第29話 間男
ラブしてるボーイズにおける「間男」は、存在感がありすぎてはならないがなさすぎてもよくない、と思っている。ばったりと街中で恋人に出会したA。隣には自分ではない男。楽しそうに、その男に笑顔を見せる恋人。目撃したAは、その光景に世界の終わりを彷彿とさせるような表情を見せる。
「心配には及びません。彼は学生時代に世話になってた先輩ですよ。とてもよくしてもらっていたみたいでしたよ」
というこちらの声はAに届かない。Aは電柱に姿を隠しながら二人を追う。周りに変な目で見られようと、危うく警察沙汰になろうと、必死で二人の後を尾けるのだ。
「……なにしてるの? こんなところで……」
自分を怪訝に見つめる恋人。十中八九、そういった尾行はバレることになっているし、不安を掻き立てるようなBGMが流れることになっている。
「あ……いや、別に。た、たまたま、買い物してただけ……だし」
必死に取り繕うも、恋人の表情はどんどん歪んでいく。
あんなに人通りが多かったのに、この時にはすでにほとんど通行人はいない。そして恋人は、Aを自販機の裏のフェンスか、蓋つきのゴミ箱がある路地裏の壁にドンする(これが俗に言う壁ドンである)。
「俺のこと、信用できない?」
「俺がお前以外とどうにかなると思ってんの?」
静かに首を振るA。見つめ合う二人。この時にはもう、間男の顔はうっすら忘れている。
でも実はこの先輩は、大学生の頃からAの恋人が好きだった。恋人の回想シーンではまったくそんなそぶりがなかったのでこちらも狼狽える。
「えっ、心配に及びませんとか言っちゃった!」
先輩の回想シーンを見ると、先輩がどれほどに彼を好きだったのかがわかる。自分の気持ちを押し殺し、下心など微塵も見せぬように彼に尽くし、時には先輩として叱り、卒業式の日に彼からもらった花束を今でもドライフラワーにして大事に部屋に飾っている。
久しぶりに会えてすごく嬉しかったのに。俺はもう背景に溶け込んで、暗闇から聞こえる二人の息遣いをただ哀れに浴びる──。
先輩は去り際を見せることもできず、場面は二人のベッドシーンへ移る。
といった具合の、存在感がありすぎない間男の存在は重要だと思うのです。ベッドシーンがより色めき立つし、恋人の初々しい学生時代も知れる。あんなに可愛かったのに、こんなに雄になっちゃって! みたいな気持ちになる。ボーイズラブ良きかな〜。
安心してほしい。本編では苦い思いをした先輩も、スピンオフで幸せを手にいれる。もちろんお顔もいっぱい映る。みんな喜ぶ。彼の幸せはみんなを笑顔にする。
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