第24話 勇者パーティーと魔王
無気力に朝帰りした僕を待っていたのは冷ややかな目線と突き放すような言葉だった。
「いつもと香りが違いますね」
合流後、早速近づいて来て僕の匂いを嗅いだイリスの一言に場が凍りついた。
しかも、「この匂いはただの宿屋のものではありませんね」などと付け加えるものだから、レイヴとゴーシュの目つきが鋭くなってしまった。
「重役出勤、ご苦労様です」
口元は笑っているのに目元が一切笑っていないイリスと、彼女に賛同する2人に対して平謝りすることしかできない。
全面的に悪いのは僕だ。
「友人の結婚式はどうだった?」
「最高だった。時間をくれてありがとう」
「いいんだ、ユーキ。まさか丸一日不在になるとは思ってなかったけど」
グサッ。
「そうだぜ、ユーキッド。おかげでオレ様の盾も新品同様の輝きだぜ。武器と防具の整備は基本だからな」
グハッ!
「さぞ、気分も気持ちも良かったのでしょうね。一種の同窓会ですもの。何があっても誰も文句は言いませんわ」
ガハッ!!
3人からの精神攻撃で僕のライフが大幅に削られた。
これから魔王城に乗り込むっていうのに、険悪な雰囲気ではダメだ。
僕は紙袋から取り出したお土産の品をそれぞれに渡した。
もちろん、結婚式の引き出物ではない。
装備すれば効果を発揮するブレスレット型の魔道具だ。それぞれの弱点を補える物を選んだつもりだけど、喜んでくれるだろうか。
「ありがとう、ユーキ。大切にするよ」
早速、身につけてくれているからゴミにはならずに済んだようだ。
あとは謝罪の気持ちを行動で示すしかない。
不思議と魔物とはエンカウントしていないけれど、ここから先は魔物も多くなるだろうし、魔人が出てきてもおかしくない。
いざとなったら迷いなく影魔法を使う。そう決めて先に進んだ。
しかし、道中現れるモンスターはレイヴたち3人の連携で倒せてしまっていた。
「あれ? 僕、要らない?」
「ユーキがいない間に戦い方を見直したんだ。ダメージを最小限にして、敵を倒す方法を模索した」
今日のレイヴは一撃離脱の戦法をとっていた。
古来より勇者とは一撃必殺の技を得意としている。
その豪快さと破壊力で敵を威圧し、味方を鼓舞するのが勇者のジョブに就いた者の役目だ。
しかし、レイヴは一身上の都合で勇者の必殺技を発動できない。それなのに、戦い方を変えていないから苦戦するのは当然のことだった。
レイヴとは反対に僕は多撃必倒を信条としている。一撃で仕留める時はそうするけど、強敵を相手にする時は絶対に無理をしない。
どれだけの時間や手数をかけたとしても、必ず倒し切るのが僕のモットーだ。
今のレイヴの戦い方はまさにそれだった。
彼が離脱し、無防備になる瞬間のフォローをゴーシュが請け負い、場合によってはイリスが回復や強化を施す。
この戦い方なら1対3の盤面で負けることはないだろう。
「ここにユーキが加われば、どれだけの魔物が一度に現れても進めるだろ?」
「いや、それは言い過ぎだよ。多勢に無勢の戦局で必要なのは、勢いに任せたド派手な一撃だよ。それが出来るのは
僕の影魔法にも限界はある。
いくら魔力を注ぎ込んでも3体の魔物の相手が精一杯だ。
「ないものねだりしてても仕方ねぇ。この4人でやるんだよ。そうだろ?」
ゴーシュが頼もしく見える。
相変わらず、イリスは不機嫌面だけど、今朝よりも自然に笑うようになっていた。
レイヴの勇者じゃない宣言以降からイリスの表情が豊かになったのは喜ばしいことだ。ただ、ギャップが大きくてまだ慣れない。
その後、ワレンチュール王国の北部にある魔王城に到達するまでには四天王を自称する魔人を2体倒した。あとの2体はいつまで経っても出てこないけど、失踪しちゃったのかな?
いよいよ、魔王城を目前にした僕たちは厳かな外観に圧倒された。
元々は立派なお城だったのだろう。バルコニーからは王子様とお姫様が仲睦まじく顔を覗かせても違和感がない。
「中は魔人がうじゃうじゃだろうな。骨が鳴るぜ。正面から乗り込んでやろう」
ゴーシュを先頭に魔王城の門をくぐる。
それぞれが背中を預け、四方八方を警戒しつつ先を目指した。
「おいおい。もぬけのからじゃねぇかよ!」
敵の本拠地の中心で叫んでも廊下に反響するばかりで、敵が襲ってくる気配はない。
罠なのか、それとも本当に敵がいないのか。
「油断するな」
「ちょっと見取り図を描いてくる。待ってて」
レイヴの冷静な声に気を引き締め直す。
廊下の壁で待機する3人から離れ、城内を見て回って簡易的な地図を作成してから戻った。
やっと暗殺者らしい働きができたことに少しだけ安堵しながらレイヴに地図を差し出す。
「この奥部屋が怪しいと思うんだ」
特に3人からの意見はなく、僕が示した部屋を目指すことになった。
途中にある小部屋や廊下の影も確認したけれど、一度も魔物や魔人と遭遇することはなく、たどり着いてしまった。
「よし、行くぞ」
「待って」
扉を開けようとするレイヴを止めて、一歩下がらせる。
本当にこの先にリタがいるのなら扉を開けた瞬間に殺される。死ななかったとしても致命傷は避けられない
「僕が奇襲をかける」
「そんなことができるのか?」
「外の壁を伝って部屋に入るよ。合図をしたら突撃して欲しい」
「俺たちは構わないが、危険だぞ」
「危険は慣れっこさ。暗殺者だからね」
「1人で仕留めるんじゃねぇぞ」
「ご無理はならないでください」
颯爽と城の窓から飛び出し、城の外壁を走って奥部屋の裏側へと回り込む。
影魔法で音を立てずに侵入することに成功した僕はダガーを構えて、待ち受ける人物を背後から切りつけた。
――行けるっ! この角度、完璧に死角を捉えた。いくらリタでも気絶させられる!
そう確信したはずなのにダガーは空を切り、僕の体は壁にめり込んでいた。
「忠告を守ったのは偉いよ。さて、一番最初に扉を開くのは誰かな」
漆黒のドレスを身にまとい、頭から角を生やしたリタが僕を見下ろしていた。
「行くぞ!」
開いた扉の向こう側からレイヴたちの威勢の良い声が聞こえ、ゴーシュの盾が見えた。
僕が壁に打ち付けられた音を、僕からの合図だと勘違いしたレイヴたちが突撃してきたのだ。
「来るなーっ!!」
声を張り上げると全身の骨が軋み、激痛に襲われた。
しかし、邪悪な笑みを浮かべ、右手を振り上げたリタを放っておけない。
こんな近距離への転移は初めてで、つぎ込む魔力量が分からない。それでもとっさに影の転移魔法を発動させていた。
リタの爪から放たれた一撃と僕の影から出た爪がぶつかり合い、衝撃波が魔王城全体を揺らした。
「ユーキ!?」
「せっかちすぎるよ。まだ合図してないって」
レイヴが指示するよりも早く、イリスが回復魔法を施してくれたことで軽口をたたけているだけで気絶一歩手前だ。
「おいおいおいおい。マジかよ」
ゴーシュが後ずさるなんて初めてだ。
ベヒーモスにも魔人にも臆さずに突っ込んでいく猪野郎なのに。
息を整えて顔を上げると、僕以外の全員が魔王城の奥部屋で待っていた城主の姿を見て硬直していた。
「あー、悪いけど、僕が一番初めに夢を叶えてさせてもらうよ」
呆然と立ち尽くしている3人は視線だけを固定して、ぎこちなく顔だけを僕の方に向けた。
「言ってなかったけど、
彼らの視線の先には魔王が立っている。
その姿はさっきまでの魔人に近いものではなく、「ユウくんの元彼女です」とおちゃらけて自己紹介した時と全く同じものだった。
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