11月28日 20:29 メルボルン・スクエアスタジアム
後半開始と同時に、日本は上木葉に替わって陸平が、メキシコは左サイドハーフのチャベスに替わって9番のハビエル・マルケスが入った。スカウティングによると長い距離を突破できる選手とのことだ。
「となると、後半も引いたままなのかな?」
事実、そうであった。
メキシコは引き続き、重そうな足取りで深い位置に陣取っている。エステバンとハビエル・マルケスを前に残すような形で布陣としては4-4-2となっている。
前の2人以外は全員守備に専念するつもりのようだ。
日本の布陣変更に警戒している側面もあるのだろうが、それ以上にグループステージ初戦からここまで大きなメンバー変更がないことによる累積疲労が大きいように見えた。
後半布陣図:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093085102468652
従って、前半に引き続き日本がボールを支配するが、前半と同じく決定機が中々生まれない。
(相手がこれだけ固めると、少し遠目からでも撃つようなシーンが欲しいな)
それが出来るのは、立神と稲城、あとは慣れている颯田だろうか。
ただ、グラウンドの中はロングシュートへの意欲は無いように見える。星名と緒方のところまで行けるので、中々ロングシュートで打開しようという気にならないようだ。
守備的に戦っているメキシコではあるが、ボールを持てないフラストレーションもあるようだ。ファウルの判定で激高する選手も出て来て、後半10分までに右サイドのデ・ラ・ウェルタとラミレスが警告を受ける。
警告を受ける選手が増えること自体は一見して有利だが、この試合に関してはそうとも言いづらい。
(退場すれば相手は全員で守りに入りそうだからな……)
10分を過ぎたので戸狩にアップを指示した。次の段階を考えないといけない。
変えるべき選手はいないが、強いてあげるなら七瀬だろうか。
思い切りの良いシュートもあるのだが、この試合はスペースが少ないせいで持ち味のダイナミズムがあまり発揮できていない。
展開が変わることなく15分を回った。
ここで交代策をとる。ドリブルからの切り崩しが期待できる戸狩を投入して打開を狙う。
(これでも打開が難しいなら、緒方か星名を下げて達樹を入れるしかないな……)
そう思った時に、ベンチに座る颯田が声を出した。
「陽人、真治でもダメなら俺が出たい」
「……何か策があるのか?」
「メキシコがあれだけ下がっているとなると、今のまま攻めていても難しい。恐らく長めのシュートかセットプレーしかない」
「……確かに」
遠目からのシュートは陽人も考えていたところだ。その候補として颯田を考えていたのも事実である。彼が同じことを考えているのは心強い。
もう一つのセットプレーに関しては微妙だ。今日に関しては立神のキックは精度が悪く、あまり頼りなく見える。それに、セットプレーが欲しいとなったなら颯田よりもボールを持てる瑞江の方が良さそうに見える。
瑞江の方が良いのではないかと思ったが、別の考えも浮かんだ。
(ただ、このまま90分動かなければ延長戦だな……)
0-0のまま90分が過ぎれば延長戦となる。
そうなると、戸狩は運動量が途端に落ちてくる。そこに瑞江を残しておく必要もありそうだ。
「分かった。次の交代で行ってもらう」
颯田にそう言った。
次の瞬間、予想外の出来事が起きた。
戸狩がボールを受け、左サイドから切れ込もうとする。
ラミレスをかわしたところで、デ・ラ・ウェルタが矢のようなタックルを放ち、戸狩の足を払った。
「危ない!」
ベンチから声が飛び、主審の笛が鳴った。
戸狩が足をおさえて倒れ込んだ。
デ・ラ・ウェルタは既に警告を受けていることもあるので、「ボールを狙った」と激しい身振りで主張しているが、主審はその抗議に耳を貸さず、即座にレッドカードを提示した。二度目の警告ではなく、一発退場ということである。
「大丈夫か!?」
日本サイドにはメキシコの退場よりも戸狩の状況が気になった。
ドクターが走っていくが、すぐに×の合図を出した。
「何てこった……」
入れたばかりの戸狩が負傷退場。また交代するしかない。
そして、今しがた颯田に対して「次の交代で行ってもらう」と言ったばかりである。
(この展開は予想していなかったが……)
切り崩しを狙っていた戸狩が5分もしないうちに再交代というのは完全に誤算である。戸狩との交代なら同じく崩すことのできる瑞江の方が良いというのはあるが、延長のこともある。
ここは颯田に任せるしかない、と決断した。
後半20分、戸狩に替えて颯田を投入。
両ウイングは左に稲城、右に颯田という高踏の形となった。
(相手は10人になったから更に守備を固めてくるだろう。延長戦になるかもしれないなぁ……)
ここからの失点は前半にも増して許されない。無用な失点が怖いことを考えれば、守備力のある両ウイングになったことは悪くはない。
そう前向きに捉えるしかなかった。
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