第22話 竜の声③
「ここか……」
城下町を通りすぎて大きな城門の前に立ち、王宮を見上げる。
あの大きな屋敷を所有しているランドルフ家よりも確実に権力をもっている王様に話を聞いてもらえばなんとかなるかもしれない。だが、話したらあの当主はきっと投獄されるだろう。父上のように。
「、――」
葛藤がないと言えば嘘になる。でも、竜があんなに弱弱しく助けを求めるようになるまで幽閉していたんだ。だから、当然の報いで……。
ランドルフ家の他の人間はどうなるんだろうか。近しい人物もおそらく同じく捕まってしまうだろう。なんにも知らない年端もいかない子どもがいたら……? サルヴィオのようになってしまうのだろうか。
「……それでも、俺は……っ」
俯きかけたその時、ヨリがいろいろなものを美味しそうに食べている笑顔が頭を
「そうだ、人間の勝手で竜の自由を奪うなんて」
――許されないことだ。
あの時、痛くて嫌だと、自由になりたいと、伝えてくれた彼女がいたから、俺は今ここに立っている。ヨリだけが助かればそれでいい、なんてことはない。
子どもの頃に絵本の中で見た竜は、どれもみんなかっこよくて空を自由に羽ばたいていて、そんな姿に魅了されたんだ。御伽話の中だけではなく、この世界でも竜は気高くなにものにも縛られることなく生きていてほしい。
竜を助ける。そう改めて決心し、王宮の敷地内へと足を踏み入れた。
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「――では、こちらでお待ちください」
少し拍子抜けしながら案内された部屋の椅子に腰を掛けた。
頑なに門前払いしようとしたランドルフ家とは違って、王様に会って話がしたいとだけ告げたのに、簡単に中に入れてもらえた。もちろん約束などしていない。
「王様はどのような人にも気さくに接してくださります。それは、実際にその場で働いているのは民たちですから、彼らの声を聞くことを何よりも大事にしていらっしゃるからです」
不思議そうにしていたのが分かったのか、案内してくれた人が道中でそう説明してくれた。何はともあれ、ここまで通してもらえただけでも、あの竜を助けるのに一歩近づいた。
いつ王様が来るのかとソワソワして部屋を見回す。応接間だからなのか、どの装飾も華美で豪華絢爛だ。このヒベルタウを歩いてみて、国の資金が潤沢だと思える場面はなかったが……。
そんなことを考えていると、部屋の扉が数回叩かれた後、ゆっくりと開く。
そこには、30代くらいの男性が立っていた。彼が王様だろうか。想像していたよりも若い。
「お待たせして申し訳ありません。えっと、それで貴方が……」
「ヘラルド・アルヴァレスです。旅をしております」
「そうですか。ようこそ、ヒベルタウへ! この国の長をしています、バルナエルです」
こちらへと歩み寄ってきたバルナエル王と握手をする。言っていた通り、彼は友好的だ。俺の存在を怪しむような素振りもない。これなら、あの竜を助けられるかもしれない。
向かい合って座ったところに、使用人がやってきてお茶を差し出す。
「――我が国はどうですか?」
「まだ着いたばかりで……とにかく暑いですね」
「はっはっ! そうですね、ヒベルタウはおそらく世界一暑い国なのでね」
「慣れるまでは時間がかかりそうです」
当たり障りない会話をして、バルナエル王の警戒心を緩める。民衆とよく話しているだけあって、探りをいれるなど相手を疑うことはそれほどしないようだ。
「それで、どのような御用でここに? 私と話がしたいとのことですが、こんな他愛ない話をしたいわけではないしょう?」
「それは――ジョエトロ・ランドルフという人物をご存知ですか?」
「え? ええ、もちろん。我が国でも有数の資産家ですよ」
「では、彼が竜を捕獲していることは?」
そう質問したら、一気に部屋の空気が張り詰めた気がした。笑顔で会話に応じてくれていたバルナエル王も、一瞬笑みが消えて視線が鋭くなった後、また笑顔に戻った。
「竜を捕獲、ですか……何か証拠がおありで?」
「物的証拠は何も……。ですが、真実なんです!」
「証拠もないのに、地下に竜がいるなんて言われましても……」
「っ!」
ランドルフ家でも同じように言われて追い返された。証拠ならある。目には見えないが、決定的証拠が。
「……信じてもらえないと思いますが、俺は竜の言葉が分かるんです」
「竜の言葉?」
「はい。それで、ランドルフ家の方から助けてって声が聞こえて――」
「……はっはっ! 面白いこと言うね、君!」
先ほどまで友好的な笑顔だったのに、途端に嘲笑うかのような態度に変わった。きっと嘘を言っていると思われているに違いない。今までもそうだったし、俺が逆の立場ならどう考えても嘘だと思うから。
でも、現実は竜の言葉が分かるのが本当で。だから、ヨリを助けられたし、ランドルフ家に幽閉されている竜も助けようとしている。
「冗談ではなくて、本当で……」
「いやぁ、これ以上笑わせないでくれ! 君はどこぞの御伽話にでも感化されてしまったのかな? もう少しマシな嘘をついた方がいいよ、はっはっ!」
「っそうではな――」
「いずれにせよ!」
バルナエル王が強い口調で俺の言葉を遮る。つい今、腹を抱えて笑っていたとは思えないほどの真顔になって、もう何も言わせないといった感じで威圧してきた。俺は言葉を続けようと思ったが、その凄みのせいで叶わなかった。
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