第65話 わずかばかりの安息の為に準備してみた

今日も閲覧ありがとうございます。

先日ついに5万PVを達成しました。皆さん本当にありがとうございます。

まだまだ始まったばかりのお話ですが、少しでも楽しんでもらえるように

頑張っていこうと思います。

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 ミッションからあっという間に一週間が過ぎた。


 その間に次のミッションの報告はまだ来ていない、大体1ミッションの後1~2週間の間隔があるという話なので、次の連絡はもう少しかかるか、早ければ今日明日に通知が来るんだろう。


 今シーズンは後1~2回程度らしいから、その全部に参加する予定だ。何せリバティがこれ以降全部参加しないとまた防衛ミッションの対象になったり、シーズンオフ中にディザスター関係者に狙われるそうだから、いやでも参加させねばならん。


 だからこそ今のうちに出来る事は全部やっておかなければならない。


 サイレーン達はこれからの集中鍛錬の為に食料品を買い込みに行っている。


 俺はアクセルや佐伯少年とセーフハウスに設置されている地下施設で軽い鍛錬などをしてたりするんだが、よくまぁこんな地下施設とかある家を手に入れてるもんだなと感心しきりだ。ここ、いくら位かかったんだろうな。数千万円でどうにかなるのかねぇ、現金で買うのは難しいだろ。


 一応このセーフハウスは都市から外れた閑散とした森の中に建てられてるから他の人に出会う可能性とかはかなり低い。周囲に他に建っている家屋とかもないんで、隠れ住むには丁度いい場所だ、セーフハウスとしては最高の立地条件だな。


 まぁ、その分利便性はまったくないけどな。買い物行くのに車で数時間とか当たり前だし、勿論電気も通ってないからそこは自前の発電装置を使っているらしい。考えれば考える程、この家屋作ったのってディザスター関連とか裏の人間な気がする。


「セーフハウス自体、ポイントがあれば買えるからな、ジェミニもそれで購入したんだろう」 


「あ、やっぱりあるのか、そう言うのも」


「表の生活が出来なくなるプレイヤーも居るだろうからな。そういう奴等の為の安全な拠点とかも用意してるようだ」


 やっぱりディザスターが関わってるのか、全世界にこうまで関わってるんだしそう言うのもあるんだろうな。


「アクセルはそういうのは持ってなかったのか?」


「安い場所でも最低で5000はかかる。そして安い程拠点としての安全性は保障されてないそうだ。それに使う位ならレベルを上げるかスキルを取るさ」


 5000、確かにそれで最低限ならガチャを回したり、現金にして普通に住めそうな家を探す方が良いわな。レベル上げの為にも散財は出来ないし。


「・・・・ケーキ屋」


「ん、どうした?」


「いや・・・ジェミニはあんたをかなり気にしていたからな。友人だったか」


「あぁ、高校からだな。その後卒業して流川は大学、俺は社会人と離れたけど連絡は取り続けてきたんだ」


 俺はパティシエを諦めて自暴自棄っぽくなってたしな。大学に行く余裕もないし働いて暮らそうとしてた。流川は元々大学志望で、結構いい大学に行ってたんだよな。


 それでも良く流川の方から連絡が来て、一緒に遊びに行ったもんだ。男二人で遊園地とか行った事もあったなぁ、他はドライブや食い歩き、お互いに数日の時間を作って旅行とかもした。


 あの頃には流川はもうプレイヤーになっていたのか分からないが、あいつはいつも楽しそうにしていた。


「ジェミニの事は俺もそれなりに知っている、だが・・・あそこまで笑ったりする奴だったんだな」


「そうか? 結構あいつは笑い上戸だぞ?」


 後細い見た目からは信じれないがかなりの甘党で大食いなんだよな。俺が作ったケーキ1ホールなんて簡単に平らげるほどだ。


 前に聞いた話じゃケーキバイキングに行ったんだが、1個が小さいし全く美味くもないし、ただ腹が膨れるまで詰め込んで帰ってきたって聞いたから、どれ位食ったんだと聞いたら、「とりあえず全種3個は食べましたね、ただ甘いだけでしたよ」とか笑ってたぞ。


 そう言いながらよく笑ってたんだよな。


 俺の作るケーキを嬉しそうに食べてくれるから、俺もつい嬉しくなったもんだ。


「あんたしか知らないジェミニ、って奴か」


「・・・私も聞きたい」


「うわっ!? す、スピネル!?」


 いつの間にかスピネルが俺達の横に居た。アクセルも吃驚して振り返ってたぞ。彼女はパソコンで作業があると部屋に引っ込んでた筈なんだが・・・あ、リバティは部屋で同じくパソコン作業だそうだ、あちこちの掲示板を覗いたり色々やってるらしい。時々メールが来て「夜ボス倒すの手伝って」とか来るのは慣れた。


「急にどうしたんだスピネル?」 


「・・・ジェミニさんの昔の事、聞いてみたい」


 こっちを真っすぐ見ているスピネル。なんと言うかこう、サイレーンとは別方向に不思議系な感じがするんだよなこの子は。まだ中学生だったらしいし、高校生かと思ってたんだがなぁ。親とかは・・・いや、考えないでおこう。


 プレイヤーになった時点で、俺が何か言っていいものでもないし、多分どうにもならんだろう。寧ろ変わる可能性があるのは流川の言葉位だろうな。


 にしても・・・流川も大変だな、高校生でも犯罪なのに中学生に好意を持たれるか。プレイヤーだから表の法律は云々って訳でもないし、俺はこの淡い恋を応援してやる事しか出来ない。がんばってくれるかわちょうがんばれ。


「そうだなぁ・・・あれは高校での――――」








◇◆◇◆◇◆◇◆







「ふざけんなっ!? たった1回ミスしただけでこれかよ!?」


 テーブルを力任せに殴りつけ叩き壊した。


 そのまま辺りに当たり散らしている為か既に部屋の中身はボロボロだった。少し前までは金持ちが住んでいるような豪華な部屋だったのだが面影が全く残っていない。


 前回の防衛ミッション、彼。バトルネーム【リジェクション】は対象であるリバティを殺す事が出来ずに敗北している。戦闘では勝っていたが、最後に彼は知らないが時間を飛ばされて強制的にミッション失敗にされた結果、リザルトにプレイヤーキラーとしては致命的にミッションリザルトに名前が乗せられてしまっている。


 更にはディザスターから切り捨てられたと言わんばかりにこれ以降防衛ミッションで敵側として呼ばれなくなったのは納得できるものではなかった。


 名前が知られてしまったのもかなり面倒だ、既にソウルギア関連の掲示板では爆発的に名前が広がっている。誰かが写真を撮っていたの言うのか、彼の姿をとらえた写真まで出て来ており思うように動けなくなっていた。


 ミッションに紛れてプレイヤーを殺すという手段も潰されたのだ。


 普通にミッションに参加したとしても此方がプレイヤーキラーだとは知られている以上、油断した所をと言う事も出来ない。その場合は面倒だが実力でどうにかするしかないが、そんなことを続けていれば上位のまともなプレイヤー達に見つかり殺される可能性もある。


 油断さえしなければ、慢心さえしていなければ簡単にクリアできたミッションを失敗してしまった事が、彼の人生に暗い影を落としていた。


「くそが・・・!! あいつらを殺しにいく事も出来ねぇってのに」


 ディザスター側として参加した場合、そのミッションの後は参加したプレイヤーを次のシーズンまで襲う事が出来ない。そうすれば罰が待っているのだ、それを分かっているからこそここで暴れるしかできない。


 気分を紛らわせるために自分のソウルギアを抱こうとしたが、まさか気分がすぐれないからと断られたのも怒りに拍車をかけている。


「これまで、これまで上手くいってきたのに・・・! くそ! ジェミニ!? あのクソ女!!」


 彼が負けた理由の大半は邪魔にしかならなかった御堂ではなく、最後に自分をどうにかした流川と殺害対象のリバティに向かっていた。


 イライラが募り何かに当たらないと気が済まない。


 人間の女なんて抱くのはもう飽きたし、気分転換に誰かを殺すにも今は状況が悪い。だからこそ、ここで愚痴り続けているのだ。

 

「畜生が・・・! 何で俺がこんな目にあうんスか・・・!? おかしいだろ!? 俺は勝者になった筈なのに」 

 

 今までの自分とは違う、順風満帆な人生。ウザイ人間は殺して、邪魔なプレイヤーも殺して、それで大金が手に入り、力が手に入った。


 世界をどうこうしようとは考えていない、寧ろ現在をバラ色の人生にして楽しく好き勝手に生きる事こそが彼の夢だったのに、たった一度の失敗でその夢が脆くも崩れ去ろうとしている。


 とあるスレを覗くと、そこには前に彼に仲間を殺されたと思わしきプレイヤー達が自分について調べているレスをすさまじい速さで消費している。的外れなものばかりだが、中には本物の情報や、自分の姿が映った画像も出回っている。


 これは非常にまずかった。


 プレイヤーキラーはプレイヤーの敵対者だが、別に他のプレイヤーキラーと仲間という訳ではない。寧ろその逆で敵対者同士なのだ。


 自分が他のプレイヤーキラーに狙われる可能性すら出てきた。


 自分の生活が脅かされている。


 名前さえバレなければ大丈夫だったはずなのに。


「畜生・・・! お、俺が誰かに狙われる? か、返り討ちにしてやるっしょ・・・!」 


 実際レベル6の彼ならばそれが出来る。


 だが、出来るからと安心し続けるには彼は臆病で、助けてくれる仲間も何もいなかった。自分のソウルギアも最近はろくに会話もしていない。


「おかしいだろ、あの人形・・最初は俺にべったりだったくせに・・・!!」


 始めの頃の自分のソウルギアは自分の事が一番と言わんばかりに愛してくれていた。だからこそ好き勝手に弄べたし、好き放題やってきた。何も文句も言わないし、戦闘では忠実に戦ってくれてたので、更に好きに抱いてきた。


 それなのに、気が付けば。自分がプレイヤーキラーとしてレベルが上がれば上がるほど、人形の分際で自分に対する態度が悪くなっていっている。


「俺のソウルギアなんだから、言われるままに命令聞いてりゃいいのによぉ・・・」


 両親を殺させる時もそうだった。やめようとふざけたことを言う顔を張り飛ばして殺させた。なぜ逆らうのか分からなかった。調べればソウルギアの人型は主人に忠実だというのに、実際最初は忠実だったのに、事ある毎に逆らってくる。


 ハズレを引いたなと目の前で怒鳴ってやった事もあった。


 使えないソウルギアより、もっと可愛いソウルギアが欲しかったものだ。


 今回も結局レベル4の雑魚二体に苦戦して自分を助ける事も出来なかったのだ、本当に使えない奴だと吐き捨てる。


「ムカつく・・・ムカつく・・・! どうにか、どうにか復讐を・・・!!」


 ふと閃いた事があった。


 その方法ならば彼が罰を受けることは無い。


 気分の良くなった彼は自分のソウルギアを呼びつける。


「別に俺がやらなくてもいいじゃねっスか。くくく・・・」


 その目は怪しく輝いていた。




―65話了

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短いですが今日の投稿はこれで終了となります。

次のミッション前に何かあるのか、それとも??


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