第22話 元カノと結婚式

 これまでに各国では勇者パーティーが結成され、魔王討伐の旅に出発し、魔王と激戦を繰り広げたというのはこの世界の常識だ。


 栄えある勇者パーティーの一員になったというのに、僕は級友の結婚式に参加するためにパーティーを一時離脱した。


 そんなことある……!?

 僕だけこんなことしていいの!?


 レイヴたちは、ゆっくり先に進んでいるから追いついて来い、と言ってくれたけど罪悪感が半端なかった。

 とはいえ、参加を表明したからにはドタキャンはできない。


 結婚式会場付近までは影魔法で転移して、正装に着替えてから徒歩で会場まで向かう。そこには見知った顔が勢揃いしていた。


「ユウじゃん! リタが来るなら、やっぱりお前も来るよな。お前らまだ付き合ってんの?」


 級友の一人が僕を見つけて声をかけてくれた。


 鎌を掛けられているのか。それとも純粋な質問なのか。

 先に到着しているリタがあることないこと言いふらしていなければいいけど……。


 彼の質問は華麗にスルーして、実家に送られていた招待状を持って受付へ向かう。

 受付では元クラスメイトのマドンナが手際よく招待客の対応をしていた。

 

「ユーキくんは何の仕事をしているの?」


 あー、僕? 勇者パーティーの一員なんだ。

 知らないかな。ワレンチュール王国の新しい魔王を討伐するために勇者一行が出立したって話。あれの一人が僕。


 ……なんて言えないよなぁ。

 今思い出したけど、他言した時点で僕の首が飛ぶんだよなぁ。

 今更、遅いんだけど。


「学生の頃から志望していた暗殺者アサシンになったよ」


「そうなんだ、おめでとう! 私は回復術士のギルドで受付やってるから今度遊びに来てね」


 ちょっとした同窓会気分で元クラスメイトたちと話していると、遠くの方で女性陣と雑談しているリタと目が合った。

 誰にも見られないように腰の辺りで小さく手を挙げた彼女にそっぽを向きながら、同じように手を振り返す。


 そういうところなんだよなぁ。


 今日のリタは落ち着いたお洒落な色合いのドレス姿で、いつもの派手さはないもののとてつもなく可愛い。


 鼻の下が伸びないように自分と戦っていると挙式が始まり、悔しくもミネコルの晴れ姿を目に焼き付けることになった。

 続いて披露宴。これもまた、小洒落た料理とゲストを楽しませる余興が絶妙で、終盤は家族だけではなく、友人たちも涙を流していた。


 端的に言うとミネコルの結婚式は完璧だった。

 ミネコルのくせに、と嫉妬してしまうほどで、差を見せつけられたような気がして少し焦った。


◇◆◇◆◇◆


 披露宴終了後、しっかりと二次会にまで連れて行かれてしまった。

 もうヘトヘトだけど、早くレイヴたちを追いかけないといけない。


 一度家に帰って、いつもの暗殺者スタイルに着替えようと歩き出した時だ。

 僕のスキル【危機察知】のアラームが鳴った。

 強大な力を雑に抑え込んだような魔力だ。酔っ払っているのか魔力制御がいつもよりもつたない。


「リタ?」


『二人だけで三次会しようよ』


 舌っ足らずな言葉で脳内に直接語りかけるなんて、これは緊急事態だ。


 過去に初めてリタがこの連絡手段をとったのは、彼女の父親である北の大魔王様に挨拶に行った時だった。


 あの時は「右に避けて!」と言ってきたっけ。

 あと一秒でも忠告が遅ければ、あるいは僕がリタの言葉を信じていなければ、僕の体は真っ二つになっていだろう。


 あぁ……思い出しただけで吐きそうだ。


 展開していた影の転移魔法の魔方陣を解除して、リタが指定した店へと向かった。


「乾杯」


 最高に気分の上がらない乾杯だ。

 披露宴の乾杯は場のノリもあって一時的にレイヴたちのことや極秘任務のことを忘れていたけど今は違う。

 罪悪感が僕の両肩どころか、頭の上からのしかかってくるような、どんよりとした気分だった。


「良かったねー、結婚式」


「うん。あのミネコルの結婚式ってのが腹立つけど。あれは良かった。僕の涙腺も少し緩んじゃったよ」


「結婚式、挙げたくなった?」


「さぁ、どうだろうね。まずは相手探しかな」


「隣にこんな美人がいるのに、そういうこと言うんだー」


 ニヤニヤを通り越して、ニタニタ笑うリタはカクテルの入ったグラスを指でなぞりながら上目遣いで僕を誘惑してくる。


「話、聞いたよ。勇者と王女の結婚って大変なんだねー」


「また盗み聞きか。やめなよ、趣味悪いよ」


「間者がいるかもしれないのに、ベラベラ話しをするのが悪いんだよー」


「僕をスパイにしないでよ。まだ、ギリセーフだよ」


「いやいや。完全にアウトでしょー。簡単に敵の親玉の誘いに乗って、仲間との合流を阻止されてるんだよ?」


「それは、まぁ、うん。全面的に僕が悪いね」


 せっかく酔いが回って罪悪感が消えてきたというのに外野がうるさい。

 僕たちの後ろの席のカップルが僕たちを見て、何やら不健全な妄想を繰り広げていた。


 確かにフォーマルファッションで、引き出物を持った男女が二人きりで夜のバーに来ていれば妄想も捗るというものか。


「んじゃ、他のお客様のお望み通りに朝帰りするかー!」


 リタは勢いよく立ち上がり、僕の腕に自分の腕を絡めて、そう宣言した。


 豪快にお会計を済ませ、ヒールを鳴らしながら歩くリタに負けじとついていく。


 僕の家に転移するのかと少し期待していたら、彼女は宿屋へと進み、僕の期待を余裕で飛び越える展開が早々に訪れた。

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