第24話 予備の星

 セインがツヴァイを操縦するようになって驚いたのは、エルフに伝わっていた呪文がツヴァイでも普通に使えるということだった。

むしろ、11エルフの末裔であるトレントの騎士よりも、その威力が高い。

そして、その能力には、まだまだ未知の部分があるように思えた。


「星よ、星よ、わが願いは炎。

我が敵を炎をもち滅せよ」


 炎の魔法の呪文をセインが唱える。

すると目の前のAR画面に文字が流れる。


衛星ネットワークスターリンク接続。

接続レベル良好。

認識番号AAA02によるコマンド受諾。

ターゲット捕捉。

大気中ナノマシン励起状態確認。

エネルギー伝送システム起動。

エネルギー伝送開始。

ナノマシン発熱確認。

要請の完了を認む。

エネルギー伝送終了。

エネルギー伝送システム停止。

衛星ネットワークスターリンク断』


 そして、ターゲットにした岩が溶け落ちた。

これが以前セインに貸し出された11エルフの末裔のトレントの騎士だと、岩の上に炎が上がる程度で終わる。


 何か大きな差があるのは明らか。

尤も、ツヴァイがロストナンバーと呼ばれるトレントの騎士であり、特別なのは理解している。

それがこの結果を齎しているのも、ロストナンバーだからで済んでしまう。

特に、AR画面に流れる文字列の存在は他には無い現象だった。

そもそも旧ツヴァイでもセインはそれを経験したことがない。


 そして、考えるのだ。

もし、もっと大きな被害結果を思い浮かべたら、それが実現してしまうかもしれないと。


「今は天の星が真上に近いから魔法が使えるが、徐々に威力が落ち、あと五日ぐらいしか魔法は使えない。

その後半月は魔法は使うことが出来ない」


 エルフの操者が言うには、魔法は開眼の儀式の出来る日前後の半月の間だけ使える。

それは星から授かる力であるため、星が天空に無いと使えないという事だった。

星の周期が一カ月なので四週間の半分二週間だけ魔法が機能するのだろう。


 セインはエルフに残されている呪文をツヴァイで試して行った。

何が出来て、何が出来合いのか?

それを知る必要があると思っていた。

だが、11エルフの末裔のトレントの騎士に出来て、ツヴァイに出来ない事など無かった。


 そして、星が隠れた日。

もう11エルフの末裔のトレントの騎士は魔法が使えなくなっていた。

セインは、魔法が使えない状態でAR画面にはどのような文字が流れるのか気になって、試してみた。


「星よ、星よ、わが願いは水。

清らかな水を我に齎せ」


 それはちょっとした飲み水を得るための水の呪文。

ツヴァイが行うと雨ごいになってしまうものだった。


衛星ネットワークスターリンク接続。

中継衛星接続確認。

接続レベル良好。

認識番号AAA02によるコマンド受諾。

ターゲット捕捉不可。

エネルギー伝送システム起動不可。

予備衛星起動。

レーザーシステム起動。

ターゲット捕捉。

発射。

雲の発生確認。

降雨確認。

要請の完了を認む。

衛星ネットワークスターリンク断』


 何故か魔法が使えないとされていた時期なのに使えてしまった。

指定の場所に雨が降った。

そして、AR画面に流れた文字がかなり違う。

もしかすると、開眼の儀式を行う星の反対側にも星があって、その機能が失われていたのかもしれなかった。

それが、どうやらツヴァイの力で予備衛星が使えたらしい。

しかも、その水を得る過程が全く違う。


 以前は、ナノマシンにエネルギーを伝送することで、水を生成していた。

おそらく空気中の水をナノマシンが集めたか、水素と酸素からナノマシンが水を作ったのだろう。

それが今回は、大気にレーザーを当てることで雲を発生させ、そこから雨を降らせていた。

つまり、使えなくなっている衛星と予備衛星は機能が違うのだ。


「だけど、これって明らかに機械文明の産物だよな……」


 セインの前世の記憶が、そう囁いていた。

古の文明の産物。

その力を得てしまったことに、セインは恐怖を覚え居ていた。

それは使い方次第では、世界を滅ぼすかもしれないものだったからだ。


 ◇


SIDE:聖星教三騎士


「なんだこれは!」


「何かあったのですか?」


 赤い線の騎士が驚愕の声を上げ、青い線の騎士が上官に対する態度とは思えない暢気な問いかけをする。

それは、マッドシティで探索をしている最中だった。

マッドシティは、下衆な領主が治めているだけで、聖星教としては特に問題はなさそうだった。

そして、ロストナンバーズに関する情報も全く手に入らなかった。


 そこに振って湧いた異常事態。

聖星の騎士たる赤い線の騎士の言動に青い線と黄色い線の騎士が注目する。


「いま、主星が強制的に起動された。

つまりズィーベンよりも上位の権限を持つロストナンバーがいるということだ」


「「なんだって!」」


 それはズィーベンの力を脅かす存在だった。

ズィーベンの主星の機能を強制的に使用できるのだから。


「これは聖都にお伺いを立てなければならぬやもしれぬ」


 それは大規模な戦争が必要だとの認識だった。

ただの主人を失ったロストナンバーの捜索が、主人を得たロストナンバーとの戦いとなってしまったかもしれないということだった。


「どのような者の手にロストナンバーが渡ってしまったのか?」


 聖星赤い線の騎士は聖星教に対する脅威となり得る存在に、嫌な予感しかしていなかった。

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