第7話

朝はカラッと晴れていたのが、嘘のように曇り冷たい雨が降り始めた。

私は、床にぺたりと座ったまま、動けなかった。

[ー今朝、××付近で遺体で見つかりました]

田辺さんの声が、頭の中を反芻した。

「いやっ…もう嫌だよ」

ポタポタと水滴が何度も自分のズボンに落ちていった。

「どうしてっ…どうしてみんな私を置いていくの…っ」

「青山さんのバカ…!自分で…死ぬなんてずるいよっ…私だって、こんなにも死にたいのに!」

絶叫に近い声で、私は言った。

もう、どうすることもできないという悔しさと、絶望が込み上げて収まらなかった。

『もう、私もいいかな』

そう思い、フラフラとベランダの方へ歩き寄った。そしてガラッと窓を開けた。

冬の凍りそうなくらい冷たい風が私の手を引くように流れた。

「おばあちゃん…今会いにいくね」

ポツリと呟き、柵に手をかけた瞬間。

「来るな」

私はハッとした。

「どうして…」

いるはずのない、青山さんが私を後ろからハグをしているの…?

「頼むから、こっちには来るな」

青山さんは私をハグしたまま、そう言った。

「青山さん…なんで死んじゃったんですか」

「悪かった。だからお前だけは死ぬな」

「なんで…なんでですか…青山さんが死んだらもう…私は…っ」

「…先に死んで、ごめんな」

私は再び涙に溺れた。止めようと思っても、止まらなかった。

「俺、あっちの方でお前の音楽聴いてやるから。だから、生きててほしい」

青山さんはそっと私の頭を撫でた。

「なんですかそれ…ちゃんとこっちで聴いてくださいよ…」

私は涙と笑顔でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

そこにはもう、誰もいなかった。

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