第50話 必勝法を思いついちゃう、ぽっちゃり
「な、なにが起こったの!?」
マッドブラッディツリーの叫びによって現れた、何体もの魔物たち。
その魔物は種類はバラバラで、オークやゴブリン、そしてさっきわたしと戦ったアーミータラテクトもちらほらと散見される。
そんな突如現れた多くの魔物たちは、引き寄せられるようにわたしたちの元に集まってくる。
まさか、この魔物たちはマッドブラッディツリーが集めたの?
この人面樹め、まだそんな隠し技を持っていたとは。
とはいえ、集まってしまったものは仕方がない。
襲ってくるなら迎え撃つしかないね。
「コロネお姉ちゃん! あれ!」
わたしが引き寄せられてきた魔物らに向けて魔法を撃とうかと思った瞬間、ナターリャちゃんがマッドブラッディツリーの方へ指をさす。
何事かと見てみると、集まってきた魔物たちはわたしの方ではなく、どうやらマッドブラッディツリーの方へ引き寄せられているようだった。
一体どういうことなのかと様子をうかがっていると、地面から触手のような根っこがボコボコとうねり出てくる。
それらの根っこは蛇のようにオークやゴブリンらを絡めとり、ギチギチと魔物の体を締めつけていく。
「ジュッジュッジュッッモモモオオオオオ!!」
その直後、マッドブラッディツリーの根っこに絡め取られた魔物たちが、急激に痩せ細っていく。
あれだけ大きな肉体を有していたオークでさえも、瞬く間にミイラのように干からびていく。
「あれはまさか……魔物を吸収してるの!?」
「ひぃぃいいいいい!! オークのミイラやぁああああああ!!」
足元でガタガタ震えているわいちゃんは放っておいて、わたしは目の前の光景を眺める。
よく考えれば、マッドブラッディツリーという魔物の名前には違和感があるよね。
マッドとツリーはわかるけど、今のところブラッディの要素が見当たらなかった。
ブラッディと言えば日本語で『血』という意味だけど、この魔物には血の要素は特に思いつかなかったからね。
「コ、コロネお姉ちゃん! あの木の上――」
「新しいマギの実が生えてきた……!?」
魔物をミイラにして血などを吸い取ったマッドブラッディツリーの枝が光りだし、そこから新たなマギの実がむくむくと成長していく。
根っこの吸収攻撃と、今のマギの実の生育で理解したよ。
つまりこのマッドブラッディツリーは、他の魔物をああして根で絡めて血やら肉体やらを吸い取って、そこから得た養分でマギの実を実らせているんだ。
もしかすると実らせる養分に魔物の血を使っているから、マギの実には魔素が含まれていてるのかもしれないね。
「今思えば、このマッドブラッディツリーの周辺だけ不自然なスペースがあるよね。木も生えてないし、よく見ると地面がボコボコしてる」
さらにこのマギの実を探しにいく道中、全く魔物に遭遇しなかったのも不思議だったけど、それも合点がいった。
あくまで推測の域は出ないけど、多分ここら周辺の魔物の大半はすでにこのマッドブラッディツリーの養分にされてしまったのだろう。
それならこの一帯に魔物が出没しない理由も納得できるし、マッドブラッディツリーが大量のマギの実を
つまりここら一帯は、マッドブラッディツリーの縄張りということだ。
「ジュッッモモモオオオオオ!!」
魔物を吸収して魔力を回復したマッドブラッディツリーは、地面を割って触手のようにしなる巨大な根っこで攻撃してくる。
わたしたちもさっきのオークよろしく血肉を吸い取って魔力の補給源にする魂胆か。
しかし、そのような根っこもわたしの展開するバリアは貫けない。
「ご、ご主人! 周りが根っこでぐるぐる巻きにされとりますがなぁー!!」
「バリアで守られてるから大丈夫だよ。……だけど、これじゃ身動きが取れないね」
バリアの周りを
なのでわたしは、ナターリャちゃんとわいちゃんの位置を確認しつつ、全方位に風魔法を撃ち放つ。
ズバババババババババ!! と、周囲に
根っこを切り刻んで妨げられていた視界が晴れると、そこには雄叫びをあげて激昂しているマッドブラッディツリーが現れた。
「ジュッッモモモモモモモオオオオオ!!」
マッドブラッディツリーが大きく揺れ、新しく実らせた緑色のマギの実をドサドサと落下させる。
次の瞬間、特大のウインドカッターが何発も連続でわたしたちに襲いかかる。
念のためバリア魔法にさらに魔力を流して強度をあげたので、巨大ウインドカッターの魔法攻撃も無力化できた。
だけどわたしたちのバリアの周りは、地割れのようにウインドカッターで切りつけられているので、威力はかなり高そうだ。
わたしもウインドカッターを発動してマッドブラッディツリーを伐採するけど、やはり回復魔法を使われてすぐに切断面を修復される。
「風魔法を使えば根っこでも幹でも切り刻めるけど……これじゃキリがないよね。何より回復魔法が厄介すぎる」
このまま戦ってマッドブラッディツリーの魔力を減らしていっても、またオークなどの周辺の魔物を引き寄せて根っこで魔力ドレインされたら意味がない。
同じ魔法を使える魔物で言うとさっき戦ったジェネラルタラテクトがいるけど、多分このマッドブラッディツリーの方が何倍も強いだろう。
なにせマッドブラッディツリーは使える魔法属性が複数あるからね。
ジェネラルタラテクトに関してはナターリャちゃんのファインプレーで簡単に倒すことができたけど…………ん?
「魔法を扱う魔物――――魔石!」
そう言えばあの時ナターリャちゃんは、魔法を使う魔物には魔石があるって言ってたよね。
そして、その魔石を破壊すれば魔物は即死するとも――
わたしは傍にいるナターリャちゃんにたずねる。
「ナターリャちゃん! マッドブラッディツリーの魔石の場所がどこにあるかわかる!?」
「う、うん! 魔素の流れからみて……多分、あそこだよ!」
ナターリャちゃんが指差したのは、幹の上部、ちょうど幹から枝葉が派生していく部分だった。
その部分は大きな枝と葉っぱで隠されていて、あまりよく見えない。
もしかして弱点だからあまり見えないように隠しているのかな。
だけど、場所が分かればこっちのもんだよ。
「あとは魔法で魔石を破壊すればいいんだけど……今回はちょっと趣向を変えてみるか」
普通に風魔法を撃ち込んで魔石を一刀両断してもいいんだけど、もしかすると再生魔法で生き返るかもしれないからね。
万に一つも復活の可能性がないようにするなら、魔石そのものを一瞬で消し飛ばすのが一番だ。
なのでわたしは、破壊をイメージして魔力を練り上げた。
わたしの体から、黒い魔力が漏れ出てくる。
「魔力を圧縮して濃度を上げて――発動! キャノンボール!!」
破壊のエネルギーを蓄えた魔力の砲弾は一直線にマッドブラッディツリーに突き進んでいき、魔石があるポイントに風穴を開けた。
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