第7話 終わりの始まり

「分かりました。条件を飲みます。ただし、朱音と桑野先輩に罰を与えてからです」

「そうね。このままというわけにも……いかないものね」

「はい。解決するまでは待っていてください」


 俺を心配そうに見つめる瑠海さん。大丈夫……俺は大丈夫だ。

 精神的にはだいぶ追い詰められたが、瑠海さんの笑顔に救われた。

 それに、朱音との関係をきちんと清算したい。


 無事に終わったら……俺は瑠海さんと暮らす。


「困ったことがあったら、なんでも言って。私を頼ってね」


 うなずくと瑠海さんは、俺の頬を優しくでてくれた。それから、抱きしめてくれた。香水と匂いと柔らかい感触が包む。

 憎しみと悲しみ、そして怒りに荒れていた心が穏やかになっていく。


「ありがとうございます」

「いえいえ。……あ、そうだ。隼くん、ごはん食べていく?」

「いいんですか?」

「もちろんよ」


 手を引っ張られ、俺はお言葉に甘えることにした。

 そうだ。どのみち、将来的には瑠海さんと一緒に暮らすのだから、なんの問題もない。


 数十分後、瑠海さんの手作り料理がテーブルの上に並べられた。



 ご飯にお味噌汁、ハンバーグも。この短時間で凄いな。

 さっそく食べてみると……美味い。


「瑠海さん、凄く美味しいです!」

「よかった。マズイって言われたらどうしようかと」

「こんな美味しい料理を食べられるとか幸せですよ」


 千城先輩は、こんな美味いご飯を毎日食べていたのか。羨ましいな……。って、俺もこれからは食べられるのか。


 それにしても、千城先輩はいったいどこで何をしているんだ……?


 そんな俺の心境を悟ったのか、瑠海さんが説明してくれた。



「そうだったわ。千城ね、友達の家にいるって」

「行方が分かったんですね」

「うん。しばらくは帰らないって……」

「いいんですか?」

「あんなことがあったし、それにね……」

「それに?」

「ううん、なんでもないの」



 瑠海さんは何か言いたげだった。聞くべきか悩んだが、俺は追及しないでおいた。


 晩御飯を残さずいただき、お腹が満たされた。

 そろそろ帰るか。



「それじゃ、今度こそ」

「帰り道気を付けてね、隼くん」

「はい。では、また」



 玄関まで見送ってくれる瑠海さん。俺は手を振って別れた。



 帰り道を真っ直ぐ歩き――家に到着。



 朱音はそろそろ帰ってきているだろうか。

 今度はもう騙されないぞ。

 あの笑顔にも、言葉にも……なにもかも。



 玄関の扉を開け、俺は静かに中へ。

 朱音の靴は……ある。



 あれ、こっちの靴は誰のものだ?



 来客……?

 いや、こんな時間帯にありえない。

 まあいい、朱音はもう家にいるようだな。


 警戒しつつも俺はリビングへ。



 …………む?



 なにか気配を感じる。

 きっと朱音だろうけど、でも、なにかおかしい。



『…………』



 声が聞こえる。

 耳を澄ましながら、俺は扉の隙間から覗いた。すると――。



『…………せんぱいっ』

『どうだ、朱音……?』

『せんぱいの……お兄ちゃんのよりも……気持ちいです……』



 ま、まさか……。

 ソファで全裸になっているのは……朱音か……?


 あの男は……!

 相手は桑野先輩だ……。


 最悪だ。

 学校の部室だけでは飽き足らず、俺の家でも好き放題しやがって。


 もういい、よく分かった。



 俺はいったん家を出て、家の外へ。

 瑠海さんから教えてもらった桑野先輩の母親の番号に掛けた。少しして、電話は繋がった。



『――はい、桑野ですが』

「自分、大島と申すものです」

『大島さん? 誰ですか?』

「息子さんの知り合いですよ」

『息子の……ですか』

「はい。彼が犯罪に関わっているようなのです。ちょっと来てもらってもよろしいでしょうか?」

『わ……分かりました。どこへ行けばいいですか?』


 俺は住所を伝えた。

 桑野先輩の母親を呼び出すことに成功した。


 数十分後、車で来たらしい桑野先輩の母親が合流した。



「こんばんは、桑野先輩のお母さん」

「あ、あの……息子はどこに?」


「俺の家ですよ。妹とよろしくやっているようなので、まずは注意してやってください。で、俺から巻き上げた金を回収して欲しいです」


「え、え……!? そんなことが!?」


「はい。さっきは犯罪と言いましたが……まあ、俺も鬼ではないです。お金さえ戻ればそれでいいですよ」



 ――なんてな、そんなことで許すわけがない。とりあえず、桑野先輩の母親に状況を知ってもらい、金は全額回収する。まずはそこだ。


 母親と共に中へ向かう。


 リビングへ入ると……二人はまだ交わっていた。



「ご覧の通りです」

「……なんてことなの」


 ショックを隠し切れない桑野先輩のお母さん。

 我慢ならなかったのか部屋に突撃してしまった。



全宏ともひろ!! なにをやっているの!!」



 息子の名前を叫ぶ母親。

 二人ともビックリし、慌てていた。全裸で。



 ……フ。


 フハハハ、これで朱音も桑野先輩も終わりだ……!!

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