第16話 訓練は仲間の為に

 森に入って人気のないエリアまで一気に進む。

 しばらく辺りを探すと特徴的な大木が見えた。

 ガダンさんに聞いていた通りだ。

 この辺りなら、間違っても邪魔は入らないだろう。


 途中、小柄な動物を数匹見かけたが、どれも一目散に逃げていった。

 モンスターは襲いかかってくると聞いていたので拍子抜けしたが、アルメリーに聞くと「モンスターじゃないから」と当然のように言う。

 いまいちモンスターと動物の違いはわからない。


「この辺でいいかな」


 草むらにどかっと腰を下ろすと、アルメリーがきょろきょろと周囲を見回した。


「薬草多そうな感じがする?」

「……? さあ、どうだろう」

「ん? 薬草がある場所を探してたんじゃないの?」

「ああ……まあ、そうなんですけど、そうじゃないっていうか」


 アルメリーが首を傾げる。


「俺は……薬草採りのついでに訓練をしようと思ってるんです」

「訓練?」

「うん。俺のスキルはあんまり戦闘向きじゃなさそうだけど、鍛えてみたら意外と使えたりするかなって思ってて。自衛くらいはできるようになりたくて」

「……私と戦ってみたりするの?」

「いや、アルメリーさんは十分強いって知ってるので、俺はそれ以外の分野でがんばってみます。仲間なんだから補い合えばいい」

「仲間……うん! うん! そうよね!」

「暇になって悪いと思うけど、訓練中、守ってもらってもいいですか?」

「もちろん、任せて! イノシシでもゴーストでも全部やっつけてやるから!」


 瞳を輝かせるアルメリーさんはとてもやる気に満ちている。

 これなら任せて心配なさそうだ。


「じゃあ、ちょっと集中するけど、お昼になったら声をかけてください」

「わかった!」



 ◆◆◆



【アルメリーの視点】



 私にはナギが何をしているかわからない。

 毎日同じ場所に座り、時折つぶやきながら手を伸ばし、額から汗を流している。

 これを繰り返してもう何日経っただろう。

 その間、近づくモンスターはすべて倒した。

 食べられる敵は狩って、血を抜いて肉を捌いておく。

 毎日同じ場所に来ているので食べられる植物や木の実も一か所に集めている。

 お昼になったらナギの簡単な食事の準備をして、用意した肉を食べて、余ったものは夜ギルドに納品する。

 これが日課だ。


 日が高く昇ったころにナギに声をかける。

 彼はいつもげっそりした様子で力のない笑みを浮かべる。


「もうお昼だったんだ……」

「ナギ……大丈夫?」

「うん。まだまだ先があるみたいで」

「そう……なんだ……」


 よくわからない。

 ナギの視点もどこか合っていない。

 これは訓練なんだろうか。

 座っていてもへとへとになる訓練って危険はないんだろうか。

 心配でたまらない。


 ギルドに顔を出す時間すら惜しんで、ナギはさっさとアンダン亭に戻り部屋に籠ってしまう。

 さすがに仲間として止めた方がいいんじゃないかと思う。


 でも、やつれた様子で何かを為そうとする彼は、まだ私に何も言わない。

 そして、最近は毎日「ちょっとやることがあるから先に帰っててください」と言うのだ。

 理由を聞いても、「一人でやりたいことがあるんです」ということ以外は説明してくれなかった。

 危ないよ、と何度も言ったが、「大丈夫だから」と結局背中を押されて街に戻る生活となった。


 その夜――

 隣の部屋にナギが帰ってきた気配がした。今日も無事帰ってきてくれた。


 心配で心配で眠れなかった連日の夜が、まるで嘘だったかのように、私は強烈な睡魔に襲われた。

 まぶたが閉じる寸前――春の月の終わりを告げる厳かな鐘の音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る