第76話 人生は色々、辛い事が9.9割で嬉しい事が0.1割
今日も閲覧ありがとうございます。
日々体調が悪くなっている気がしますが、割といつもの事でした。
今日も短いですが楽しんでもらえると嬉しいです。
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爆心地からやや離れた路地裏に流川は居た。
全身の至る所が火傷し、血まみれになってはいるが生きている。あの爆発に巻き込まれたポルクスは一撃で消滅したが、カストロが生き残っているので、すぐに復活したが、全員揃いも揃って満身創痍だった。
流川は回復スキルは持っていない。二人も回復スキルは何故か適性が合わずまともな効果を見込めない事から、セットからは外している。つけなおして回復させてもこの状態を回復できるだけの効果は見込めないので、回復剤を取り出して使用した。
取り出したのはカプセルタイプの薬剤。所謂ポーションを水を飲まずにそのまま飲み込む。即効性はそこまで高くはないが、回復力はそれなりに高いので徐々に回復していく仕組みだ。1時間も安静にしていれば完全にとは行かずともこの程度の怪我ならば回復できる。回復魔法ならばこの辺りを無視して回復できる為、ポルクスがサイレーンの回復スキルを確保したかったのもこのためだ。
傷がふさがっていく違和感を感じながら、その場に座り込む流川。
もう少しで死ぬ所だった。ディーヴァの攻撃ではなく自爆での強制離脱の方だ。出来ればやりたくなかったが、これ以外に結界外に出る方法がなかったので仕方なく発動させたのだ。これにはカストロかポルクスのどちらかが確実に発動させルために、あえて爆発に巻き込まれなくてはならないというのも使いたくない理由の一つ。
「ポルクス、大丈夫ですか? 痛い思いをさせてしまいましたね」
血に濡れた手ではあるが、ポルクスの頭を子供の頭を撫でるように優しく触れる。彼女はそれを疎むことなく、嬉しそうに受け入れた。
「ん。パパが生きてるのが一番嬉しいから・・・」
流川の手を取り、自分の頬に充てて頬ずりするポルクス。自分の好きな銃を捨ててまで剣を用いスキルを発動させたのも、爆発に巻き込まれて死んだとしても、大切なマスターであり、父親であり、愛しい流川が生きているがの一番嬉しい事なのだ。
「あたた・・・なんとか撒けたね。でも多分あれ生きてるから暫く潜んでた方がいいかな?」
あの大爆発、普通なら生きていられるものではないが、レベル5ともなればスキルも幾つか揃っているだろう。その中にはダメージを軽減したり、1回限り無効化したりなどのスキルもある。あの手のプレイヤーがそれらのスキルを持っていないとは思えないので、生きていると考えた方が良いとカストロが指摘する。
「えぇ、爆発する寸前ですら余裕が見えました。あれでは死なない自信があったのでしょう。ただ死なないだけで防ぐ事は出来なかったみたいですけどね」
完全に無効化されていたのなら流川はここにはいない。爆風に煽られ結界の外に弾き飛ばされた流川だが、回復して逃げるまでには1分弱を必要とした。攻撃が完全に防がれ無効化されていたのならその1分は致命的である。
大きく息を吐き、これからについて考える。
折角手に入れた表の社会的立場と信用を失うのは辛い。なんだかんだと今になるまで表も裏も充実させてきたが、表の情報からプレイヤーキラーが狙ってきたとなれば、諦めざるを得ないだろう。
御堂とは違い、流川の仕事は信用が第一、このような理由で突如やめてしまえばこの界隈ではもう二度と働く事は出来ない。出来たとしてもまともな仕事はさせてもらえないだろう。たとえ実力があったとしても信用を失ってしまえば終わってしまうのだから。
「いやぁ、僕も大概、表の立場を失いたくなかったんですね」
「マスター・・・」
「大丈夫ですよ、えぇ、大丈夫です。はき違える事はしませんよ。僕一人の問題ではないのですから」
優先順位を間違える事はしない。
会社の信用や立場より命の方がずっと大事である。それに自身が死んでしまえば御堂が佐伯がこの後で詰む可能性もある。自分の些事で彼等を巻き込むわけにはいかないのだ。御堂も同じような葛藤をして、今の道を選んだのだからそれに倣うだけ。
覚悟は決まった。
「明日は忙しくなりそうです・・・至らないマスターですみませんね二人とも」
その声にいつもような力強さは感じられなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
帰ってきた流川を見て誰よりも早く大声を上げたのは俺だった。
いつもの様に残業でもしているのかとセーフハウスでのんびりと流川の帰りを待っていた俺達が、ズタボロになっている流川を見てまず何よりも驚きが勝っていた。
何はともあれ直ぐに回復が必要だという事でサイレーンに頼んで回復してもらった。回復自体はあっという間に終わったのでまずは休んでもらう事にしたんだが、流川から今回の事について話を聞かせてもらった。
どうやら自分の名前と表の立場から調べられてプレイヤーキラーから暗殺者が送られてきたらしい。勝てはしなかったが何とか逃げる事に成功したんだが、表の事がばれている為、仕事を辞めて隠れる事に決めたそうだ。
流川を暗殺しようと依頼してきたのは恐らくと言っていたが、この前の防衛ミッションでのプレイヤーキラー、リザルトに乗っていただろう、あの【リジェクション】と言う奴の可能性が濃厚らしい。
仕事を頑張ってきた流川が、あんな野郎のせいで・・・俺が怒りに体を振わせていると、流川が俺の肩をポンと叩いた。
「御堂君が気にする事ではありません。いずれはこうなると思っていましたから・・・それが今になっただけです」
「流川・・・」
「っざけんな! 逆恨みじゃねぇっスか!? 上等だよPK野郎が! 見つけ次第ぶちのめしてやる!!」
俺の隣で俺以上に激昂している佐伯少年。
正直な所、彼が俺以上に怒り狂っているお陰というか、それで俺も幾分か冷静になる事が出来ていた。俺にとっても流川が今の仕事を辞めなくてはいけないというのはショックな話しだ。今の会社に勤め始めた時、流川もやりがいのあるいい仕事を見つける事が出来たって喜んで居たのを知っているからだ。
佐伯少年にとっては恩人ともいえる流川がこのような目に合うのがよほど許せなかったんだろう。放っておけば今にも飛び出していきそうなのをスピネル達が諫めている。だが、そのスピネルもやはり流川の事でブチ切れているみたいだ、どうしても行くなら見つけてから全員で殺しに行こうとか言ってるしな。
アクセルと俺は比較的冷静に聞く事が出来ているが、それでも看過できるものではない。
「リジェクション・・・かぁ、ジェミニの事を調べてるって事は多分掲示板の覗いてるよね」
「そうだろうな。何かあるのかリバティ?」
「いや、うーん・・・今更出回ってるジェミニの情報は誤魔化しようはないけど、一応リジェクションの方も調べてみる? 上手く行けば今回雇った? プレイヤーキラーの事もリジェクション自身の事も探す事が出来るかも」
この中で一番平静なのは、そこまで流川に思う所がないリバティだった。
そしてとんでもない事を言いだしている。
「そ、そんな事出来るのか・・・!?」
「で、出来るかって言われたら、その、か、可能性だけだけどな?? い、一応ジェミニには助けてもらったし、ケーキ屋も何と言うか悲しそうだし。調べること位は」
「・・・リバティ。報酬も出す、リジェクションと今回のプレイヤーキラーの情報引っぺがして? 裏でも動けないようにしてやる」
「ひ、ひぇ・・・!?」
スピネルの目が座っていた。気のせいかもしれないが、目のハイライトが消えたような状態になっている。下手に何か言おうものならヤバイ気しかしない。
「待ってください。必要ありません」
「流川さん・・!? どうしてっスか!?」
「下手に触ると、更に面倒になります。相手はレベル6、僕達全員でかかったとしても勝てる可能性は限りなく低い。あの時は運が味方して、相手が油断していたからこそつかめた勝利だと言う事を忘れてはいけません」
リバティたちがやろうとしていた事を止めたのは、流川自身だった。
確かに流川の言う通り、あのプレイヤーキラーをネットで調べて見つけたとしても、ネットでダメージを与えるような事をして更に恨みを買えば、今度は確実に本人が殺しに来る可能性がある。
俺では時間稼ぎも出来なかったあの男、今度は油断も遊びもしないだろう、そうなれば確実に殺される。ここに居るレベル4は流川だけで、後はレベル3だ。勝てる可能性なんて残っていない。
先ほど流川が戦ってきたプレイヤーキラーについても流川が必死に逃げを打つような相手だ。下手に恨みを買って狙われ続けるのは自分の首を絞める事に他ならないんだよな。それを考えれば仕事を辞めて、表からの追跡手段を消してしまえば、そうそう見つけられる物じゃあない。
俺だって会社に同僚を巻き込みたくないから仕事を辞めた。今度は流川がそれを選んだだけって事だ。それがどれだけ悔しいか、辛いか・・俺も少し理解できる。
「~~~っ! 強くならねぇと・・・! 俺の恩人がこんな目に合ってるのを我慢するしか出来ねぇなんて・・・!」
「え、えーと・・・結局、やらない方が、いいのか?」
「あぁ。流川が止めている以上、俺達がこれ以上首を突っ込むわけにはいかねぇからな」
「わ、わかった・・・」
俺も悔しいし、佐伯少年だって、スピネルだって悔しいだろう。何とかしてやりたいと思うほど、流川にはとても世話になっている。
だが、一番悔しいのはきっと流川自身だ。
俺達に出来る事は、仕事を辞めた後の流川のメンタルケアとかだろう、表面上はいつも通りに見えたとしても、こういうのは結構引きずるからな。
俺が流川の為にしてやれることは・・・・
あぁ、一つだけあったわ。俺しか出来ない流川が喜ぶ事が。
「流川」
「どうしました御堂君?」
「好きなケーキ作ってやる。どんなものでもいいぞ?」
俺が出来るのは、俺の作るケーキが好きなこいつの為に、全身全霊で上手いケーキを作ってやる事だけだ。戦闘では頼りっぱなしで、生活だって今は流川に依存してる俺が、他に出来る事なんてこの位しかない。
慰めてもらう事なんて流川は望んでない、プレイヤーキラーをどうこうするのも俺達には出来ないし、逆に迷惑をかけてしまうのなら、俺は俺に出来る事で、流川を元気づけるだけだ。
「・・・・ふふっ。流石御堂君ですね」
「おいそりゃどういう意味だ??」
「あはははは。・・・そう、ですね。イチゴショート、あの時初めて僕が食べた、御堂君が作るイチゴショートを希望します」
「よっしゃ、任せろ! 今日買って来た材料じゃあだめだな、明日もっといい奴を買ってきて作る事にするか!」
今日買ってきたのはショートケーキ用もあるが、本格的に作る様な材料じゃあないからな。後、イチゴは買ってきてないから明日いいイチゴを探してこないとならん。イチゴショートはその名の通り苺がメインになるからな、安物や少しでも痛んでる苺なんて使う訳にはいかない。流川が心の底から喜んで食べられるような美味いケーキを作ってやらないとな。
「・・・うしっ! 御堂さん! 俺にもその苺のケーキ作り方教えてくれ!」
「佐伯・・?」
流石に表立って佐伯少年とは言えないので、基本は佐伯と呼んでるが急にケーキを作りたいと俺の詰め寄ってきた。
「俺が今流川さんに出来る事はその位っす・・・! なら美味いケーキを作ってあげたいじゃないッスか!」
「・・・ケーキ屋さん。私も本格的な指導・・・お願い」
同時にスピネルも真剣な表情で俺に指導を頼んでくる。本当に・・・
「慕われてるなぁ、流川」
「そうですね・・・有難い事です」
そう言って笑う流川を見て、俺達も嬉しそうに笑うのだった。
―76話了
──────────────────────────────────────御堂君ならではの、慰め方法。
美味しいケーキを作って喜んでもらう手段を取る事にしたようです。
そして流川君、PKの姿を特に伝えなかったことで
ゴスロリディーヴァの事を知られなかった現実・・・!!
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