第18話  過度に期待されちゃう、ぽっちゃり

 

 レスターさんとクレアさんから教えてもらった〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉の情報をまとめるとこのような感じだ。


 〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉はお金で冒険者を釣っているから、ここのギルドで仕事を受ける冒険者が減っている。

 その結果、〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉は実力のある冒険者を多く抱えることになって、それによって益々ますますギルドマスターの影響力が高まっている。

 さらに、そのような影響力が高いギルドに所属しているという優越感からロクでなし冒険者共が街で横暴な振る舞いをしていると。

 

 結論、詰んでますやん……!

獅獣の剛斧ビーストアックス〉が街の防衛戦力として重要な位置を占めている以上、この問題を解決するのは多分ムリなんじゃないかな。

 街が魔物に襲われた時に対応できなくなるかもしれないからね。


 わたしが早々に諦めているのに対して、レスターさんは力強くわたしの肩に手を乗せた。


「だからこそ、コロネのような実力者が我が冒険者ギルドに出入りしてくれれば、少しは〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉に対する抑止力になる! 間違っても、〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉に引き抜かれたりせんでくれよ?」

「コロネさんは〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉なんかに引き抜かれることはありません! ですよね、コロネさん!」

「え? う、うん」


 あれ、なんかいつの間にかわたしはここの冒険者ギルド専属の冒険者みたいになってない?

 まあわたしをののし冒険者ロクでなしがいる〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉で仕事を受けることはないだろうけど、だからと言ってこのギルドで一生を捧げるつもりはないからね?


「ちなみに、〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉のギルドマスターの名前は何て言うの?」

「ダルガスという男だ。お前さんほどの実力があれば、奴の方から接触してくるかもしれない。この先、出会うようなことがあれば十分に注意しろ。もしどうしても不味まずい状況になった時は俺の名前を出せ。できる限りのことは対応しよう」

「分かりました。ヤバくなったらレスターさんの名前を使って色々言って逃げ切ります」

「……くれぐれも、俺の評判を下げるようなデマだけは流すなよ?」 


 レスターさんが疑うような目でわたしを見る。

 全く、人聞きが悪いね。

 わたしはそんなデマを流すような悪人じゃないよ。

 ただ、レスターさんから名前を出していいと言質げんちは取ったので、もし困ったことがあれば遠慮なく使っていこうと思ってるだけだよ。


 今度は、横にいた職員のお姉さんが思い出したように声をあげ、わたしの手を握る。


「名前と言えば、私まだコロネさんに自己紹介をしておりませんでした! 私はこの冒険者ギルドで受付を担当しているクレアと申します! コロネさんのためなら頑張ってご希望のクエストをご用意致しますので、どうか今後も我が冒険者ギルドをご贔屓ひいきくださいね!」

「あ、ありがとう。まあ、ほどほどにね」


 わたしの手を両手で握るクレアさんは、満面の笑みで顔を近づけてくる。

 何だか熱量が凄くてレスターさんとは別の意味でちょっと怖いよ。


 わたしが苦笑しつつ何とかクレアさんを引き剥がしていると、レスターさんがふところから一枚のカードを取り出した。


「コロネにはこれを渡しておこう」


 差し出してきたカードを受け取る。

 カードの大きさや感触は、まんまクレジットカードみたいな感じだ。


「もしかしてこれは……」

「お前さんの冒険者カードだ。ここに下りてくる時に、カードを発行していた職員から預かってきた」


 ああ、そう言えばわたしがギルドカード用の書類を書き終えた後、クレアさんが別の職員に書類を渡していたね。

 ギルドカードを見てみると、名前と年齢、性別が左上に箇条書きで記されていて、右上には大きな『G』という文字があった。

 どうやらこのアルファベットは、冒険者ランクを表しているようだ。

 ゴキ○リじゃないよ。


「初心者はみな、一番下のGランクからスタートだ。とはいえ、一人で数人の冒険者を相手取れるお前さんならすでにBランク以上の実力はあるだろうが、まだクエストの実績がないからな。レベルの高いクエストを達成していけばすぐに冒険者ランクは上がるから、ぜひ我がギルドで邁進まいしんしてくれ!」

「コロネさんならきっとSランク冒険者になれますよ! 応援しています!!」

「はは、まあ、善処します……」


 レスターさんとクレアさんの圧がすごい。

 言っとくけどわたしは冒険者として成り上がる気なんてないからね。

 冒険者になったのだって、美味しい魔物を倒した時についでに実績もつくとお得かと思ってのことに過ぎない。

 わたしの目的はとにかく美味しい料理、異世界グルメを食べまくることなのだ!


 だけど、これで晴れてわたしも冒険者となった。

 やっぱり冒険者といえば異世界モノの定番だからね。


 わたしはこれからの異世界生活に、確かな一歩を踏み出した気がした。




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