第9話 ドーナツ②
翌朝、次の国に行く前にドーナツを完成させることにした。
まずは、材料が必要だったから、道中にあるそこそこ大きい国の近くに降り立ち、小麦粉……ではないけど、似たような粉やその他必要なものを購入した。
詳しい作り方は知らなかったけど、この世界のパンのようなものの作り方を参考にできたおかげで、なんとか生地はすぐに形にできた。
一番の問題は油だった。
ドーナツは当たり前だけど、植物の油で揚げている。けど、この世界は基本油と言えば動物の油。
一応動物の油を用意して揚げてみたけど、見た目はそれっぽくなったもののずいぶん獣臭くなってしまった。甘い物というよりはおかずになってしまって、これはこれで美味しいんだけど、ドーナツを求めていたから仕上がりに納得はできなかった。
だからと言って、植物の油が用意できるわけではない。
解決の糸口が何日も見えてこなくて、ドーナツ作りをもう諦めようとしていた時に、前世で見たテレビの記憶がふと蘇ってきた。
(焼きドーナツ……)
「焼いてもどーなつ、できるの?」
(た、多分……?)
焼きドーナツが流行っていると見たことがある気がする。本当は揚げたのが食べたいところだけど、用意できないとなるとこれしか手段がない。
ヘラルドはドーナツの形に生地を整える。何度か作ったから、もう手慣れてきている。
「エクンプみたいに焼けばいいかな」
(それだと中に火が通る前に焦げちゃいそう)
「たしかに。そうだなぁ……直接、火魔法で焼いてみようか。こっちの方が加減できるし」
そう言って、ヘラルドは大きめの石に金属の板を置き、その上にドーナツの生地を乗せる。詠唱して、手のひらサイズの火を繰り出す。生地の状態を確認しながら、火の強弱を調整する。
ほのかに甘い香りが漂ってくる。パンとほとんど同じようなものでできているせいか、パン屋の近くを通った時のような匂いだ。
「このくらいでいいかな? 焦げてないし、中は……うん、大丈夫そうだね」
(完成?)
「一応。ヨリ、食べてみて」
(うん、いただきます……!)
出来立てのそれを少し冷ましてから、舌を使って口に運ぶ。
動物の油で揚げた時の獣臭さは一切ない。口の中が甘さでいっぱいになる。焼いているからか、食感は予想したものじゃないけど。
そもそも、ドーナツを食べたことがないから正解が分からないけど、今までの試作品に比べれば圧倒的に甘いし美味しかった。
(んー! おいしい!)
「ほんと? 俺もいただきます。……ん、ほんとだ。美味しい」
ヘラルドの口にも合ったようで、ホッとする。
揚げたドーナツもいつか食べてみたいけど、今は、ひとまずこれで完成っていうことにしよう。
ヘラルドが次々と焼いていくドーナツを頬張りながら、そう思った。
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ドーナツが完成してから数日経った。食卓にはたくさんのドーナツが並べられていた。
「これは、街で売っていた果物を入れてみたんだ。こっちはハカロを溶かして周りにかけてみた。どうかな?」
(う、うん……おいしいよ……)
ヘラルドは見事にドーナツ作りにハマってしまい、レフベスなどの木の実や街で買ってきた果物を生地に練り込んだり、ドーナツを焼いた後にトッピングしたり、いろいろなアレンジを試していた。
――わたしが、あんなに食べたかったドーナツに飽きてしまうくらいに。
どれも、本当に美味しいものになってはいる。ただ、なんというか、四六時中ドーナツだと、新鮮味がなくて……。
エクンプもずっと食べていたけど、買い出しに行かなければいけないこともあって、ドーナツと違って毎食ではなかった。ヘラルドが街に行っている間だけ、別のものが食べられる。それくらいに、ドーナツを食べ続けていた。
どうにか、このドーナツを食べる日数の連続記録を止めなければならない……!
(ね、ねえ、そろそろ、次のところ行かない? ヘラルドが言ってたの、食べてみたいよ……!)
「もう少し作ってみたいところだけど……そうしようか。思いがけず、長居しちゃったね」
地図を地面に広げて、旅路を改めて設定し直すヘラルドに、安堵したのちワクワクがこみ上げてくる。
次は、どんなお菓子が待っているんだろう……!
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