第27話 君が後ろに居るなんて

 はからずしもホラー映画のタイトルみたいになってしまった。いや、大きく括ればホラーなのかもしれないが、運転の話です。

 免許を持っているのに運転しない、または一貫して免許を取らない人、都会に多いのかなと思いきや田舎にも結構いた。

 私は運転が好きだった(過去形)ので、「免許があるのに運転しないなんて勿体ない!」とか、「免許を取って車を運転できれば物凄く便利なのに!」とか、運転しない人からすればお節介極まりないことを言ったり内心で思ったりしていた。今ではその「できることならば極力運転したくない」という気持ちが痛いほどにわかる。

 運転したがらない人の言い分はまず九割九分「怖い」だ。わかる。物凄く怖い。運転にはルールやマナーがあるが、そんなことは「怖い」と感じている人にとって何の救いにもならない。何故ならば必ずしも全員が守っているわけでないし、守っていたとしても不測の事態になり得ることは十二分にあるからだ。

 私は最近、その「不測の事態」に陥ったことにより、より一層運転への恐怖が強くなった。

 とある薬局で買い物を終え、駐車場を出てすぐのこと。私は右折したい。反対車線のお向かいには、同じく右折したい大きなSUV。彼は私と同じように、ウィンカーをつけて今か今かとタイミングを見計らっていた。

 左右の通行車が途切れ、SUVが右折した。私も右折した。すると、大きなSUVの後ろにはひっそりと小さな赤い軽自動車が居たのだった。

「えっ!」

 吼えた。あまりにもすっぽりと収まっており、全く気がつかなかった。一体いつから彼の後ろに君は居たのだ……!? 君から私は見えていたのか……!?

 問いかける間もなく、私はすでにきっているハンドルを戻せなかった。今狼狽えたら前からも左右からもドーンだ、と直感的に思った。小さな赤い軽自動車は、左折しようとしていた。優先されるべきは君であり、私ではない。しかしもう進むしかない。

 私がほとんど曲がりかけていたのを見て、赤い軽自動車は譲ってくれた(のだと思う)。そのおかげで不測の事態はことなきを得たが、自らがルールやマナーを守れなかった時、どうしようもなく運転が怖くなる。歩くのが一番いいや、と思いつつも、歩道に車が突っ込んでくることだってある。八方塞がり。でも車は便利。歳を重ねるたびに増える不条理。yeah



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