結
僕たちの本当に最後の時間が始まった。
脳内に結婚式の鐘が響き渡る。
「あなたは新婦灯里さんを妻とし、病める時も健やかなる時も、これを愛し、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」
灯里が僕に問いかける。
「はい、誓います。」
「私、灯里はあなたを夫とし、病める時も健やかなる時も、これを愛し、この命が "尽きても" 心を尽くすことを誓います。」
指輪は公園にあるシロツメグサで作ったもの。
お互い触れることができないため、指輪はそのまま地面に落ちる。
でも僕たちの指には確かに光り輝くリングが見えた。
「…本当は、本物の結婚式を挙げたかった。
灯里の目には涙が溜まっていく。
最期の最後で本音を言う灯里は狡かった。
それでもどうしようもなく、愛おしいと思ってしまった。
オレンジ色の絶望が空の色を染め直していく。そこからはあっという間で、灯里の姿はうっすらとしか認識できなくなっていた。
思わず視界が滲んで余計に灯里の姿が確認しづらくなる。
夜明けまでに泣き止むという彼女との約束を僕は破った。
だから、
「結局最後まで泣き止めなかったよ。泣き止めなかったからさ、もうちょっとだけ、ここにいてよ。僕の涙が止まるまででいいから。」
僕の必死の抵抗だった。
こう言えばまた君は、しょうがないなって言ってもうちょっとだけ、隣にいてくれるんじゃないかって期待した。
泣いてそばにいてくれるんだったら僕は一生泣いてやる。
それでも彼女は首を横に振った。
「愛してた。」
最期の言葉は彼女の優しさに包まれていた。
僕に無理やり、前を向かせようとしていた。
僕は灯里が常に一歩先にいて、いつか隣になれる、そんな前しか見たくないのに。
灯里が消えかかる直前、僕は灯里にキスをする。
何にも触れていないはずなのに、陽の光を浴びたからか、少しだけ体温を感じられた気がした。
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