籠城

武州人也

帰郷

 郷里へと帰る電車の中で、僕は文庫本のページを繰っていた。最近は陳舜臣ちんしゅんしんの歴史小説を読んでいる。耶律楚材やりつそざいという聞き馴染みのない人物の小説だけど、モンゴルと関係あるということで読んでみたらなかなか面白い。


 歴史小説……僕はやっぱり中島敦が好きだ。網羅しているわけではないけど、山月記以外のものもいくつか読んだ。特に『李陵』は思わず泣いてしまうほどに心を動かされた。


 中島敦といえば、やはり不朽の名著『山月記』だ。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」という文言には、やはり思うところがある。いや、思うところがある、なんてもんじゃない。僕はまさに、そんな心の塊だった、といえる。


 電車とバスを乗り継いで実家の前まで来た僕は、生ぬるい息を一つ吐いた。鉛色の空の下、吹き寄せる湿った風が、道端に茂ったヒメムカシヨモギを揺すっている。


 今の自分が実家の敷居を跨ぐのは、失敗作を両親に見せつけるようで実にしのびない。とはいえ全く顔を見せないというのも不孝だと思って、毎年のお盆休みには顔見せ程度に帰省している。しかしやはり、気が重いことには変わりなかった。


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