カワリモノマニアック
坂本 千晴
第零章 前世の記憶
第零章1 『軽薄』
どこで間違えたのかと問われれば、その答えはありふれた単純なものになる。最初から、何もかもが間違っていた。
俺は生まれたその時から、過ちを体現したような存在であったと確信している。俺の腐った性根も、それを取り巻く環境も、初めから決まりきっていた。
しかしそれでも、やり直すきっかけなら数え切れないほどあったと、そうも思っている。そのきっかけを無視して、無下にしていたのは他でもない俺自身だ。いくら不幸だからと言っても、俺さえ変わることが出来たなら、きっといい未来を掴めたはずだった。
だからあいつの言った通り、いつまでも変われなかった俺は、全てを失った。無力なまま、無能なままでいることから目を背け、自分がいかに苦労をしているのか、どれだけの苦難を歩んできたのかをでっち上げることに必死になっているやつの末路がこれだ。
何度やり直そうとも、何度生まれ変わろうとも、きっと俺のこの軽薄さも、卑怯さも、不気味さも、飽きっぽさも、悪意も、怠惰も、一貫性のなさも歪んだ前の向き方も間の悪さも運の悪さも都合の良さも逃げ腰な本性も馬鹿になりきれない冷静さも鼻につく態度も根拠の無い自信も臆病な自尊心も中途半端な真面目さも──
何もかもが変わってくれない。変わるはずもない。
だから俺はまたしても、過去を
だから俺は、後悔と反省に明け暮れ、いつまでも足を進めない自分をまたしても悔やみ、嫌悪し、殺害する。
それでも、殺しても、殺し尽くしても、不変を望む俺はいつまでも付きまとってくるんだ。己の心の内に住まう、執念深い軽薄さを認められない俺は、いつまで経っても変われないまま、あの日の死に損ないのままなんだ。
そうだ。まずは一度目の死から思い出そう。軽薄なクズの死に様を。次は無能な悪魔の死に様を、そして最後は、過去の奴隷の醜態を思い出そうじゃないか。
ほんと、最初から最後まで、そして最後の後も、俺というやつは汚れた、どす黒いモノに塗れたままだった。
でも、こうして去った過ちの傷を舐めて癒して、そうやってここに閉じこもっていればいい。変わりたいなんて願望がどれだけ尊大で、過ぎた代物だったのかを思い知った。
今から始めるのはただの回想だ。俺がいかに無力で、無能で、間違い続けていたのか。それを今一度確かめる、そういう回想なんだ。
〇
「あーこれ、まじでクソゲーだわ。心の安らぎを求めてギャルゲーやろうと思ったのにクソドロドロ展開始まるとか終わってるだろ。
漫画もドラマも音楽もゲームも、恋愛がテーマになった途端に浮気やらドロドロ恋愛ばっか描いてて全部おもんないし、ジメジメした話ばっかで気持ち悪い。こんなもんは芸術じゃない。ただ使い古されたテンプレートを利益のためだけになぞる意地汚いハエの排泄物みたいなもんだ……ってのは、ちょっと言い過ぎか」
俺はまた、やってしまった。他人の気持ちを考えず、デリカシーのない言葉を口走ってしまった。オブラートに包まず、頭に浮かんだ泥水のような言葉を直に吐き出してしまった。気分は最悪だ。何故俺はいつもこうなのか。つい自分以外の存在に対する配慮を一切忘れ、身勝手な言動をとってしまう。普通であることを忘れてしまう。
そのたびに、大切な人たちが俺の元を離れる。
そのたびに、自分の薄汚い精神が嫌いになる。
それでも、口を付くように滑り落ちる毒の数々を、俺にはせき止めることが出来なかった。
「あの……リキ? 自分の行いを悔やんでるところ悪いんだけど──」
こいつ、俺の心が読めるのか!? ……いや、顔に出てた、か。
「別にドロドロしてない恋愛モノだって多くの人の人気を集めてる思うよ? 君がそういう類のものを好んで見漁ってるせいで、それに関連するものばかりに注目してしまっているだけじゃないかな」
「い、いや、でも、明らかにドロドロ展開の量は多いぞ! 適当にこじつけてまとめようとすんな! 絶対、芸術はジャンク化してるはずだ」
そして、何か都合が悪くなればすぐに言い訳だ。どこかで歯止めは効いたはずなのに、引き返せずにいる。何故ここまで思い通りにいかないのだろう。
「リキ、さすがに意見をころころ変えすぎ。一か月前に僕がおすすめした恋愛漫画を読んだとき『やっぱ浮気はだめだね。倫理的に許されないし、見てて不快になる』って言ってたよね。あ、別に好きな漫画を貶されてイライラしてるわけじゃないよ。リキとそういう部分で好みが合うとは思ってない。
でも、二週間前君はこうも言った。『浮気は仕方ない。生物学的にも人間は浮気をする生き物だし、そんな迷える生き物の営みを俺たちは愛するべきだ』と。この時点で、君の意見は逆転した。どうせYortubeか何かで解説系の動画でも見て影響されちゃったんだろうけど。
そして君は今、『浮気やドロドロ恋愛ばかりで面白くない』と言ってみせた。
散々ひどいこと言っといて、飽きたらポイ捨て。僕はね、リキのそういう不安定な性質が君を今のクズな君たらしめてる原因だと思うね」
またか。実をいうと、目の前にいる岩井 翔という男は、一応俺の親友ということになっているのだが、最近は喧嘩ばかりしている。たまにこのように女々しく嫌味を言ったり、急に怒鳴ったりしてくるのだ。さらにその内容には、過剰な被害妄想や論理の飛躍、そして常に自分が正しいという確信などが含まれており非常に厄介。それをなだめる俺の気持ちにもなってほしい。
「そんな言い方するなよ翔。俺が飽き性でクズなのは周知の事実だろ? だからさ、もしお前が俺のことを変えたいってんなら、頭ごなしに否定するんじゃなく俺が正しく成長するよう導いてあげるべきだと思うね」
俺の言葉に翔はうんざりといった様子だ。大きなため息をつきやがった。
「他人事みたいに言わないで。はぁ、君はいつもそうやってのらりくらりと僕の真剣な訴えを躱すよね……」
俺の特技の一つだな。伊達に俺の親友やってないだけあって、こいつは俺のことをよく分かってやがる。
「あとさ、僕が怒ってるのは君のクズっぷりだけじゃないよ。君は極めて軽薄で移り気な自分自身のことを『変わり続けなきゃ死んでるのと同じ』とか言って正当化しようとするでしょ。
他人からの指摘を無視し続けたり、自分を誤魔化してばかりじゃいつか後悔することになると思うよ?」
「さっきから説教ばっかでうるせぇなぁ! 翔こそ、俺の粗探ししてる暇をもっと他のことに使った方が有意義じゃね? マジで俺のこと好きすぎだろ」
翔は顔をしかめると、何かを思い出したように顔を逸らした。
そして次に彼が言い放った言葉を俺は理解出来なかった。
「……君は何も分かってないよ。軽薄な君が、正しい訳ない。あー、気分が悪い。僕、今日はもう帰るよ。じゃあね、リキ」
俺が理解できなかったのは、翔が
もしかすると、翔は毎度自分の怒りを殺すことで、場を収めようとしてくれていたのだろうか。だとしたら、俺は翔に合わせる顔がない。背負わせてばかりだったのだから。
「まぁ、あとで考えりゃいいか。なんか面白いゲームねぇかな」
〇
翌日、俺は用事があって外に出た。
今日はある友達と会う約束をしている。翔の彼女、愛莉だ。といっても、これは浮気ではない。明後日が翔の誕生日なので、そのプレゼントを二人で選ぶことになったのだ。
ここまで三十分も待たされたので、暇つぶしがてらネットニュースを見ていた。
ワールドカップ、消費税率の上昇、新発売のAPhone15について、などなど……正直見たところであまり興味は湧かなかった。
ただ、最後に見た連続誘拐事件については例外で、少し興味をそそられた。なんでも平成十八年度生まれの青少年が今日と同じ日付に、二年ごとに攫われているらしい。ちょうど俺や翔もその代だから危機感を感じた。
ま、大抵この手の不安は杞憂であり、明日には忘れていることなのだろうが。
少し前に送ったLIMEも既読が付かないし、少し散歩でもするか──っと、危ない危ない。愛莉が来たようだ。もう少しで入れ違いになるところだった
「お待たせ、リキ。待った?」
「いいや、待ってないさ。今来たところ☆」
なんて、まるでカップルのようなテンプレ会話をしてみる。ただの悪ふざけだ。
「今来たところ☆のところ、すごく気持ち悪かったよ」
「それは思っても心の中にしまっといてくれない?」
それにしても、愛莉の美貌には毎度のことながら驚かされる。今日もただの買い出しなのに完璧だ。フランス人のクウォーターということもあり俺からするとかなり顔立ちが整っている。肌が異様に白く、体形もスレンダー。また、服がジーパンに白シャツという完全無課金コーデでも成立しているのが彼女の完全性と自信を物語っている。人間性も抜け目がなく、誰にでも平等に接する奴だ。なぜ翔なんかと付き合おうとしたのか、俺には皆目見当もつかない。何か運命的な出会いでもしてない限りあの愛莉が翔で満足するはずがないのだ。
ちなみに、この評価に恋愛的要素は含まれていない。俺は彼女を心から尊敬しているのだ。こんな素晴らしい人間と友人になれたことを誇りに思っているだけ。
〇
まずは愛莉がプレゼントを選ぶ。今年は靴を渡すらしい。
ちなみに、愛莉は翔の誕生日、毎年決まって衣類をプレゼントとして用意してくる。例外なく、だ。というのも、翔は元々ファッションに全く関心がない男だったそうで、愛莉はそんな彼にもっとお洒落になって欲しいらしい。そのため、日常的に彼女は翔の衣類を見繕っている。誕生日だからと言って彼女はその計画を中断するつもりはなく、結果的に翔の誕生日プレゼントには少なくとも一つ服や靴が必ず存在するようになったのだ。
「今日はどんなの買うんだ?」
「そうだねぇ。最近は柄物とか奇抜なデザインのものばかり買ってたから、逆にシンプルな形で無彩色のものを買おうかな」
愛莉は極めて機械的な口調でそう言った。まるでこの言葉をいうことが事前に分かっていたかのようだ。
愛莉に導かれた先で目にしたのは、“atnos ”の看板と、ガラス張りの店舗内に置かれたおびただしい数の靴。あまりの量に卒倒しかけた。一方愛莉は特に驚くこともなく、それが当たり前かのように入店。おかしいのは俺なのか……?
愛莉が最初に手に取ったのは白いハイカットのスニーカー。靴底が少し厚めだと感じた。
「これがいいかな?」
愛莉は俺に意見を求めるが、正直言って俺もファッションは興味ないし知識も全くない。センスなんてもってのほかだ。そのため、当たり障りのない返答でお茶を濁す。
「いいんじゃないか? あいつそういうの持ってないし」
「いいんじゃないってなに? もっと真剣に考えて」
と言われましても。
その後も愛莉の靴選別TIMEは延々と続いた。一体俺はいつ帰れるのやら。その中で一つ、俺の中でピンときた商品が一つあった。
「なぁ愛莉。この黒いサンダルなんかどうだ? デザインも秀逸だし、この先暑い時期には欠かせないだろ」
「あー、うん。いいんじゃない?」
「真剣に考えろよ」
こうして愛莉は結局最初の白いスニーカーを購入した……今日俺が同行してる意味今のところ一つもないぞ。
〇
次に俺が渡すプレゼントだ。正直言ってこっちは一人で買いに来たかった。なぜなら、俺が買うのはコンドームだからだ。しかし、ドンクの中を別々に見て回ろうと提案した俺を無視し、愛莉が執拗について来ようとするので諦めて二人でR-18コーナーに入った。こんな場所で翔と鉢合ったらどうするつもりなのだろう。
早速ゴムが掛かっているコーナーを見つけた。うーん、俺は彼女すらいたことのないチェリーなので、良し悪しとかわからん。かといって、愛莉に聞くのもなんかなぁ……。
とりあえず、名前に聞き覚えのあるバタフライを手に取った。
会計を終え、少し周囲の目を気にしながら外に出ると、沈黙を貫いていた愛莉が急に話しかけてくる。
「なんでゴムなんか買ったの?」
そんなこと言われても、ただの悪ふざけ以外に意味はない。
「まいっか。そうそう、この後うち寄ってく?」
何を言い出すかと思えばこいつはなんとつまらない冗談だろうか。もし流れで間違いを犯してそれがたまたま翔に知れ渡ったら、俺はあいつともう友人ではいられなくなる。それどころか後ろからナイフで刺し殺されてもおかしくないくらいだ。
「いや、行かない。まっすぐ自宅へ帰る」
俺が否定すると、すぐに愛莉は俺の腕をつかみ胸を押し当ててきた。
「えぇ~いこうよぉ~。絶対来た方が楽しいよ?」
彼女の誘惑に、俺はいとも簡単に意見を傾けてしまいそうになる。てか、こんな軽い女だったっけ? この子。
う~ん。正直、問題は万が一の時翔にどう言い訳するかだ。頭では危険だと分かっているものの、俺の体は愛莉の家にまっすぐ向かうことを望んでいる。
しかしあれだな。こういう行為において失敗したときに対抗策を用意しておくのってどうなんだ? 罪悪感やスリルを楽しむのに実際には安全だなんて、興ざめもいいところだろ。
よし、決めた。
「分かった、行こう」
〇
来てしまった。愛莉の家に。うん、これは相当まずい状況だ。分かっている。しかし、全身から湧き上がってくるこの背徳感に抗うことは俺じゃ無理だ。それに、愛莉が可愛いのが悪い。
現在俺は彼女の家、そのリビングにてソファに座りくつろいでいる。他人の家独特の緊張感を感じる……。
やはりというかなんというか、今日この家には母親が不在のようだった。というのも、父親が既に他界しており、一人っ子の愛莉の家では、母親がいないことはすべての家族が不在ということを同時に表す。完全に二人きりというわけだ。
舞台は整った。あとは、俺が侵されざるべき領域を侵す──否、犯すだけだ。
今このような状況でこんなくだらないことを考えていられるのだから、昨日翔に言われた”軽薄”という言葉は真に俺のことを形容していたと言えるだろう。
「はぁ~疲れたね、リキ」
彼女はお茶の入ったグラス二つを机に置き、ソファに座った。
「そうだな。今日は結構歩いた」
「そう、暑かったね。つめた~い紅茶をどうぞ」
「自販機かよ」
華麗なツッコミをスルーされたことにも動じず、愛莉の言う通り俺は紅茶を一口飲む。アールグレイの香り……俺の好きなものをよく分かってやがる。
紅茶を飲んでしばらくすると、なぜか体が火照ってきた。なんでだ。
「なぁ、愛莉。この紅茶なんか──」
「あ、そうだ! せっかくだし私の部屋見てく? 最近模様替えしたんだよね~」
明らかに遮られたな。食い気味だった。あと何がせっかくなのかも謎だ。
仕方なく言われるがままに愛莉の部屋へ入ると、何か甘い香りが鼻腔をくすぐった。女子の部屋だからなのか……? 照明が薄暗いのも気になる。いややっぱ、この前翔と遊びに来たときと全然違うのもあって、違和感が拭えない。
「愛莉、やっぱさっきの紅茶に何か入れて──」
俺の質問を遮るように、愛莉は唇で唇を塞いだ。その瞬間に俺の理性は粉々に破壊されてしまった。
実をいうと、俺はキスどころか異性と手をつないだこともない。だが、それを悟られぬよう出来るだけ慎重に、その行為を愛莉に返す。
厚みはないが、確かに柔らかさが伝わってくる。その感触を噛みしめるうちに、より深く俺たちは確かめ合っていた。
絶えずこみ上げる高揚感、彼女の艶めかしい視線、甘い香り、俺の拙い動きを抱擁するかのように絡まる舌。俺の息子はもう限界だった。
「もう、いいよね?」
愛莉もそれに気づいたのか、俺をベッドに座らせた。そして、俺のジーパンと下着をもったいぶりながら下ろした。
白く細いその手を使って快感をあおる。包むような優しい手つきなのに、そのストロークは時に機械的に、時に生物的に絶頂を促すものだった。そのテクニックに俺は間もなく果てそうになった。自分でする時とは比べ物にならないほど呆気なくだ。このままではしょぼい男だと思われてしまうと思い、咄嗟に愛莉から離れ最悪の事態を阻止した。
「はぁ、はぁ、いっ、一旦ストップ……」
「あれ? もう、限界?」
お互いに息が上がっている。そこで、愛莉がある提案をしてきた。
「今日買った“アレ”、使ってみない?」
「いや、だけど──」
ここにきて躊躇ったりする俺は本当に情けないな。
「いいのいいの。私は問題ないから」
ならいいかと呟きながら、俺はゴムをつける。やり方は少し調べたことがあったので、その記憶を頼りになんとか装着を試みる。
俺はまた、飛び立つのだ。新しい花に。まるで、花園をひらひらと飛び回る蝶のように。そして、その
さぁ、自壊を始めよう。快楽と背徳の海に溺れるまで。
「……は? なぁリキ、お前なに……やってんだ?」
いざ事を始めようという時に、彼はやってきた。翔だ。一番いいところで邪魔が入ってしまった……じゃなくて、どうにかこの状況を解決しないとだな。うーん、無理かも。まぁ、とりあえず時間を稼いでみるか。
「まぁなんだ。その、一旦落ち着いて話をだな──」
「落ち着く……? 何言ってんだよ。いや、え、お前、はなんで、そんな冷静でいられるんだ? ダメだ……分からない。お前が言ってること、何も分からない……」
翔はこちらにゆっくりと近づいてくる。そして、彼が右手に包丁を握っていると気づき、俺は部屋の隅まで慌てて逃げた。
「おい、翔、ちょっと待て! 状況をよく見てくれ! 今俺たちがいるのは愛莉の家だ。つまり、俺を連れ出したのは……そう、愛莉だ。俺は愛莉にそそのかされただけなんだよ! なぁ、信じてくれ!」
翔に対し、出来る限りの弁明をする。かなり苦し紛れではあるが、俺は生き残る道を探すためにも時間を稼ぎたい。
「そ……れが……」
しかし翔は、先程よりも深刻そうに顔を歪ませている。体は震え、言葉もおぼつかない様子だ。
「それ……が、僕にとっては、一番許せないんだよ!」
翔は言葉を言い終わると同時に走り出した。その動きに俺の意識は追い付かず、気づいたときには彼の持つ包丁が俺の胸に深く刺さっていた。
愛莉が悲鳴すら上げず震えている。
翔は泣きながら笑っていた。何度も何度も、これまでの鬱憤を一つずつ晴らすかのように俺の胸に刃を突き刺して、泣きながら笑っていた。
俺は胸に響く鈍痛を感じながら、これまでの自分自身の行いについて考えていた。
思えば俺は本当に最後までクズのままだったな。気になるものがあれば熱中し、すぐに飽きてまた別の気になるものを探す。最後の最後で親友と喧嘩別れ。それも、男女のいざこざだ。
最初から最後まで、何もかも下らない。軽薄で、目的も価値もない人生。
俺たち二人を見たあいつの顔が、焼き付いて離れない。いつもの他愛もない喧嘩の時とは違う、本当に失望した顔だった。
もうあんなもの、二度と見てたまるか。
そうだ。もし、二度目があるとするなら、もしやり直す機会があったとするなら、今度こそ真面目に生きてやる。この性格も叩き直して見せる……でも、二度目なんてものは訪れない。世界はそんなに都合よく出来ていない。俺はこの悔しさとともに死ぬ運命なのだろう。
──そろそろ時間らしい。意識が遠のいて感覚が無くなってきた。
まぁ、色々考えたけど、軽薄なりに、クズなりにではあるが、俺は俺らしい人生を送れた気がする。これが俺の身の丈に合った、最大限の道だったのだろう。
『変わり続けなきゃ死んでるのと同じ』。俺がよく口にしていたその言葉に反するように、俺は変わり続けた結果、死んでしまった。変わることは、今後一切出来なくなってしまった。
だからもう、高望みするのはやめにしよう。薄っぺらくて、目的もなく宙を舞ってばかりの俺は蝶だった。遂に地に落ち、息絶える時が来たって……こと、だ。
……結局、俺は最初から最後まで、変わり者の……ま、ま……
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