真夜中の会話

第051話 悪夢

淡い茶髪の女性がいた。その顔は見えないが優しげに微笑んでいるように思えた。アルバートは優しくその手を取ってどこかを歩いていた。幸福感が心を満たす。


場面は変わりアルバートは打ち砕かれた城の跡地に立っていた。ふと気がつくと女性の姿はなく、代わりに瓦礫の間から声が聞こえた。


──どうするつもりですか!

──祖先の土地を守れ!

──土地を返して!

──こんな額じゃ納得できない!

──もっと金をよこせ!

──っと金をよこ

──と金をよ

──金を

──金

──金


……やめてくれ、やめてくれ!


どこだ!?彼女はどこだ!


僕の愛しい人、彼女はどこだ!


彼女の姿が見えた。しかし彼女は遠くに歩み去ろうとしていた。


待ってくれ!行かないでくれ!


──官


──長官


「長官!大丈夫ですか!?」

アルバートは目を覚ました。一瞬ここだどこだか分からなかった。


「大丈夫ですか?」

リーニキッジ秘書官だった。


「……私はどうしたんだ?」

アルバートは覚醒し今自分が居る場所を理解した。ここは医務室だ。


「まずは水を」

リーニキッジは眉根を寄せつつ置かれていた水をアルバートに手渡した


「……説明会は?」

水を一口飲んでそう聞いた。


「そちらは無事に終わりました」

あれが無事と言えるのかはともかく、アルバートは何とかその怒号に耐えきって説明会を終えた。しかしその直後にアルバートは倒れたのだ。


「今は何時だ?」

アルバートはリーニキッジに訊いた。


「そろそろ零時です」

リーニキッジは懐中時計を見て答えてくれた。


「意見交換会に穴を空けてしまったな」

アルバートは溜息をついてそう独りごちた。


「今はお気になさらずお休み下さい」

リーニキッジはそう言って不器用な笑みを浮かべた。


「どうせ財務局も建設局も何のネタもないのですから」

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