32 貴重な素材は、みんなで分けないといけません 〜リリア〜
セレスティアの後部格納庫は、相変わらず機獣の部品が散乱している。
中には、中途半端に破損してしまって、どうにも使い道が無い物も少なく無い。
遅めの臨時朝礼が終わってからずっと、私は部品を一つ一つ拾い上げては、使えるか否かを選別していた。
「AB型の尻尾って、使い道あると思う?」
エビ型機獣の尾にあたる、薄い板が扇状に並んだ部品を持ち上げ、傍らに置いてある黒い箱に話しかけた。
「最近の型のやつだよね?
エアースラスターは、もう内蔵されて無いでしょう?
それなら十中八九、いらないと思う。」
私は、過去の部品の使用実績を検索し、部品の使い道安をいくつか作成すると、それらを破棄して、青い髪の人型に回答する。
「そうだよね〜。
じゃあ、これは処分。」
部品を自分の右側の山に置く。
これは私の特徴の1つ。
本体の他に複数の端末を機動して、同時に作業する事が出来る。
しかも制限無く。
各端末には、本体の私の学習データから、パラメーターをコピーすることで、「私」を移植出来る。
記憶は私自身とは切り離して管理され、ネットワーク経由でサーバーにアップロードされているため、各端末から入手する事が出来る。
各端末で学習した結果は、そのパラメーターをネットワーク経由で本体に集約することで、本体側にも学習データを引き継ぐことが出来る。
更に便利なのは、端末をシャットダウンする際に、メモリを消去してしまえば、その端末からは私を消せることだ。
これによって、回収不可の事態に陥ったり、誰かに盗まれたとしても、情報漏洩のリスクを減らす事が出来る。
機獣部品の選別は、まだざっと半分程しか完了していない。
今は本体と人型端末の2つのハードしか使用出来ないので、なかなか片付かない。
「いや~終わらないね。
本体側は、荷物持てないから仕方が無いけど。」
人型の私で本体の私に話しかける。
ここでは、人型が部品の取り出し、確認、移動を行っている。
「あと、目も無いしね。
船内カメラだと、詳細が分からないかな。」
本体側の私が補足する。
本体には、スピーカーとマイクはあるため、会話は出来る。
画像データも共有出来るため、人型が確認した情報を元に、過去の実績の検索と、活用案の提示を行っている。
本来、本体と人型とで、会話による情報伝達は不要なのだが、会話を経由することで、あいまいな検索が出来る、というメリットがある。
用途を指定せずに「使い道があるか?」と聞いたり、活用案の数を「十中八九無い」に置き換えるだけで、部品の要否の判断が楽になるのだ。
あとは……、単に一人作業が寂しい、というのもあったりする……。
レイラは、ミリィとレミを連れて、3Xシミュレーターで何かしているし、シロはシャワー室の修理中だ。カティスとルマリエもその手伝い。
エシルとクロエがセレスティアの運行中。
サイはようやくつながった、長距離通信で、朝から部長クラスの打ち合わせにひっぱりダコだ。
ヒイロはアニスの看病中で、医師と看護師が食堂も受け持っていて、今は昼食の片付け中だ。
その為、私は黙々と作業を続ける。
次の部品を人型の私で物色する。
目に付いたのは、大きなヒトデの様な物体。
私の身長と同じ程度の大きさなのに、軽い。
いや、微重力中なので、元々重さは感じない。
それでも軽いと分かる。慣性の影響をほぼ受けていない様だ。
その表面は滑らかな艶があり、なんとも言えない柔らかな光を反射している。
強く押すと跡が残ること無く、ゆっくりと戻って来る。
「こ、こ、こ、これって……、ま、ま、まさか!
え!?いたの!?あの時!」
思わず言語生成機能に異常を来す。
「ちょっと……、そ、そ、それって!
……あの、あれ!?」
本体の私でも、言語生成機能が過負荷状態に陥る衝撃。
船内カメラで引きから確認し、人型のカメラでも再確認する。
これは、超が付くレア個体。KP型。
この機獣の出現頻度が圧倒的に少なく、見かけても捕獲が難しい。
五芒星の各頂点を伸ばした様な形をしており、その中心部に武器と制御部を、各腕の先端に推進装置を内蔵している。
表面はシリコンの様な素材で覆われており、これが耐衝撃性に優れ、ほんの0.数mmの膜に加工した状態でも、数mの高さから落下した卵を受け止めることが出来る。
ある温度までは燃えたり変性したりせず溶けて流れてしまうだけで、それも5本の腕で器用にすぐに補強してしまう。
その為、本体のある中心部が露わになった瞬間を狙って、射抜かなければならない。
そしてこれが最も有効な特徴だが、この機獣の表皮は、熱を加えることで、あらゆる形に成形することが出来るのだ。
素材の組成は、未だに不明。
再現を試みる企業は多いが、未だに成功事例はない。
そしてこの素材、柔らかい質感の程よい弾力。指でなぞると少しだけ抵抗しつつも、滑る様に滑らか。
更に染める事も出来る。粒子の細かい染料に浸けることで、薄橙や白、やや濃いめの色に浸ければ褐色っぽくも出来る。
そう、この機獣の表皮を用いることで、私は、もちもちぷるんな、まるで幼児の様な肌を手に入れることが出来るのだ。
「これの価値が分かるヤツ!」
私は周囲を見回し、使えそうな人材がいる辺りに目星を付ける。
言葉が雑になってしまったが、気にしていられない。
「シロはダメ。
見た目は気にするけど、現状で満足しちゃうし。」
本体の私が候補の1人を除外する。
「確かに。
3Xのコックピットに貼るとか言い出しそう。
それならレイラだ!」
私は、腰に付けた微重力空間での移動用エアースラスターを作動させて、KP型機獣を持ったまま、格納庫の扉に飛び付いた。
扉の奥、3Xシミュレータがある部屋に、レイラはいるはずだ。
勢いよくドアを開け、中に入ったその時だった。
「きゃ〜!」
レイラの悲鳴が聞こえてくる。
声の発信源は、シミュレータの座席からだ。
左右にミリィとレミが立って、シミュレーターのモニターをのぞいている。
どうやら、シミュレーターに座っているのはレイラの様だ。
「5体撃破。
だいぶ慣れて来た感じだね。」
ミリィがシミュレーターのログに目を向けている。
「はあ〜。
いつの間にかダメージが蓄積してるのは何でなんだろう?」
レイラがシミュレータの座席に座ったまま、伸びをする。
「ああ、説明してなかったねえ。
AB型は、金属弾を発射してくるからあ、それが当たってるんだよお。
シミュレーターだと、振動が無いから、分からなかったよねえ?」
レミが、ごめんね、と言って苦笑いしている。
「え!?全然見えなかったけど?
そんなのどうやって避けるの?」
レイラが驚いて2人に質問する。
「いや、避けられないよ。
ゲームじゃ無いし。弾も殆ど見えないからね。」
ミリィが、ホント困ったと言った様子で、首を振る。
「生身だってえ、目の前の人が銃をこっちに向けていたとしてえ、発砲されたタイミングで避けるの、無理でしょう?」
「ええと……、経験無いから。」
レミが同意を求めるが、レイラには伝わらなかった様だ。
「そもそも弾速が光の速さと同じ武器を使うのもいるしね。」
「え?じゃあ、2人はどうやってダメージを抑えてるの?」
「初めからあ、距離を取っておくのお。
機獣の武器って射程があってね、それより離れれば、急に威力が下がる様になってるのお。
だから、当たっても大丈夫う。
クセランセはあ、元々遠距離支援機だから、近付かないしねえ。」
「あと、銃口の向きを見ておけば、大体の射線が分かるから、それを避ける様にしてるかな。
シオンは機動性が高いから、細々と動けば、当たらないし。」
「それはミリィちゃんだけだからねえ。」
ミリィの説明にレミが呆れた顔をしている。
そして、レイラは2人の回答にあ然としている。
「あ、でも実戦はまだ一度きりだから。」
「あの時はシミュレーター程避けられなかったねえ。クセランセもシオンもボロボロになってたしい。」
ミリィとレミが語るのは、先日銀翼付近で起きた大海嘯の時のことだ。
「そんな中で戦っているのかあ。
あ、だから他のメーカーは、ずんぐりむっくりの機体が多いのかな?」
「そうだと思う。
避けるよりもお、撃たれても問題無い様にした方が楽だしい。」
「シオンとクセランセの装甲は、何でこんなに薄いの?」
「分かんない。
何でも、装甲薄くして、機動性を重視した初期の機体が、当時のパイロットとの相性が良かったみたい。
で、未だにその時の評判を引きずっているらしいよ。
その方がスタイルも良くなるから、人気も上がりやすいらしいし。」
「じゃあ、軽くて防御性の高い素材があると良いのかな?」
「そうだねえ。
でもお、そんな都合の良い素材なんてえ、無いんじゃないかなあ。」
私は、KP型をそっと背中に隠し、ゆっくりとシミュレータ室を後にした。
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