第28話 色々と思いがあっても今が現実でしかない。

今日も何とか間に合いました。

どこまで毎日投稿が出来るか、難しい所ですね。

緊急ミッション編もそろそろ終盤、のんびりとお楽しみください。

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 周囲を固められるサイレーン達。


 すぐ横には倒れたバンカーと妖精達に操られているアクセル。戦闘力の無さそうなフェアリーズは妖精達に一応守られている。


 「お願い」によって強化された妖精達は耐久力を除けばレベル1から2のモンスター程度のステータスを手に入れている。それが周辺に何十体も展開し一切の逃げ道は無い。


「おねがいもうけてげんきいっぱい!」 


「あわれなぼくたちはせこせこはたらくしかないんだよー!」


「と、いう訳でほらどれいうごけ」


「ぐっ・・・・ううううう!!」


「あー、やっぱりいしきがあると、うごかしづらいなー!」


 無理やり動く身体を半死半生の状態で尚、自分の身体を動かさないように繋ぎとめるアクセル。体はほとんど支配されていて動かせないが、自分の意思でソウルギアの展開を止める事でほぼ動けない状態にしている。


「抵抗もそろそろおわるだろー」


「そうなればほとんど不死身のそうるぎあつかいが自由につかえるぞー!」


「あいては支援とすこしのこうげきしかできない、そうるぎあだから対抗もできないだろうなー」


「はやくしんでポイントになれよ、ほらはやく」


 無邪気に笑い続ける妖精達。本来の支配者であるフェアリーズは下を向いて震えているが、妖精達を止める事は出来ず成り行きを見守るしか出来ていない。


「クスクスクス」  


 そのほとんど詰みに近い状態でテルクシノエーが突如妖艶に笑い出した。


「なにわらってんだてめー! おかしくな」


 パンッと言う乾いた音と共に妖精の頭部がいきなり弾け飛んだ。その妖精だけではない、見れば周りの妖精達がどんどん頭部が弾けて消えている。


「―――――は?」  


 理由もわからず突如死んだ妖精達に動揺を隠せない。だが考える時間も無くそれも頭部が弾け飛ぶ。


「てめー!? なにをしやが―」


「あの雷撃程度ならきかない筈な――」


「うわあああああああああああ!?」


 悉く頭部が破裂し死亡していく妖精達。恐らくテルクシノエーが何か攻撃をしたのだと考えるが、何も抵抗出来ずにその数がどんどん減っていく。このままでは何もできずに全滅すると妖精の一体がフェアリーズに怒鳴りだす。


「やべー!! どれい! はやくやつをころ―」


「あぐぅ・・・! あ、頭が・・・・!!」


 殺せる願いをと彼女の方を向くと既にその場に倒れ込んでいた。意識はあるものの頭を必死に抑えている様子が見える。


 そんな様子を呆気にとられた表情で見ていたサイレーンがテルクシノエーに耳打ちした。


「え? え!? テルクシノエーってこんなに強かったの??」


 ステータスを見る限りではテルクシノエーはマジックこそ高いがスキルもほぼなく、デフォルトの雷撃魔法が使える程度でしかない。その雷撃魔法も先ほど初めて見たが、予想以上の戦闘力にサイレーンは驚きを隠せない。


「それより早く、あいつらが油断してる隙に二人を回復して? ネタがばれたら防御されて終わりなの。私が奴らの目を引き付けるから」


 妖艶に笑い続けているテルクシノエー。余裕そうに見えているが実際は綱渡りの状態で戦っている。この状態で妖精達が混乱しているからこそ、優位に立っているように見えるだけだった。


 今のうちにサイレーンの回復能力で最低でもバンカーかアクセルを回復させなければ自身の行っているペテンがばれてしまえば押し切られて蹂躙される。だからこそ気付かれないように余裕を見せつけているのだ。


「やべーよ!? このままじゃぼくたちがきけん! おらどれい! とっととおきやがれ!!」


「おねがいしろ! めのまえのあいつをくびりころすようなねがいを!!」


「あ、たまが・・・痛いよぉ、助け、あぐっ!?」


 頭を抑えて泣き続けているフェアリーズの頭を掴んだ妖精の一匹がそのまま殴りつける。手加減はしているが殴られた激痛が彼女を襲った。


「やめ、やめてぇ! これ以上は死んじゃうよぉ!!」


「いますぐしぬぞてめー!?」


「そう――」


 そうこうしている間にもサイレーンはバンカーの回復に向かう姿が見えるし、アクセルは制御していた妖精が死んだのか倒れ伏している。

 

 彼女を殴った妖精も頭部が破裂し死亡した。彼等特殊型のソウルギアなのでマスターの力を使えば無限に出現させられる、故に数体死んだ程度でどうにかなったりはしないが、このままでは優位に立っていた筈の此方が負けてしまう。


 テルクシノエーを殺しに向かう妖精もいたが、それらは彼女に近づく前に破裂し死亡していた。近づく程破裂する速度が速いと知るや距離を取って攻撃を仕掛けようとする。

 

 だがそれは余裕の表情で雷撃魔法で全て払いきってしまっている。これがアクセルやバンカーの攻撃ならばこんな簡単には捌けないだろうが、願いで強化されているとはいえ、元々の戦力が低い妖精達ではレベル2のソウルギア達に対抗する物理的な手段ほとんどない。


 だからこそ必死に考えテルクシノエーが何をしているか予測する。予測していた妖精が死んでも他の妖精がその考えを引き継いで予測を続けていく。


『あいつの力は発狂させる力と電撃魔法だけのハズ。ぼく達の頭部だけを破裂させて殺す力なんて隠し持っていたのかー?』


『いや、それなら奴隷が一番に死んでもおかしくないー』


『というか奴隷もダメージは受けてるし、奴隷を捕まえるために手加減してる感じでもないぞー』


 妖精達は破裂して死んでいるが、フェアリーズは頭部に激痛を感じて蹲っているだけだ。同じ攻撃を受けているのだと認識し、答えに辿り着きそこで破裂する。


『なるほどー! ぼくたちのお陰で答えがわかったぞー!』


『いそげいそげー!!』


 万が一を考えて彼女の護衛をしていた妖精が彼女の頭を持ち上げて叫ぶ。


「どれい! はやくぼくたちに【おねがい】しろ!! ぼくたちには―」


 破裂する妖精。だが、他の妖精はまだ沢山居る。


「いそげー! ぼくたちは「せいしんこうげき」が効かないってー!!」


「っ! させるかっ!! 雷撃よ―――!!」


 妖精達の言葉にテルクシノエーがフェアリーズに向かって雷撃を放つ。しかし今も生き残っている妖精達が壁となって彼女を雷撃からカバーした。


「ひぃい!?」


「おら! はやくしろ! つぎはまもらねーぞ!?」


「っ!! 妖精さん達は精神攻撃を無効化してください! 【お願い】です!」

 

 妖精達への願いは対価と共に叶えられる。


「しゃーねぇなー! どれいの寿命をぼくたち1体につき1にち程度でゆるしてやるー!」

 

「ぼくたちは1000たいいじょういるから、1000にちだなー!」


「そして――」


 再び雷撃を放つテルクシノエーだが妖精達は何体かを犠牲にして全てを受けきる。


「これで、【精神が耐えきれずに爆散】するはっきょうと、せいしんおせんはもうききかないぞー!!」


「くっ・・・!」


 攻撃がばれてしまい焦りの表情を浮かべるテルクシノエー。


 妖精達を破裂させていたのはイレギュラーナンバーにも使用していた彼女のスキル【狂乱の唄】だった。それをばれないように発動し、妖精とフェアリーズを破壊しようとしていたのだ。


 だが、妖精達は発狂死させる事はできたものの、フェアリーズはマジックがある程度高いのと精神防御用の装備を身に着けていたため、発狂や精神汚染はされず、激しい頭痛だけで済んでいたのだ。


 再びわらわらとフェアリーズの周りから現れ始める妖精達。その数は既に100を超えている。妖精の言葉が真実ならば千体は居る事になる。この時点でも既に手が無い以上、このままでは倒されるだけだ。


 サイレーンはバンカーの回復には成功していたが、意識はまだ戻っておらず戦力としては当てに出来ない、アクセルの方は支配していた妖精が居ないので倒れたままだが、このままでは再び操られてしまうだろう。


「てめーのせいで、だいじなだいじなぼくたちがへったじゃねーか」


「まー、どれいがしぬまでは無限にでてくるけどなー!」


「こすとをしょうひしてーだから、いつかどれいがしぬかもだけどだいじょーぶ!」


「どれいがすりつぶれたら、「ちがうプレイヤー」をどれいにするだけだもんねー」


「いまのどれいに、そういう「おねがい」をさせればらくしょーだ!!」


 精神汚染が効かなくなったのは妖精達だけ、フェアリーズ自体は回復もせずにその場で苦しみながら倒れている。それを蹴ったり突いたりしながら妖精達は笑いながら切り捨てるような言葉を吐いた。


 痛みと悲しみに涙が溢れるが、彼女は何もできずに蹲っている。


「あっちのれべる4とおまえらのますたーもこちらにきづいたよーだなー!」


「だけど無理だね! あいつにもぼくたちが何体か入ってるからなー!」


 粉骨砕身の死体とイレギュラーナンバーが動き出したのは妖精の数体が内部に入り込んで操っていたからだ。流石にイレギュラーナンバーは制御出来ず暴走させる事しか出来てはいないが、お陰で御堂とレヴォは此方に来ることが出来ていない。


 妖精達はフェアリーズの願いでイレギュラーナンバーの弱点を探しに行った時に既にその場に待機し、何時でも動けるようにしていたのだ。


 後は何食わぬ顔で弱点を伝え、イレギュラーナンバーを倒させた後は無理やり暴走させ全員を殺した後にポイントを手に入れるつもりだった。


 とはいえ他のプレイヤーはともかくレベル4レヴォについては自分達ではどうしようもない事が分かり、他のプレイヤーを殺してポイントを奪った後は撤退するつもりだったが。しかし思いのほかイレギュラーナンバーはレヴォ達を追い込んでいる様に見える事で欲が溢れる。


「あの様子じゃー、こっちにはまにあわないなー」


「おまえらをころしたら、疲弊しているあいつらごと、おまえらのしたいをつかってすりつぶせるかもー!」


「それならぜんいんぶんのぽいんとに、くりあほうしゅうがっぽがぽだー!!」


 莫大なポイントが手に入る、そうすれば自分達はさらに強くなる。


 妖精達は更に気を良くし笑い続けていたが、突如表情を変えると、再び回復を行おうとしていたサイレーンの周りを数十体が取り囲んでいく。


 バンカーをもう一度回復させて意識を回復させようとしていたサイレーンだったが、周囲を完全に囲まれて動けなくなる。


「そこでこっそりかいふくしよーとしてるやつ」


「!? か、囲まれた・・・!?」


「厄介な支援以外ろくにたたかえないお前等だけが、ここにいるじてんで詰んでるんだよ」 


 妖精達は口々にサイレーンに罵声を浴びせた。


「いい子ちゃんすぎるソウルギアとか吐き気がするぞー!」


「なんでぼく達ががどれいのようなかとうせいぶつに使役されなくてはならないのか!」


「プレイヤーはすべからく! ディザスターのおもちゃだろうよ!!」


「ソウルギアのぼくたちが上で! あいつらがした!! それが真理だ!!」


 妖精達のあまりにも勝手な物言いにサイレーンは怒りの言葉をぶつける。


「マスターあってこそのソウルギア! だからこその私達だ。お前達は狂ってる、お前達はソウルギアなんかじゃあない。ただのモンスターだよ」


「なんだとー!?」


「どれいのどれいがえらそうにー!!」


 妖精の一体が怒りの表情を浮かべ突撃した。避けようとするサイレーンだが戦闘型ではない彼女では完全に避けきれず、突撃が腹部を掠めた。


「っ!」


「ざこがえらそうにするからだねー!」


「よかったな、ソウルギアは、しねばしょうめつするし、僕達にあやつられずにすむぞー♪」


「おめでとう~~~♪」


 弄ぶように妖精達がわざとゆっくり攻撃を仕掛ける。


 何とか回避していくサイレーンだが、徐々に追い詰められていった。


 テルクシノエーの方も数十体の妖精達を相手にし完全に劣勢になりサイレーンの支援に向かう事も出来ずにいる。


 回避を続けながらサイレーンは何とかここを突破できないかと思念を巡らせるが、妖精達は少しずつ増えていっている。このままではもう回避する事も出来なくなるだろう。


 最悪の結末という考えが過る―


『これでおわり?? まだマスターとほんの少ししか暮らせてないのにこれでおわりなの』


 痛みと疲労がサイレーンの動きを鈍らせる。


「ほらほらどうしたー!?」


「かいひしてみろー!!」


「偉そうなこといったわりには、たいしたことねーぞー!!」


「うぐっ・・・!」


 腹部に直撃、サイレーンの身体が吹き飛ばされ地面に転がる。体が汚れ頭が割れたのか血が流れている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・!」


『諦めるな・・・! まだ私は生きてる! 私もテルクシノエーも生きている! あっちで必死に戦ってるマスターだって!』


 彼女は死ぬ訳にはいかない。最悪テルクシノエーかサイレーンのどちらかだけでも生き残ればいい。そうすればマスターである御堂が死ぬことは無い。しかし二人とも死んでしまえば御堂の魂が壊れ廃人となってしまう。


 自分が死ぬのは怖くないが、マスターが壊れてしまうのは何よりも恐ろしかった。だから生き残らねばならない。サイレーンはこうなった以上、自分かテルクシノエーのどちらかだけでも生き残る為にイチかバチかの賭けに出た。


「私だって、攻撃出来るんだ―――!」


 両手を組み祈るような姿勢を取るサイレーン。それはまるで物語に出てくる聖女か敬虔なシスターの様な姿だ。


 目を閉じ、可能性を奇跡を信じて高らかに歌いだす――


「ah-------------------!!」


「ふぎゃああ!?」


「ぎゃふっ!?」 


 サイレーンを中心に音の衝撃破が発生し周囲の妖精を薙ぎ払う。


―【スキル:サイレーンヴォイド】


 レベル2に上がった時に覚えた、彼女が使える唯一の攻撃スキル。


 サイレーンが歌う度に誘惑などの追加効果が発生する衝撃破が妖精達に襲い掛かる。


 だが―


「びっくりしたー!」


「吹き飛ばされたけどー、いりょくはたいしたことないなー!」


「みりょう?? ゆうわく?? いまのぼくたちはそういうのきかないぞー!!」


 サイレーンのマジックでは妖精達にある程度のダメージしか与えることが出来ていない。追加効果についても先ほどの願いで精神異常はすべて無効化されるので、副効果も期待できなかった。


「あはははははは!! やぶれかぶれとか!!」


「つんだやつはだいたい おなじこうどうしかしねーなぁ!!」


「みんな! かこんで つつんで ぼうでたたけー!!」


「ころせー!!」


 衝撃破を受け続けながらも妖精達はサイレーンに向かって突撃を再開する。


『マスター・・・!!』





「うん、じゃあ殺すね?」


「へ――――??」


 次の言葉を紡ぐことなく、サイレーンを襲っていた全ての妖精が切り刻まれ消滅していく。


「っ・・・! あ、貴女・・・は!?」


「はろー♪ 遅れたわね。マスター寝かしつけてきたせいで遅れたけど、寧ろそれが良かったのかしら?」


 目を開いたサイレーンが見た―


 初回のミッションの時に参加していた、幼児がマスターのソウルギアがそこに立っていたのを。



―28話了



──────────────────────────────────────Q フェアリーズの寿命どれだけもっていかれてるんですか?

A たくさん!!

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