10月14日 11︰04

「やれやれ、やはり準決勝だ、混んでいるねぇ」


 スタンドに現れたのは藤沖亮介だ。キョロキョロと周囲を見回して、見知った顔を見つけて近づいていく。


「おはよう、みんな」

「おはようございます、藤沖さん」


 陣取っていたのは結菜や大溝達だ。


「車が混んでいてねぇ。ギリギリになったよ」

「もう少し早く出ればいいだけじゃないか。俺達は余裕で間に合ったぞ」

「僕は大溝さんみたいに暇ではないんですよ。まだリハビリも一部残っていますしね」


 既にピッチには両チームが散らばっていて、センターサークルには瑞江と鈴原の2人が並んでいる。試合開始の笛を待つばかりだった。


「おや、深戸学院はスリーバックなのかな?」


 藤沖が深戸側の布陣を見た。


 確かに3人が並んでいるように見える。その少し前に、谷端が陣取っていた。


「篤志の起用は予想外だったけど、スリーバックの前で回収役に専念させるんだろうか」


 一人だけ浮いた感じのポジショニングをしている。となると、守備面でフリーロールなのか、特殊な任務を任されているのか。


「ま、始まれば嫌でも分かるか。あっ、しまった」

「どうしたんですか?」


 突然、頭をピシャリと叩いた藤沖に、結菜と我妻が驚いて声をかける。


「ビールを買い忘れた」

「おまえ、リハビリがどうとか言っていなかったか?」


 大溝が呆れたような視線を向ける中、藤沖はスタンドの中へと駆け込んでいった。




 試合開始のホイッスルと同時に、深戸学院サイドが前に出てきた。


「出てきましたね」

「とはいえ、今までの相手と比べると……と言ったところかな」


 藤沖の言葉通り、深戸学院の最終ラインは思い切り上がるという様子はない。完全にリトリートするわけではない、というくらいである。


「4バックにはなっているかな。しかし、サイドバックが随分と中にいるなぁ」


 藤沖の言う通り、サイドバックの横山と市田の二人はエリアの端の近辺にいる。


「……あれか、篤志以外の3人は瑞江警戒だな」


 それだけではない。前方にいる吉田、戸倉、安井もプレスは控えめで、瑞江が下がってきそうなスペースを押さえている。


「6人のうち4、5人は常時真ん中を抑える。サイドはFWが使いたいなら勝手にどうぞ、園口と立神には下田、榊原をつけて、自軍サイドになったらサイドに振る。2列目からの飛び出しは篤志が見る、というわけだな」

「これだと、前の運動量は半端ないものになりそうですね」

「深戸学院は交代要員も豊富だからね。同じ戦力だったらかなり無茶なやり方だけど、選手層を考えればこれが一番確実かもしれない」



 瑞江の行動範囲が制約されているので、ボールはサイドの稲城に出たが、中のスペースは全くない。縦に進んで、園口をちらりと見たが、下田がしっかりついていて簡単には出せない。


 結局、芦ケ原に戻して、そこから鈴原へと回る。瑞江を諦めて、僅かに空いたスペースに芦ケ原を走らせようとするが。


「おぉ、今日起用された26番が」


 谷端が先に回り込んで、司令塔の安井に回す。


 すぐに鈴原が詰めてくるが、安井はすぐに前に蹴りだし右ウイングの下田を走らせた。これは僅かに伸びて、鹿海に蹴りだされる。


イメージ:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16817330667905425036

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