第6話コロッケハンバーグどら焼き牛丼生のブリ他、ミートボール追加

「ぐわぁぁぁぁ」


 だが悲鳴を上げたのは血を吸ったキングの方だった。


「げぇぇぇぇ、ゴホッゴホッ」たった今吸ったばかりの血を床に吐き出し、苦しそうに咳き込んでいる。

 当の俺は何が起きたのか分からず当惑しながら噛みつかれた首を押えていた。


「な、何なんだお前は・・こんなに不味い血を飲んだのは初めてだ!」

「なっ・・それより何だよ! 襲わないって約束したじゃないか!」


「ハァ・・ハァ・・。ふん、保証はすると言っただけで襲わないとは言っておらん」


「ひっでぇ~~。鬼! 悪魔! まじ、痛かったぞ。うわぁ気持ち悪りぃ」首を押えていた手を見ると血がべっとりと付いていた。


「あっ、しかも絨毯に血を吐いちゃってどうすんだよぉ。責任とって掃除してもらうぞ」


(絨毯にこんなでっかいシミなんて作ったら母さんにどやされるよ、まったく・・)


 青いポリバケツに水を入れてブラシとスポンジを持って来た俺は「我が掃除などありえん!」と突っぱねるキングに無理やり掃除を任せた。


(ヴァンパイアキングが這いつくばって絨毯をブラシで掃除するとか面白すぎる。でも俺こんなに血を吸われて大丈夫なの? 肉とか食った方がいいかも・・)


 もう明け方近かったが冷蔵庫を開けて血になる物はないかと物色した。


「あ~マルシンミートボールしかないなぁ。でも肉は肉だからいいか」


 俺はフライパンを熱してミートボールを炒め始めた。――俺は炒めてソースとケチャップでハンバーグみたいな味付けにするのが好きなんだよねぇ。ついでにピーマンも一緒に炒めてっと。


「おい、掃除が終わったぞ」


 いつの間にかキングが青いバケツを持って立っていた。


「洗面所に置いといてくれ」まだムッとしていた俺はぶっきらぼうに洗面所の方向を指さした。


 キングが洗面所へ行く気配がしたが俺はそのまま調理を続け、熱々のミートボールを皿へ移した。ダイニングテーブルへ皿を置こうと振り返るとキングがちゃっかりテーブルについていた。


「まさか食う気?」

「腹が減ったと言っただろう。いい匂いがする。早く食わせろ」


 しぶしぶ取り皿を出してキングにもミートボールをよそってフォークを添えた。キングはフォークでぶっすりとミートボールを突き刺し口に放り込んだ。


「美味いぞ! これは一体何の肉なのだ?」

「これは豚肉だよ」


「何っ豚だと?! この世界ではオークを食するのか?」

「いやいや、ファンタジーじゃあるまいし。オークじゃなくて顔だけ似てる豚っていう家畜がいるんだよ」


 納得したような、してないような難しい顔をしてミートボールを眺めていたキングはそのまま食事を再開した。ついでに皿に盛ったピーマン炒めも綺麗に食べつくしたキングは満足そうに言った。


「うむ。明日もこの『ミートボール』を所望する」

「はいはい、分かりましたよ。あ、皿をシンクに持ってって洗っといて。俺はあんたの部屋を用意してくるから」


 2階には3部屋あった。一つは俺の部屋。もう一つは使っていない物置代わりの部屋。そしてもう一つは・・。


――物置の部屋でいいな。一応ベッドもあるし。


 この家に引っ越してからベッドを新調した俺は古いベッドを捨てずに置いてあったのだ。友達や親せきの子が遊びに来た時はそれを使って貰っていた。だから物置の部屋と言っても綺麗に掃除してある。


 新しいシーツと枕カバーに取り換え、タオルケットを敷いて終わり。今日は暑いからこんなもんだろ。


「おーい、ベッドの用意が出来たからもう寝ろよ」そう言いながらふと思った。ヴァンパイアって夜行性?


 振り返るとまたキングが真後ろに立っていた。「うぉっつぁ~なんで音もなく忍び寄るんだよ心臓が止まるかと思ったよ」


「そういう習性だ。仕方あるまい」キングはベッドを見下ろした。「ヴァンパイは棺桶で寝るものだが?」

「そんな物、普通の家にないよ。寝てみろって、フカフカで気持ちいいぞ」


――父さんの会社が取引してるポーランド産羽毛の高級羽毛布団だ。サンプルで貰ったやつだけど安物の羽毛布団とは雲泥の差だからな。


 キングは上着を脱ぎだした。


「あ、パジャマ忘れてた。俺のスエット上下でいいよな」俺は隣の自分の部屋に取りに行った。


 グレーのありふれたスエット上下を持って戻ると♡イヤァァ~~ン♡すっぽんぽんのキングがベッドに入ろうとしていた。


「うわっちょちょ、何で裸? 王様は裸で寝るのかっ?!」

「お前は服を着たままで寝るのか?」


「何気にあっちもキングサイズだな・・じゃなくて、俺はパジャマ着て寝るよ!」

「ではそれを寄越せ」


「ここ置いとく。あ! 朝まで大人しくしてるんだぞ。外へ出て人を襲ったりするなよ!」

「大丈夫だ、腹は満たされた」


 俺も隣の部屋に引き上げた。明日は学校だ、しかも細かい事にうるさい教授の授業が一番初めにある。居眠りなんかしてたら単位を落とされかねない。夜更かしは出来ないのだ。


(しっかし俺の血ってそんなにまずいわけ? 腹減ってるヴァンパイアならまずくても飲むんじゃないの? 俺の血を吐き出しておいてミートボールは食べるってどういう事?)


 ベッドの中で悶々としながら俺は眠りについた。


 

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