第68話 湖の精の娘




 モードレッドは、一歩目から全力で先代へと身を飛ばした。


「我が叛逆を喰らえ、叛逆の剣リベリオン!」


 掛け声と共に、手にした短剣が黄金の光を放つ。


 因みに掛け声は自分で考えたものだ。以前パーシヴァル卿に掛け声の解説をした際は、非常に味わい深い表情と共に肩を叩かれ、「いずれ分かりますわ」と言われたのだが、何か私の知らないルールとかあるのでしょうか。


 ともあれ用いるのは聖剣で言う臨界形態。叛逆の剣リベリオン自体は解放形態まで再現可能だが、口惜しいことに自分が使用できるのはこれが限界だ。


 光を帯びた短剣を、まっすぐ上段から先代の構える聖剣へと振り下す。


 瞬間、


「掻き切れ! 叛逆の剣リベリオン!!」


「――何!?」


 言葉と共に、短剣がその姿を変える。刃はより長く内側へと湾曲し、柄は槍の様に伸長、


 出来上がるのは黄金に輝く死神の鎌。


 間合いを伸ばし、更には湾曲したその刃が、聖剣のガードを縫って先代へとさし迫る。


 だが、


「まだまだ甘いな、モードレッド卿!!」


 笑みと共に振られた聖剣が、その剣圧だけで此方の鎌の柄を弾き飛ばした。


 軽く後ろに飛び退き、鎌を再び短剣へと戻す。攻撃を当てる必要はない、今の自分の目的は注意をこちらに引き付ける事だ。


「―――ふっ!」


「見えてるぞアグラヴェイン!!」


 背後から目にも止まらない速さで振り抜かれた忠義アルジェンスの一撃は、身を沈めた先代の頭上を通過していく。


 それを見届けるより早く短剣を構え再度接近。威力ではどう頑張ってもオリジナルの聖剣に叶う物ではないが、先代が充填形態の現状ならば、こちらの方が僅かに速度は上を行ける。


「はあああああっ!」


 首元へ真っ直ぐに突き込んだ短剣が、下から振り上げられた聖剣に弾かれる。


 痺れるような衝撃に、しかし手を離さず変形。身の丈を超える特大剣と化した叛逆の剣リベリオンを、左から回り込んでいるアグラヴェイン卿の横薙ぎの一閃に合わせる様に振り下ろす。


「ほう、これは中々―――だが!」


 上と横から迫る斬撃に対し、先代は軽く地を蹴り、空中で地面と平行に体を倒した。


 その身体の下をアグラヴェイン卿の一閃が通り抜けた瞬間、体を捻りつつ聖剣で此方の一撃を横から殴り付け、


「はははっ! そら、崩れろ!!」


「ぐぅ!?」


 衝撃に特大剣はその重量で軌道が僅かにズレただけだが、それは反動で先代の体が移動したと言う事であり、空を切った特大剣を短剣に戻し構えるより先に先代の足が地面を蹴る。


「おおおお!!」


 狙いは大剣の重量で姿勢を崩した自分の首元だ。それに気付いたアグラヴェイン卿がこちらへ即座に切り返すが、僅かに間に合わない。


「―――――」


 しかし、聖剣は自分の体を文字通り素通りした。


「なッ――――ちいぃ!?」


 一瞬困惑に動きを止めた先代だが、即座に思考をアジャスト。迫るアグラヴェインの剣閃を弾き、飛来した光槍の間を縫って距離を取る。


「どういうことだ!?」


「こういう事――です!!」


 警戒する様に自分の姿を見つめる先代、その背後に出現したもう一人の自分が短剣を首筋へと横薙ぎに一閃する。それと同時に先代が見つめていた自分の体が水飛沫と共に弾け、大気に霧散し消えていった。


「なるほど、――水による幻影か!」


 側転に近い動作で短剣を躱し、返す刀で放たれた聖剣の切り上げを、こちらはバックステップでやり過ごす。


 正確には水による分身を作り出した上で、最初に見せた水流による転移で距離を取ったのだ。長距離では大量の水流が必要になるが、近距離ならば同時に蜃気楼を用いた幻影で転移時の水流は誤魔化せる。


「先代、言って置くがモードレッド卿は一対一なら円卓でも上位の腕前だ、嘗めてかかるなよ!」


「ははは! 貴様が太鼓判を押すなら相当だなアグラヴェイン。――何より嘗めてなどいないさ、アイツの娘ならこれくらいはやってくれんとな!!」


 先代の言葉に、自分は母を思い起こす。魔力を使い果たし転移を使用できない母と父を置いて、転移を用いれる自分と純粋な速度でそれに迫るアグラヴェイン卿が先んじてこちらへ来たが、二人も何らかの手段で向かって来ているのだろうか?




  ●



 一方そのころ、城壁とモードレッド達との中間地点辺りを移動する一団があった。


 それは蜜希を両腕で抱え、残り二人の神格を四つ足で掴んで宙吊り姿勢で空を行くギラファの姿。


「いやさ、魔力切れで長距離転移できないから運んでくれとは言ったけど、ちょーっとこの移動方法は想像してなかったかなー」


「ですね……まさかギラファ殿に運ばれるにしても、こうなるとは……」


 首元掴まれた猫のような姿勢で空輸される神格二人を眺めつつ、蜜希は恋人の腕の中で言葉を作る。


「しょうがないじゃないっすか、個人的にこのポジションは譲りたくないもんで。――あたたたギラファさんも少しゆっくり、響く響く!」


「……これ、向こうに到着した時には全部終わってるのでは無いかね?」


 まあ全身筋肉痛の女と魔力切れの神格二人が到着しても邪魔でしかない気もするからいいのでは?


 おいこら下を併走してるパーシヴァル。荷物私達捨ててギラファさんだけ先に行けばいいとかいうな。――その通りなんすけどね!

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