放課後MMクラブ - IF殺人事件

人生

序章

 序文




 ――はじめは、何かの冗談かと思った。


 最近、クラブの面々から耳にする、ある噂。

 最初は他人の空似だろうと思い、特に気にしてはいなかった。


 しかし――出会ってしまったのだ。


 まず、自分の目を疑った。


 そして私は、ある真実に気付いてしまった。




 他人の「秘密」を知ってしまったとき、どう対応することが正解なのだろう?


 ……いや、これは「秘密」以前のものだ。なにせ、当人にもその関係者にも自覚がない。しかし彼らの人生に決定的な影響を及ぼす(もしくは、及ぼした……)、過去に実際に起こったであろう、ひとつの事実。


 真実だと思われる、いくつかの事実の積み重ね。


 つまり、私の推測でしかない「確証のない情報」。


 推理、と言い換えてもいい。


 秘密を知った、というより、その事実に気付いてしまった、という方が適切か。

 私の中に生まれてしまった推理、それが私にとっての「秘密」となっているのだ。


 ともあれ――私はこの「秘密」を、どう扱うべきなのだろう。


 この推理を披露すれば、少なくない人間の人生に影響を及ぼすことは間違いない。誰かが傷つくだろうし、これまで親しかった相手に憎しみを覚えるものも出てくるかもしれない。


 たとえば二時間ドラマのサスペンス。ああいった作品で事件が起こるパターンに、誰かがそうした「秘密」を知ってしまったことがきっかけとなるものも多々存在する。


 私が知ってしまったのはいわば、殺人の瞬間、犯人の正体に等しい情報。

 この秘密を抱えることで私自身に害はない。むしろ、誰かのこれまでの人生とこれからの安寧を守ることに繋がるだろう。その一方で、被害者やその親族の無念は消えない。これはそういった類いの「秘密」だ。


 どんな影響が引き起こされるか、私には想像がつかない。


 私はそうした「影響」に責任を持てるほど、強い人間ではない。

 同時に、この「秘密」を忘れられるほどに賢い人間でもなかった。


 ならば私は、この「秘密」をどう扱うべきか。


 時間が経てば、伝える機会も失われるだろう。それはそれでいいのかもしれないが、しかしその結果、何か大切なものを見逃してしまうことになりはしないだろうか。

 あるいは、私が伝えずとも、なんらかのかたちでその事実は明るみになるかもしれない。しかし、それは当人の望まぬかたちになるかもしれない。私は全てを知っていながら、その時が来るのを傍観できるのだろうか。


 ……推理小説の名探偵であれば、容赦なくこの推理を伝えることも出来るのだろうが――


 …………。


 その時、ひとつの案が浮かんだ。


 それこそ、二時間ドラマのサスペンスのように。

 名探偵にはなれないけれど――誰だって、犯人にはなれるのだ。



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