第69話  梅干しで一波乱が起きちゃう、ぽっちゃり


 あっという間に一杯目のご飯とおかずを完食したわたしの元に、次のご飯が出てきた。


「あいよ。次は干物と梅干しだ。嬢ちゃんの食べるペースだと二杯くらい同時でも問題ないか?」

「全っ然、問題ないです!」


 わたしのテーブルに、二杯のご飯と、干物と梅干しが置かれる。

 ちなみに他の皆はまだ三割くらいしか食べていない。

 どうやらわたしは大食いでもあり早食いでもあるらしい。

 まあまだたったお茶碗いっぱい分のご飯を食べただけだからね。

 まだまだ食事はこれからだ。


「ご主人、このうめぼし? ちゅうのは何なんや? 赤い木の実でっか?」

「実ではあるけど、木の実ではないよ。梅を塩漬けして干したものかな」

「そうなんでっか。でも、真っ赤っかでうまそうでんな」

「ぷるーん!」

「わいちゃんもサラも梅干し食べたいの? うーん、でも慣れない内はやめといた方がいいと思うよ」

「ぷるぅん……」


 梅干しは知らずに食べるとびっくりするからね。

 だけど、梅干しを食べられないと知ってサラが悲しそうに揺れる。

 うっ、そんな態度をされるとわたしがヒドイことをしてるみたいじゃない。


 どうしたものかと思っていると、ふとエミリーと目があった。


「コロネ様たち、何をお話になってるんですかぁ?」

「ちょっと梅干しについてね……あ、そうだ。良かったらエミリー、この梅干し食べてみる?」

「え、いいんですかぁ! 食べたいですぅ!」


 この反応からして……多分エミリーも梅干しを知らないな。

 わたしの中でイタズラ心がくすぐられる。


「おじさん! エミリーに梅干しを一つ注文してもいいかな?」

「梅干しを? ……ふっ。あいよ!」


 おじさんは一瞬だけ不思議そうな顔をしたけど、すぐにわたしと意図を察したのかニヤリと笑いながら一つの梅干しをエミリーにわたしてくれた。

 エミリーは小皿に一つだけ乗せられた梅干しをまじまじと見つめる。


「赤くてしわしわで不思議な形ですねぇ。それでは、いただきまーす! あーむ!」


 エミリーは勢いよく梅干しをパクッと頬張った。

 そして口をむぐむぐとさせた後、エミリーが目を丸くする。


「す、すすすす、酸っぱぁああああ!!?」


 エミリーは口を押さえてもだえている。

 ふふふ、油断して梅干しを一口で食べたらそうなるよね。


「な、ななんなんですかこれぇ!? 酸っぱすぎますよぉおおお!」

「梅干しはその酸っぱさがいいんだよ。ご飯が進むでしょ? ほら、その状態でお茶漬けを食べたらきっと美味しいよ」

「わ、わかりましたぁ。ばくばくばくばく!」


 エミリーはわたしのアドバイスに従ってお茶漬けをかきこんだ。

 ばくばくと食べた後、最後にずずずっとあったかいお茶を飲み干している。


 そんな光景を見て、おじさんは笑いながら話しかけてくる。


「何も知らねぇ人間に黙って梅干しを食わせるたぁ、嬢ちゃんも人が悪いな」

「エミリーを見てたらちょっとイタズラしてみたくなっちゃって」

「うぅ、ヒドいですコロネ様! もう知りません!」

「ごめんってエミリー! 機嫌直してよ、ね? ほら、梅干しとお茶漬けの相性も良かったでしょ?」

「……たしかにこのお茶漬けと一緒に食べたら美味しかったですけど」


 見てみると、エミリーのお茶漬けはキレイに空っぽになっていた。

 どうやら、今ので一気に食べきってしまったみたいだね。

 実際に梅茶漬けとかもあるから、梅干しとお茶漬けの相性が良いのは間違いない。


 だけど、今のエミリーの反応を見たら梅干しを食べようとは思わないんじゃないかな?

 わたしはサラとわいちゃんに向き直る。


「ほらね。この梅干しはとっても酸っぱいから、生半可な気持ちで食べると後悔しちゃうよ?」

「うっ、さっきのエミリーはんの反応を見てるとたしかに……いや、でもわいはこの梅干しを食べたい! ドラゴンとしての直感が梅干しを食べろと告げとるんやぁ!」

「ぷるーん!!」


 さっきのエミリーの姿を見ても、サラとわいちゃんの意思は変わらないみたいだ。

 そこまで固い意思を持っているなら、必要以上に止めないほうがいいかな。


「そこまで言うなら、わたしのを分けてあげるよ。幸いにも、梅干しは三つ入ってたからね。はい、サラとわいちゃんに一つずつ。あと、食べる前にご飯も頼んどこうか。おじさん! 大盛りサイズのご飯だけ二つお願いします!」

「嬢ちゃんの従魔も梅干しにチャレンジするとは中々見る目があるじゃねぇか。ほらよ、大盛りご飯二杯だ!」

「お、おおきに!」

「ぷるん!」


 これだけご飯があれば、梅干しの酸っぱさを中和できるね。

 そして、意を決したサラとわいちゃんは梅干しを一口頬張る。


「んんん!?!? す、すす、すっぱぁあああ!!?」

「ぷりゅりゅん!!?」


 わいちゃんは口を押さえて、サラは不規則に震えて酸っぱさをアピールしている。

 そして一気にご飯を食べまくった。

 サラはスライムボディを伸ばしてご飯を鷲掴わしづかみして食べ、わいちゃんはスプーンと少しとがったくちばしを器用に使ってご飯をかきこんでいる。


「やっぱり梅干しを見てると唾液が出てくるね……。それじゃ、わたしも食べよっと!」


 サラとわいちゃんが酸っぱさに悶えている隣で、わたしも梅干しをお箸でつかんで一口頬張った。


 んんん~~、酸っぱい!

 ここで、この酸っぱさをかき消すようにご飯をかきこむ!


「ばくばく、もぐもぐ、がつがつ! …………ぷはぁぁああああ~~~! ああ、酸っぱいけど美味しい!」

「もぐもぐ……ごっくん! な、何とか梅干しを食べきったで!」

「ぷ、ぷるん!」


 わたしが梅干しとご飯を完食してから少し遅れて、サラとわいちゃんも完食したようだ。

 無事に梅干しを食べれて偉いね。

 そういえば今気づいたけど、この梅干しは種がなかったな。

 種なしの梅干しだったから食べやすくて良かったよ。


「さぁて、酸っぱさでいい感じに食欲も刺激されたところで、こちらの干物をいただこうか!」


 わたしはおじさんが出してくれたもう一品に目を向ける。

 そこにあるのは、アジの開きのような干物。

 少し熱を通しているのかふっくらとした身から溢れ出る、香ばしい匂いがわたしを誘惑してくる。

 この焼き魚から香ってくる匂いはたまらないね。


「おお~、これもとっても美味しそう! やっばり魚にはこの醤油が一番だよね~……」


 そこでわたしはピシリと固まる。


「てかこれって醤油!? ヤマト国には醤油もあるの!?」


 干物に薄くかけられている黒い液体。

 それを間近で嗅いでみるけど、これは間違いなく醤油!

 異世界にも醤油があったんだー!!


 一人で突然テンションが上がっているわたしを、皆は不思議そうな顔で見ていた。




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