶんと無駄遣いをしてくれたものだと、腹立たしい思いがした。


 数年前に嫁に行った娘がいるが、今は奥様と二人暮らしだという。なのに、この屋敷の広大さはいくらなんでも欲張りすぎだ。悪いことをして簡単に金銭を手にした人間は、どうしてこれほど思い切って使えるのだろう? 浅ましいことこの上ない。


「まぁー!! ずいぶんと趣味を堪能しましたのね? 倉にある全ての骨董品は差押えます。それからこの屋敷は早速、売りに出しましょう。こんな豪華な屋敷などタヌキには不釣り合いです」


「まぁ、人の屋敷にずかずか、いきなり乗り込んできてなんの騒ぎですか?」

 タヌキの夫人が私を胡散臭そうに睨みつけた。


 私の衣装や態度で、自分より身分が上だとなぜ気がつかないのか・・・・・・残念な頭の夫人は無視しよう。


「この屋敷は必死に働いて購入した、私の生き甲斐なのですよ。どうか、売らないでください」

「却下です! 生き甲斐なら他に見つけなさい」


 私は今にも泣きそうなジョーセフに淡々と言い返した。横領したお金で購入した、贅沢過ぎる屋敷をそのままにしておけるわけがない。エリアス商会の会長といえば偉そうだけれど、前世の感覚で表現すれば雇われ店長。身分不相応すぎて震えがくるわ。

 

「ジョーセフさんの奥様、初めまして。私はエリアス侯爵夫人ですわ。あなたの夫は横領罪と、王妃殿下に関する詐欺罪を働きました。治安守備隊に通報しない代わりに、横領したお金を返していただきたいの」

 

 事の経緯を詳細に教えて差し上げると、タヌキ夫人は真っ青になって懇願してきた。


「お願いします。なんでもしますから、治安守備隊だけには通報しないでください。娘は嫁ぎ先で幸せに暮らしています。こんなことが公になったら離縁されてしまいます」


 そうよね。娘さんまで不幸にするのは可哀想だ。だからと言って無罪放免にはしない私は、この奥様になにができるかを尋ねてみた。


「奥様の特技はなんでしょう?」


「私のことはどうかロンダと、呼び捨てでお願いします。特技・・・・・・えっと、あの池の錦鯉は珍しい品種で、繁殖が難しい高価なものです。ですが、私が大事に育てて一匹も死なせたことはありません」


「それはすごいわね? だとしたらもっと大きな池を作って繁殖させ、ロンダを責任者にし、エリアス侯爵家の事業に取り入れましょう。あのような魚を池で泳がせるのを、ステータスとするお金持ちさんは、たくさんいますからね」

 私は自然と微笑みが顔に広がった。ロンダに最適な職場を与えお金を返済させる。能力を発揮させて楽しく働いてもらおう。そして、それはエリアス侯爵家の新たな事業に繋がり、いずれ大きな利益を生むだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る