第5話


 2人は顔を合わせる。


 一瞬固まったように間を置いて、尋ねてきた。



 「…その、母さんって言うのは?」


 「は?…えっと、母さん…?」



 母さんを見る。


 呼んだら、変な顔をするのはなんで?


 それに私のことを見て、「祐輔」って言うのは…?




 変な違和感が、体にあった。


 なんでこんなに、ゴツゴツしてるの?


 その感覚は指先にあった。


 こんなに腕が太かったっけ…?


 っていうか、なんで男物の服を…?



 手のひらを広げてみる。


 ぶかぶかのズボン。


 身につけた覚えのないミサンガ。




 「…え…、嘘でしょ…!?」


 「どうした!?」



 …髪が、…無い!?


 …え、なんで!!?



 すごくゴワゴワしてるというか…、なんでこんなにツンツンしてんの…??!


 前髪も後ろ髪もなかった。


 “無い”というか、なんでこんなに短く…!?



 「…あの、すいません。鏡はありますか??」



 母さんが化粧鏡を貸してくれて、急いでそれをひらいた。


 事故に遭って、何が起こったのか知らないけど、まさか髪が無くなったとか…!?


 こんなに頭痛がするのも、すごい怪我を負ったから??



 一抹の不安が頭によぎる。


 どんな怪我を負ってるのか、すごく怖くなった。


 だって、髪が無いなんてことある…??


 普通はそんなことにならないでしょ?


 すごい大けがをしない限りは…




 ……………


 ……………………


 ……………………………え?




 そこにある光景を、私はすぐに理解することができなかった。


 顔に傷があるとか、髪が無くなってるとか。


 そんな異常事態よりも、ずっとずっと、あり得ないようなこと。


 一瞬、夢を見ているのかと思った。


 それくらい、目を疑った。



 今、何が起こってるのか。


 何が起きたのか。


 そんなことが、全部真っ白になる。


 何も考えられなくなって、時間が止まる。



 わけがわからなくなったんだ。


 割れそうになるくらいの痛みのそばで、鏡の向こうに映っている「自分」。



 その「顔」が、見た目が、自分じゃなくなってるなんて、思いもしなかった。



 …“アイツ”になってたんだ。


 祐輔に。


 幼なじみの…



 …………顔に…




 

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