ハンバーグ

平 遊

第1話 

「ほんと、旨いよ!」


 彼女はお世辞抜きに料理がうまい。完全に、胃袋をガッツリ掴まれた感じだ。本人も料理は好きだと言っていた。


「大げさ~!ただのハンバーグだよ?まぁ、今日はちょっと変わったお肉使ったけど」


 ニコッと笑い、彼女は言った。


「いい鹿肉をお裾分けしてもらったの。でも、あなた鹿肉食べ慣れてないでしょ?だから、豚肉と合わせてハンバーグにしてみたのよ」


 彼女は友人にハンターがいるとのことで、度々ジビエ肉を手に入れているようだ。

 休みが合えば、友人の狩りにも同行し、解体処理等の手伝いもしていると言う。

 一方で、あまりジビエ肉に触れる機会が無かった俺は、ジビエ肉を敬遠していた。だいぶ以前に食べたジビエ料理が、この上ない程獣臭くて、食べられたものでは無かったのだ。

 けれども、彼女が調理してくれるジビエ料理はどれもこれも旨かった。多少のクセはあるとは言え、そのクセさえもアクセントになってしまっている。

 彼女曰く、迅速且つ的確な後処理のお陰らしいが、彼女の料理の腕前もあるのだろう。


「どう?鹿肉」

「何にも違和感ない。ただただ旨い」

「よかったぁ!今日はね、解体と後処理も手伝わせて貰ったの。後処理が悪いと、やっぱりすごく獣臭さが残っちゃうんだって。気にならないなら、大成功だね!」


 俺はダックスフントとブルテリアをそれぞれ1匹ずつ飼っている。普段はリビングのケージに入れているのだが、彼女が来た時だけは、ケージごとリビングの外に出すことにしている。

 その、リビングの扉越し。2匹の吠え声が途切れること無く続いている。

 なるほどそのせいかと、ようやく納得がいった。

 もともと、うちの飼い犬と彼女とはとても相性が悪いらしい。彼女は犬が好きなようなのだが、一度ブルテリアの方が彼女の手にガッツリ噛みついてしまい、慌てて病院に連れて行ったことがある。その後も彼女はなんとかうちの犬と仲良くしようとしてくれているらしかったが、犬たちは彼女には一向に懐くことがなかった。

 それを差し引いても、今日はいつにも増して酷いと思っていたのだが、きっと、鹿の血の匂いが彼女に染み付いてしまっているのだろう。ダックスフントもブルテリアも狩猟犬だ。血の匂いに反応してしまっているに違いない。

 たまにしか顔を合わせない隣に住む老夫婦には、尻尾をブンブン振ってじゃれつく位に懐いているというのに。まったく、困ったものだ。

 ここはペットOKのマンション。多少の防音設備は整っているだろう。それでもこうずっと吠え続けられていたのでは、そのうち騒音の苦情が入りかねないし、なにより俺がこの煩さに耐えられない。

 彼女と一緒になるには、あの子たちに彼女に馴れてもらうしかない。

 もしくは、残念だが彼女と一緒になることは諦めるか……


「ほんと旨い。マジ旨い!肉々しくて最高!」

「そんなに喜んでくれるなら、また作るよー」


 嬉しそうにカラカラと彼女は笑った。

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