第354話 【ゲート】がバレる時

「では夢の話の続きをしましょう」


 12月31日。

 東京タワーを出た後、都内を少し散策したが大晦日と言うことで営業しているお店も少なく早々に切り上げてきた。

 飲食店も良いところが見つからず、結局は千葉支部のレストランで済ますことに。

 そしてそのまま会議室を借りて、50階層の話をしようと言うことになった。


「50階層……ですか……」


 俺が記憶を失っている間に見たのは50階層の夢だと霞さんは言った。

 いや、正確には50階層のボスがリッチだと言う噂を紐づけてそうなのではないかと推測したようだ。


「はい。春樹さんが見た夢は50階層の夢。自分たちの装備とジョブを持ったスケルトンと霊体で通常の物理攻撃が通用しないリッチがボスになるようですね」


 今度はハッキリ言った。

 噂話なのに?

 それどころかさっきは何故か出てきたスケルトンのコピー元も知っていた。

 夢を見ていた当の本人である俺でさえしばらくは相川だと思い込んでいた『剣聖ちゃんスケルトン』の正体まで知っていたのだ。

 これはおかしい。


「言い切りますね。何か確証が?」


「同じ夢を見た人がいます」


 あ、なるほど。


「じゃあ、霞さんも同じ夢を?」


 それなら合点がいく。


「いえ、私ではありません」


「え?それなら誰が?」


 他人が見た夢で50階層のボスだと判断したの?

 そうなると、総司か相川か?

 俺が記憶を失ってる間にそういうやり取りがあったのかな?

 相川はなんだか悪い夢を見ているみたいなことを言ってたし、相川っぽいね。


「誠に業腹な話ですが、星野千春です」


「『剣聖ちゃん』、ですか?またなんで……」


 むむむ、またしても相川ではなく『剣聖ちゃん』……。

 夢に出てきたのは5人のスケルトンだ。

 霞さん、俺、『青影』、幸也さん、そして『剣聖ちゃん』。

 ここで疑問が浮かぶ。

 何故その5人のスケルトンなのか?


「『ブルーオーシャン』の3人が私を勧誘しに来たことは覚えておいでですね」


「はい。記憶がなかった間のこともちゃんと覚えています。確か上原明日香、『さん』が50階層には行かないって言ってるんですよね?それなら海人さんも行かないとかで霞さんとミコさんの2人を勧誘をしている、と記憶してます」


 ミコさんはクリスマス会には参加してたみたいだし、もう帰ってきてるはずだ。

 もう勧誘の話が届いているかもしれない。


「むむ?ミコさん?……何故私を勧誘しようとしているのかは?」


「強いからでは?有名ですし」


 俺が知る限り、レベルでもブルーオーシャンの次に来るのは霞さんと言うことになる。

 霞さんのレベルは前から変わっていなければ43。

 39階層でそこまで上げるのは中々に難しいレベルである。

 現状クアドラブルの冒険者は『ブルーオーシャン』だけなので、他のトリプルランクの冒険者、熊親父なんかよりも高いということになる。

 『剣聖ちゃん』は武器を持って向かい合えばその強さがわかると言っていた。

 立ち会ったのならば霞さん以外には適任者はいないと考えるだろう。


「先程も言いましたが、50階層に出てくるスケルトンはパーティーメンバーのスケルトンになるそうです。つまり夢で私のスケルトンを見たから私を勧誘している、と言うことになります」


 え?そういうこと?

 ダンジョンで見る夢は予知夢もあるって聞いたことがあるね。

 じゃあ『剣聖ちゃん』が見た50階層の夢でのパーティーメンバーが霞さんとミコさんだったってことか……。

 ん?予知夢?


「あれ?でもおかしいですね。それなら俺が見る夢のスケルトンは総司と相川になるはずですよ?俺のは予知夢じゃないってことに?」


「何か勘違いしているようですが、『ブルーオーシャン』が探しているのはミコさんではなく春樹さんですよ?」


 む?なんで?


「え?俺?俺を探してどうするんです?よく鉢合わせてますよね?」


「ですから、『ブルーオーシャン』が探している5人目のパーティーメンバーが春樹さんなんです」


 むむ?


「いやいや、ミコさんを探してましたよ?霞さんもその場にいましたよね?」


「あれは向こうの勘違いです。都合がいいので勘違いさせたままにしておきました。星野千春が言っていた5人目の特長、十文字槍を使い、『ゲート』を出せる。そんな人、春樹さん以外に誰がいると?」


 むむむ?


「ミコさんの特殊スキルが【ゲート】なんじゃないんですか?」


「そんな訳ないでしょう。あんなスキルを持っている人間がそんなにポンポンいる訳がありません」


 いや、だって霞さんとミアさんだって同じスキルですし、そういうこともあるのかと思いますよね……。

 ないか……。

 いたら50階層の情報がもっと出回ってそうだもんね。


「どうして俺が『ブルーオーシャン』と一緒に50階層に?」


「それは私が聞きたいですね。春樹さんが行くなら私も行く。私の方は理由があります」


 いや、逆では?


「俺には行く理由がありませんよ?霞さんが勧誘されているから、俺が付いて行くのでは?」


「そうなると今度は私に行く理由が無くなりますね。……。いえ、あると言えばありますか……。春樹さん、あの人たちは放っておけば死ぬでしょう。ダンジョンの夢は警告。このまま放置すればあの3人は50階層に挑み、そして帰って来ないでしょう」


 うーん。

 もし相手がリッチなら『剣聖ちゃん』でもどうにもならないか?

 いや、銀の剣があればなんとかなりそうだけど……。


「それを考えると情報ぐらいは渡してあげたいですね……」


 もしもと言うこともある。

 それに剣聖ちゃんは無事でも他のメンバーが死んでしまいましたでは夢見が悪い。

 あの【次元斬】は防御不能。

 俺の『チャージ・盾』ですら真っ二つになるのだ。

 避けるしかないが、相手は【剣聖】。

 気が付いたときには剣を振り終わっている。

 弱点は2回しか撃てないことだが、それで2人死にましたはあまりにもあんまりである。

 出てくるのがパーティーメンバーのスケルトンなら、いっそ『剣聖ちゃん』は連れていない方が良いですよと言いたい。


「しばらくは『ブルーオーシャン』も新ダンジョンの探索に忙しいでしょうが、ミコさんの方はすぐに偽物だと気が付くでしょう。向こうが春樹さんを探しているということだけは覚えていてください。【ゲート】の能力の一旦を知られているということも……」


「そっちの問題もあって名乗り出る踏ん切りは付きませんね」


 どの程度知っているかって問題もあるよね。

 『兜戦士』は後ろから攻撃して来たり、後ろにワープして来たり、俺に対してはそれくらいしか【ゲート】を使ってこなかった。

 あの程度だとしたら、短距離で同じ階層でしか使えませんとか嘘をついておけばいいけどね。

 それにしてもこんな形で【ゲート】がバレる時がくるとは……。

 夢でバレるとか酷くないですかね?


「しばらくは『ブルーオーシャン』も新ダンジョンの攻略で忙しくしているはずです。それは私も何ですが……。1月中は余り支部にも顔を出せません。春樹さんは受験勉強を頑張ってくださいね。間違っても登山やら城壁を登ったりだとかはしないように。それと今まで通りスキルの使用も控えてくださいね。後は何か気になったことはありますか?」


「夢のことで一つ、ボスはレイス、じゃなくてリッチだけですね。リッチを倒したら目が覚めたので、スケルトンは取り巻きということになると思います」


 あの時点では倒したのは兜戦士だけで、黒鎧もまだ止めを刺していない状態だった。

 倒してしまうと『剣聖ちゃんスケルトン』がすぐに出てきてしまうので、槍を取り上げたら『チャージ・槍』の時間稼ぎの為にゴーレムと同じようにしてその場に残ってもらっていたのだ。


「倒した……。そう言えば先程もそう言っていましたね……。春樹さんならば一人で50階層を攻略可能だと言うことですか?」


「まあそうなりますね」


 コピースケルトンが残ってるから普通なら出るのに一苦労なんだけど、リッチ倒したら【ゲート】で倉庫に帰ればいいからね。

 『両目のゲート』で短距離の転移も可能になっているから、『51階層のゲート』まで移動して次の階に逃げるって手も使える。

 しかも、コピースケルトンにしてもリッチにしても倉庫に戻れるならいくらでもやりようはある。

 問題はそれをに教えるかどうか、それだけなのである。


「あの『剣聖』はまだ倒せていないと言っていました……。やはり春樹さんは【剣聖】を倒すために生まれてきたのですね!」


 50階層をクリアする為ではなく?


「あ、もう一つ悩みがあるんですけど……」


「悩みですか?」


 実は二つだけど、霞さんに相談するのは一つだけだ。


「はい。ミコさんと冬海さんのことです」


「むむむむむむ。ミコさんですか?そういえば足繁くあの神社に通っていましたね。平松さんが仕事の時のもです。ミコさんに呼ばれていたんですか?やはり危険人物!」


 何やらあらぬ疑いが……。


「いや、ミコさん神社では殆ど見ませんよ?特に最近は梅本さんを探し回っているので……。それでその梅本さんが北海道支部のダンジョンにいるっぽいんですけど、ミコさんと冬海さん、どっちに教えるべきですかね?」


「むむむ?梅本氏ですか?北海道……、しかもダンジョンに?梅本氏はダンジョンには入れないはずですが?」


「雨宮先生が何かしたんじゃないですかね?この前北海道に行ってたし。まあそれを考えたら、雨宮先生の為に黙っているっていう選択肢もありますね。でも冬海さんは忙しいのに『ヒール』しに来てくれたので、やっぱり教えるなら冬海さんですかね?どう思います?」


「むむ。ミコさんで。しばらく北海道に行ってもらいましょうか。いえ、平松さんには日頃からお世話になっていることですし、ここで恩を返すということで。ミコさんにはすぐに連絡しておきます」


 確かに平松さんの分を加算すればミコさんか。

 平松さん本人は余りいい顔をしないと思うけどね。

 でもミコさん新ダンジョンの為に戻ってきたんだよね?

 申請も千葉で出してるはずだから北海道では新ダンジョンには入れない。

 あとダンジョンの神社。

 休みが明けたら初詣客を迎い入れる準備をしていたはずなのに……。

 それでも梅本さんを探しにいくかな?





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