第86話 素直にクリアされると悔しいじゃないですか
今日も閲覧ありがとうございます。
明日からまた色々お仕事が大変ですが、頑張るのですよ。
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ミッション開始後1時間が過ぎ、流川達が声をかけて止めた事で今戦闘は止まっている。その間にもレイドボスは寸劇を繰り広げているだけで何もしてこないが、その数は既に100体を優に超えている、数えるのも嫌になるが数百ではきかないだろう。
プレイヤー達はあまりにボスの異質さと、流川の説明にある程度納得している者も多かったが、その話に真っ向から反対をするプレイヤーもいた。
勿論リジェクションだ。彼と彼に賛同するプレイヤー達が流川に詰め寄っていく。
「このまま倒せば押しつぶされるほど増えるかもしれない? かもしれないじゃあわ困るんスよ? もしかして時間稼ぎして自分達だけでポイントとか独り占めする気じゃないっスかぁ!?」
「そうだそうだ! もしそうだっていうんなら証拠を出せよ!!」
「証拠はありませんが、確実に倒せばその数が増えて行ってます。このまま倒し続けるよりはボスは動かないのですし、恐らくは居るだろう本体を――」
「それをテメェ等が何で命令するんだよ!? 俺等はお前の部下じゃねぇぞ!?」
「理由は分かるけど、確かになぁ。それにこれだけいれば何処かにボスも交じってそうだし」
「ていうか、なんであんなに偉そうなのあいつら? 固定パーティだか知らないけど」
リジェクションの周りに聞こえる反論は周囲にわずかながらにも亀裂をいれる。事実、流川の言う事は確実な話ではない。倒せば増えるがそれだけであり脅威度が増える訳でもない、勿論レイドボスの総数に限界量がないというのも流川の考えでしかない、故に流川も強く言い切る事が出来ないのだ。
どちらにしてもこのままではクリアも出来ず時間制限でのミッション失敗になってしまうととりあえずリジェクションに対して文句を言えと命じられた雇われプレイヤー達が盛大に回りを煽っていく。
「お前等!? 手遅れになるかもしれないんだぞ!?」
「うるせぇよ! じゃあどうすればいいか分かるのかよ!? あぁ!? なぁこいつらもしかして俺達の邪魔したいからこうしてるんじゃあないのか!? そうは思わないか!?」
「なっ!?」
御堂が怒鳴るが雇われたプレイヤー達が他のプレイヤー達を煽っていく。彼等も御堂達の言葉には半信半疑なのだ。
「もしかしたらこいつらプレイヤーキラーなんじゃねぇのか・・・!? おい!!」
「んだとコラァ!?」
いわれのない誹謗中傷を受けて佐伯が肩をいからせて歩いてくる。メタルヒーローがメンチを切りながら歩いてくる姿は流石に煽ったプレイヤーも恐怖を感じ後ずさり始めた。
「っ!? あ、あんたら助けてくれ!? 殺される!?」
「ふざっ!? んなことするわけね――」
「おいおい、やり過ぎなんじゃねぇっスか?」
脅されたプレイヤーを護るようにリジェクションが間に割って入ってきた。ニヤニヤと笑いながら佐伯から男のプレイヤーを庇っている。
「た、助かったよ・・・もう少しで殺される所だった・・・」
「あぁ!? だれがんな事するかよ!!」
「おやぁ? 随分と顔が真っ赤っスねぇ? もしかしたら図星なんすかぁ?」
「んだとテメェ・・! お前等こいつは――」
流川に言われてリジェクションがプレイヤーキラーだと言う事を言わないと約束していた彼は咄嗟に出そうになった言葉を無理やり押し込める。それはリジェクションにとって好都合だった。
バラされたならバラされたで構わない、その時はここに居るプレイヤーを使って流川達を殺せばいいし、最悪逃げ回りながら流川が言うレイドボスを倒せば増えるというのを逆手にとって台無しにしてやればいいと頭を巡らせる。
仮にここにプレイヤー達が自分を襲ってきたとしてもレベル3~4の雑魚がどれだけいても負ける程彼は弱くない。例えソウルギアが居ないとしても、レベル5位でもなければ圧勝するのはリジェクションの方だ。
流川もそれが分かっているので、彼がプレイヤーキラーと明かす事が出来ない。この男ならばバレた瞬間に周りのプレイヤーを殺す位は簡単にやってのけるだろうと確信している。無論彼自身そのつもりだ。
現状はリジェクション自身も危険になる可能性はあるが、彼も自分ならこの中からコアであるボスを探せるという自信もあったし、最悪は流川が死んだ後に結界を破って逃げればいいだけと現在の状態を万全に利用しようと考えていた。
寧ろここで怪しいのはリジェクションより、急に攻撃停止を指示してきた流川達の方になる。プレイヤーは仲良しこよしの集団ではない。個人個人ではそう言うのもあるかもしれないが、潜在的には敵同士の様なものだ。利害関係が一致しなければ反発するのは当然とも言えた。
ならばここでどんどん扇動し続け流川達を敵だと認識させてやれば、ボスより先に彼等を殺してくれるか抑えてくれる可能性もある。ここぞとばかりに彼は再び大声を上げ始める。
「皆さん騙されちゃダメっすよ! こいつらきっと自分達だけでボス報酬やMVP報酬を手に入れるために嘘の情報を流してるかもしれないっす!」
【あんた達、ポイント追加でくれてやるっす。自分の扇動に協力しろ】
【わかった! ポイントは弾んでくれよな!】
【こんな程度で良いなら大歓迎だぜ!】
念話で雇ったプレイヤー達をさくらにする。
リジェクションの言葉に雇われたプレイヤー達はそうだそうだと煽りながら他のプレイヤー達に同意を求めていく。佐伯がプレイヤーを脅そうとしていた姿を見て、その可能性が高いと感じたプレイヤー達は流されるように、流川達を弾圧しはじめた。
罵倒や中傷を受け続ける御堂達だが、下手に動く事が出来ずにいる。
「ど、どうする流川・・・」
「参りましたね。どうやら彼に雇われているプレイヤーも居る様です」
リジェクションの言葉にすぐに反応したプレイヤー数人を流川は見逃していなかった。リジェクションの扇動の言葉に一拍の間すら置かずに賛同するのは流石に違和感があったのだ。それに先ほどから彼に協力しているようなそぶりも見せている。
だが現在はそれがわかったとて、指摘しても意味がない。それ所か更に此方が不利になるだろう。場をリジェクションが支配してしまっていた。
こうなれば流川達に出来る事は少ない。協力を求められない以上これ以上のレイドボスが増幅する前に本体であるだろうそれを見つけて倒さなくては諸共自滅する事になる。他のプレイヤー達の協力が得られない所か敵対するかもしれない時点で、自分達でやるしかないと覚悟を決めなくてはならなかった。
自分たちの作戦を却下された所か敵対視までされている流川を見てリジェクションがニヤリと笑う。精神的に優位に立てたのもそうだが、これでプレイヤーと流川達が協力して行動する事ないと確信した。後は自分が扇動し、流川達を殺す駒にすればいいだけ、そう考えた所でまたしてもレイドボスの方で動きがあった。
「むむむ、どうやら我等の存在時間が危ぶまれている様であるな。やはりしめじがたりなかったか。本来ならばたくさんのマイタケを用意して焼肉パーティを開く予定だったのだが。因みに材料はジャガイモとニンジンと自然薯である。つまり何が言いたいのかと言うと、我等は放置されると寂しくて増えるのだ、あれであるなウサギが寂しいと死ぬという逸話があるが別にあれは寂しくても死なないらしい。おばあちゃんの知恵袋も完璧ではないと言う証左であるからして」
流川やプレイヤー達の前に躍り出てまたしても意味不明な事をワルツを踊るながら喋りまくるレイドボスことイルカ頭。流石にシリアスな所にそれを完全にぶち壊すような存在が現れると空気が冷え込んでいく。
だが、その空気を更に凍らせるようなことをレイドボスは話し始めた。
「我等は前座であるからにして。放置すればある程度増えた所で合体し、レベル9のボスとして「お前ギャグキャラだろうふざけんな」と言いたくなるような暴力の化身になるので注意したまえ。そうなれば今までの様に優しくはなれない、男には冷徹にならないといけない時があるのさ・・・我はメスであるが。とどのつまり何が言いたいのかと言うと、我の本体を後10分以内に見つけて倒さなくては我等はちょっとふざけてるのレベルのラスボスになる。それが困るのであれば我等を倒していくが良い。そうすれば我等が無限に増えるだけで結界内を充満し、十万ではないぞ?この結界内には我さいだい1000億くらいまでふえるよていであるので、そこから1匹1匹が堆積20倍まで膨れるから安心して潰れたまえ」
「は・・・・?」
「ちなみに我等を倒している間は1体につき制限時間が1秒伸びる。なんと優しいのか。因みに最大時間は10分までで、それ以上にはどれだけ倒しても増えないので注意したまへ。ではアディオスアミーゴ。我はその辺にいるので構ってくれないと泣いてしまうぞ? 何故ならそれは特別な存在であるからな。そう我等は特別、1個24セントといったと――」
最後まで言い切る前にプレイヤーの一人がレイドボスを叩き切った。
同時に現れるレイドボスが30体。奇しくも流川が言っていた事が正しいとレイドボス自体が認めてしまったのだ。それも放置してもどうにもならないという時間制限付き。何もしなければレイドボスは増えないが、制限時間後はレベル9と言う彼等所かリジェクションですら対応出来ない様なレイドボスが現れると。
それを防ぎたければ本体のレイドボスを倒すしかない。見つからないのならその間に周りのレイドボスを倒せば1体に付き1秒の制限時間が伸びるが、爆発的に増えるレイドボスが結界内を何れ覆いつくし流川の言っていたように全員を押しつぶす事になる。
【ど、どうするんだよ!? あ、あいつのいってた通りっていうが、このままじゃやばいぞ!?】
雇われプレイヤーの一人が焦ったように言う。簡単にクリア出来そうなミッションだと思っていたが、シーズンのラストミッションがそんなに優しくなんてない事を改めて気づかされ冷静さを失いかけていた。
だが焦っているのはリジェクション自身もだ。制限時間が短すぎる、レイドボスがレベル9になって襲い掛かってくればソウルギアのない今の彼では何もできないまま殺されるだろう。他の低レベルプレイヤーも同じくだ。
流川達と言えどそうなれば確実に死ぬだろう。
それ自体は良い。寧ろ彼にとっては歓迎すべきことだ、だが問題は自分も生きて帰れるか分からない状態になっているという事だ。今すぐ結界を破壊して逃げるかとも考えたが、一応倒し続ければ制限時間は伸びるようなので、今は時間を稼ぐしかない。
「ほ、ほらやっぱり!! あのまま放置してたらボスが出てたんじゃねぇっすか!? み、皆! ボスを狩りまくるっす! 何れは本命にぶち当たる筈だ!!」
流川の懸念は半分当たりだったが、それ以上の問題が出た事を使ってプレイヤー達を扇動する。彼等も死にたくないので言われるがままに周囲のボスを再び倒し始めた。
「ま、待ってください!? 我武者羅に倒しては―」
「うるせぇ!? 死にたければお前が死ねよ!!」
「っ!?」
そして倒せば加速度的にボスが増えていく。こうなるとどれが本体なのかも分からない。冷静に対処しなくてはと流川が言うが、扇動されてしまったプレイヤー達は半ば恐慌状態になりながらボスを狩り続けている。
寧ろ止めようとした流川を攻撃してきたプレイヤーまでいる始末だった。
「マスター。このままじゃ巻き込まれる、あっちの人が少ない方に一度下がろう?」
「サイレーン・・・そうだな! 流川、もうあいつらは止められねぇ。俺達は俺達に出来る事をするぞ!」
「っ・・! わかりました。皆さんここを離れます」
御堂と流川がそう言うと仲間のプレイヤー達を引き連れてこの場を離れていく。
リジェクションは現在がとても危険な状態だとは感じつつも暗い喜びを感じていた。だが、このままでは彼等の言う通りどのみち死ぬ事になる。なんとかして自分だけでも逃げられる方法を探さなくてはと、雇ったプレイヤー達に扇動を任せて自分は流川達とは逆の方向に駆けだしていった。
―86話了
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ボスが混沌としてますがそれ以上にプレイヤー達も混沌とし始めました。
時間制限ありのラストミッション。放置すれば勝てないボスが出て来て
倒し続ければ何れは押しつぶされて死ぬ。無限に増えるレイドボスの中から
本体であるだろうそれを探して倒すという無理難題、果たしてクリアできるのでしょうか?
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