第21話 オーク

 両者の距離が五百メートルほどまで近づいたところで、リアンとコンラッドは魔獣車から降りる。


 ザリナは魔獣車の進路を変えて引き返し、遠ざかる。


 それを見届けつつ、街道が走る広々とした平原で、リアンはコンラッドに軽く声を掛けた。



「コンラッドならあの程度の敵に遅れを取ることはまずないと思うけど、冷静さを欠いてミスしないようにね」


「わかっている。リアンこそ、自分が指揮官であるという立場を忘れるな。こちらの戦力からしてあのオークとの戦いが避けられないとしても、負傷して今後の計画に支障が出るようでは困る」


「うん。わかってる。……じゃあ、行こうか」


「うむ」



 どちらからともなく、リアンとコンラッドは走り出す。


 リアンはアラクネの体になり、八本の足を使って。


 コンラッドは剣と盾を握りしめ、強靭な足で踏み出す。


 リアンは足の速さには自信があるのだけれど、コンラッドは全く遅れることなく並走してくる。


 二人の接近に、まずは敵の弓兵が応戦してくる。大量の矢が降り注いで、リアンたちを襲う。


 コンラッドはその矢を意に介さず突き進む。リアンは、糸魔法で矢を切り刻んで無効化しながら駆ける。


 また、敵の軍から、オークが解き放たれる。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 コンラッドにも負けず劣らずの大音声。その声を聞くだけで、並の人間であればすくみ上がるに違いない。


 オークがメイスを片手に駆け出す。メイスと言っても、通常のメイスよりかなり大きい。通常のメイスが長くて八十センチくらいのところ、オークが所持しているのは身長と同程度の二メートルサイズ。金属製の丸太でも装備しているかのようだ。



(あのオークは、コンラッドと同じパワータイプかな? コンラッドと力比べさせてみたい気もするけど、ここは私が上手くあしらおう)



 オークの体は縦にも横にも大きい。力士のような体格だ。厳つい豚の顔も相まって、見た目の威圧感が強い。


 先にリアンがオークに接近し、拘束のための網を広げる。先日は、これでコンラッドの拘束に成功した。ただ、オークの皮膚はコンラッドのように頑丈そうではないので、下手に体を切り刻むことがないよう、糸を太めにしている。


 これだけで勝利が決まるのではないか、とリアンは淡く期待した。


 しかし。


 オークは糸の接近に合わせてメイスを振りかぶり、派手に振り下ろす。



「な!?」



 リアンはとっさに右に跳んでその一撃を回避する。両者の距離はまだ五メートル以上もあり、メイスが届く範囲ではなかったのだけれど、そのメイスが魔力をまとって巨大化していた。


 メイスがまとう魔力は硬質化しており、その一撃は大地を大きく穿つ。コンラッドの一撃のように魔力が弾ける感じはないけれど、単純にその一撃の重さで大地を粉砕していた。また、リーチが伸びているから、リアンの糸はオークに届くことなく叩き落された。



「あのメイス、如意棒みたいなもの? それに、なんてパワー……っ」



 リアンは戦々恐々としながらも、オークの持つメイスに糸を伸ばし、絡める。武器を取り上げようと試みたが、全くびくともしない。


 オークは、どうやらコンラッドを超えるパワータイプ。


 ただ、二人の戦闘スタイルには違いがある。シリン滞在中、リアンはコンラッドと何度も手合わせしているので、それがよくわかる。


 コンラッドは剣士としての技術を磨いてきたことがうかがえる、武人タイプ。パワーだけではなく、洗練された技術も持ち合わせている。リアンも幼少期から槍の訓練を受けてきたし、今は皆の培った技術が集約されているので、武人としても強いはず。それでも、武人としてはコンラッドに敵わない。リザードマンという種族が積み上げてきた技術は、アラクネのそれを超えている。糸魔法や毒魔法を駆使して、総合力で勝つしかない。


 ちなみにだが、コンラッドが魔力を破裂させて爆発を起こすのも、リザードマン流の武術の一つらしい。魔力を圧縮し、打ち出しているのだとか。魔力を持つが特定の魔法を得意としていない種族が、魔力を使って戦うための技術らしい。リアンも習ってみたが、魔力を特定の魔法へ自然に変換できてしまう種族には、逆に使いにくい技術のようだった。


 それはさておき、このオークは、怪力そのものを武器としている。武人のような洗練された動きはしないが、圧倒的な力で技術をねじ伏せる素質がある。どれだけ鍛え抜いた武人でも、大型トラックの突進には手のうちようがない、とでもいう感じ。



(まぁ、私は力比べに興味ないし、魔法なしの戦いで勝つことにこだわりはない。私は私のやり方で勝たせてもらう)



 オークが再びメイスを振りかぶり、巨大化させてから、地面に叩きつける。正確には、地面ではなくリアンを狙っているのだが、リアンが逃げ回るので、メイスはただ大地を穿ち続ける。


 リアンがオークと戦っている一方で。



「人間! 我らの恨みを思い知らせてくれる! 一人残らず粉微塵にしてやるから覚悟しろ!」



 コンラッドの叫び声が聞こえる。直後、爆発音と共に兵士たちの絶叫が響き渡る。


 コンラッドは並の兵士を圧倒的に超える力を持っているので、千人程度ならば問題なく片付けるだろう。



「私はこいつに集中しないとね」



 オークは、リアンからすると滅茶苦茶な動きで巨大化したメイスを振り回す。予備動作も、攻撃の後の硬直もはっきりと見えるのに、反撃しづらいところがある。



(力任せで……そして、あえて防御をしない戦い方にも見えるかな)



 防御を捨て、攻撃だけに専念する。これもまた、一般の武人とは違う。


 あるいは、攻撃によって敵の攻撃を防ぐという、徹底した攻撃スタイルにも見える。


 隙があるように見えて、その隙を突くと相打ちとなりそうだ。


 

(糸を伸ばしても叩き落される。上手く絡みつかせたとしても、力比べでは私が負ける。切り刻んで殺すなら簡単かもしれないけど、私はオークを殺したくない。となると、今度こそ毒魔法を活用するときかな)



 リアンは風上に立ち、霧状の麻痺毒を発生させる。普通の人間なら軽く吸っただけで倒れる代物だが……オークは妙に太く巨大化させたメイスを、横薙ぎに一振り。


 突風が起きて、毒霧が一気に霧散してしまった。



「……風魔法を使うわけでもないのに、とんでもない風を起こすじゃないか」



 リアンは呆れつつ、次の攻撃案を考える。

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