第15話 外交役
「サラマンドとオンディーヌの関係が悪化しているという話は知っているか?」
「はい」
父上はオンディーヌを快く思っていない。
事あるごとにオンディーヌに対して蔑む言葉を吐き捨てているのを何度も聞いている。
「うむ。実はサラマンド国王ヴァルカンは近々オンディーヌに戦争を仕掛けるつもりらしい」
「な、何ですって?!」
「すでにかなりの兵力を国境沿いへ集めているとの情報が入った。教えてくれたのは他でもないウェンディなのだが」
サラマンドが戦争・・・?
本気でそんな事するつもりなのか?
「もちろん、ヴィンセント様の安否確認もありましたが、個人的に『
ウェンディは俺の前に跪いた。
「私は国の重要機密を漏らしました。情報漏洩は国に対する裏切りであり許されない行為。如何なる処罰も受け入れる覚悟はあります。この裏切り者の首を持ってヴァルカン王の元へお帰り頂ければあるいは、貴方様の追放を取り消してくれるやもしれません」
「顔を上げてくれウェンディ。むしろお礼を言いたいくらいだ。君はその身を危険に晒してまで行動してくれた。俺はその行動が間違っているとは思わない」
「ヴィンセント様・・・」
手を差し伸べウェンディをそっと立たせる。
「俺はもうサラマンドに未練はない。父上やヴィゴーのことは今でも恨んでいる。ちょうどいい機会だ。ここで父上の野望を打ち砕いて俺を追放させた事を後悔させてやる」
サラマンドのやり方は間違っている。
父上の下らない私欲のために戦争なんか起こさせてたまるか。
「ちょ、ちょっとヴィンセント! もしかしてサラマンドとやり合う気なの?!」
「おう。今決めた」
「今決めたって。そんな簡単に・・・」
不安を滲ませるフランを尻目に、ノーランド王に視線を送る。
「はっはっはっ! さすがはヴィンセント王子話が早い! お前たちには引き続き俺の補佐役として働いてもらおうと思っている」
「オンディーヌへ出向き、このことを伝えれば良いのですね?」
「さすが察しがいい。お前たちには、シルフィードの代表ギルドとしてオンディーヌ国王アリス・アダムスに謁見し、戦争抑制を呼びかけてもらいたい。言ってしまえばシルフィード外交大使だな」
「それは構わないのですが移民した俺たちが代表でいいのですか? この国にも歴史のあるギルドは多いと思いますけど」
「もちろんその通りなのだが、見ての通りこの国はサラマンドのような軍事国家ではなく経済に寄せた工業国家。恥ずかしい話ではあるが、S級クエストをこなせるお前たちのような腕の立つギルドや兵は少ないのだよ」
それもそうか。
この国は飛行艇産業で経済的に豊かになった側面が大きく、その用途から他国とのパイプ役になることが多かった。
だからこそ他国と良好な関係を築き上げ軍事費を削減する代わりに商業を特化させてこれたのだろう。
「中にはわたくしの率いる『金色の薔薇』のような兵士として訓練・実践を積んだギルドもありますが、その数はとても少ないのです。あまり大きく言えないのですが、シルフィードは工業国家という文化から国王と交渉できるような礼節を弁えた者も多いとは言えない。そして、多くが冒険者や一般魔導士で構成された組織で、戦いに関してはアマチュア同然」
「とはいえ、それでもこの地で育った人々が大半を占めます。有事の際には地の利を活かせるという意味も含めて、彼らには一人でも多くできる限りシルフィードに留まって欲しい。ノーランド王はそのように仰いたいのではないかと」
「はっはっはっ! 全くもってお前の言う通りだローズ! ぜひ俺の元へ戻りその手腕を発揮して欲しいものだ」
「丁重にお断り致しますわ。業務外のことまでお世話しなければならないのは勘弁ですから。それに、今のわたくしには『金色の薔薇』の皆もいますしね」
一国の王に即決。
二人の間にはそれだけの信頼関係があるんだな。
あれ?
それはもしかしてアルバートに仕事を投げっぱなしになるのでは?
彼の泣いて肩を落とす姿が目に浮かぶな。
「聞く限り状況はかなりひっ迫しているが、可能な限り穏便に収めたいのが本音だ。俺たちも争いなんて望んじゃいない。シルフィードはサラマンドと友好的であるが、オンディーヌとの関係もいい。立ち位置としてはノームと同じ中立だ。しかし、行動次第ではその関係性が一気に崩れる可能性は十分考えられる」
「・・・責任重大ですね」
「もっとも、追放された身とはいヴィンセント王子は王家の人間だ。堅苦しい雰囲気にも慣れているし余裕だろ? 適任だと思ったんだよ」
「戦争が始まるかもしれないんですよ?! そんな簡単に」
「はっはっはっ! そんな気負うな王子! なるようになるさ!」
だからそんなに強く叩かないでくれって。
痛いんすよほんとに。
「でもどうやってオンディーヌまで行くの? 早く伝えてあげたいけどここからだと反対側だし、船で行くにしても時間が掛かっちゃうよね」
「案ずることはないぞ可愛子ちゃん。我が国自慢の飛行艇を使えばオンディーヌだろうがノームズだろうがひとっ飛びなのさ」
可愛子ちゃんて・・・
ノーランド王って見た目はすごく若いのに言うことがおっさん臭いな。
今どき可愛子ちゃんなんて言われて喜ぶ女の子なんていないと思う。
「ねーねーヴィンセント! 可愛子ちゃんて可愛いって意味だよね?! やっぱり私って可愛いんだ♪」
ここにいた。
「ノーランド国王! 大変です!!」
勢いよく扉が開かれ一人の兵士が息を切らしながら走ってきた。
「どうした。何かあったのか?」
「ま、魔物がっ! 大量の魔物の群がシルフィードに向かっています!!」
「何だと?!」
「こちらです!」
俺たちは突然のことに戸惑いながら兵士の後を追い王の間を飛び出した。
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