第4話 チャールズへの ”ざまぁ”
「オーホホホッ! チャールズにはジェイニーの婚約者になってもらって感謝しているのよ。三男とはいえ侯爵家のご子息様が平民になってもいいだなんて、本当にジェイニーのことを愛しているのね」
私はアーネストに、ほぼ抱きしめられていて動きにくいのだが、なんとか腰に手を当てて高笑いをしてみせる。
私は市井で人気の恋愛小説に出てくる悪役令嬢をお手本に、片方の眉を上げて、蔑んだ表情をチャールズへと向ける。
小説の悪役令嬢ちゃんは、釣り目の美人さんだが、残念なことに私は、凹凸の少ない平凡顔だ。
迫力がどうしても足りないが、勢いだけで何とか役になりきってみせるわ。
「はぁ? 何を言っているのだ。平民になるわけがないだろう」
私の言葉にチャールズは、こいつは何を言いだすんだと言わんばかりに、馬鹿にしたような返事をする。
まだ私のことを軽んじているのね。
「あら、もしかしてご存じないの? ジェイニーはお義母様の連れ子でお父様の養女だけど、ハーナン侯爵家の籍に入っているわけじゃないのよ。ジェイニーと結婚してもハーナン侯爵家に婿養子として入ることは出来ないの。ましてや侯爵を継げるわけなんかないわ」
「そんな、まさか!」
「そんな嘘をいうなんて、お姉様は何て酷い人なのっ」
私の言葉にジェイニーは、さも私が大罪人のように、涙ながらに訴える。
今迄は、この手法で周りの人たち全てを自分の味方につけて、私は悪役だったわ。でも今回は、そうはいかないわよ。
「ジェイニーったら、私は酷いことなんて何一つ言ってはいないわ。全て本当のことじゃない。あなたはお母様の連れ子であって、お父様の養女なだけ。ハーナン侯爵家には関係ないのよ。あなたの身分は、ただの平民よ。へ・い・み・ん。平民が婿養子を貰ったって、平民に変わりないじゃない。ジェイニーってばおバカさんね」
ジェイニーは私の反論に驚き目を見開く。
そりゃあそうよね。
今までだったら、私はジェイニーの言葉に反論したことなんてなかったから。
私が何か一言でも言い返すと、ジェイニーの味方しかしない両親から、散々罵られていたから。
反論なんて出来はしなかったわ。
でも、それも終わり。私は立派に “ざまぁ” をするのだから。
私がもうすぐ10歳になるという時にお母様が亡くなった。お父様はお母様の葬儀からわずか数カ月の後に、後妻だといってスノウを連れてきた。
スノウには連れ子の娘がおり、その娘ジェイニーは、余りにもお父様に似ていた。髪の色、目の色、顔形。一目見ただけで親子だと判るほどに。
私とお父様よりジェイニーとお父様の方が、よっぽど親子に見えた。
その上ジェイニーは私と同い年。計算が合わないどころじゃない。お母様が生きている時に浮気するだけじゃなく、外に子どもまで作っていたということだ。貴族というより人としてどうなの。
侯爵家に入った義母スノウは、私とジェイニーをハッキリと区別した。
可愛がるのは
ハーナン侯爵家の長女である私の扱いは使用人と変わらないものになってしまった。
侯爵家の令嬢とは思われないような生活を強いられてきたけれど、それももう終わり。
私は先月誕生日を迎えて18歳になった。成人したのよ。
成人したのだから、ハーナン侯爵家から解放されていいはずだわ。私はハーナン侯爵家から出ていって、自由になるの!
私は何も知らない貴族令嬢だから、市井での生活は苦しいでしょうし困難なことばかりだと分かっているわ。それでも私は自由を選ぶ。
貴族令嬢の身分なんて、私には必要無いもの。
「アイリス、いい加減にしなさい。さっきから妹に酷いことをしているのが分かっているのか」
今迄ギャラリーとして、周りの人たちと共にいた両親が前へと出てきた。
私が王子様を連れているので、下手なことは言えないと傍観していたのだろうが、とうとうジェイニーを助けるために出てきたようね。
お父様はジェイニーへと近づくと、チャールズに抱かれていない方の肩を安心させるようにそっと叩く。ジェイニーも微笑みでそれに答えている。
ウフフフ、出てくるのを待っていたわ。これで両親にも “ざまぁ” ができるというものよ。
次のターゲットはあなた達よ!
「まあ、お父様にお義母様。私は嘘を言ってはおりませんわ。私がハーナン侯爵家の跡取りでしょう」
「お前がハーナン侯爵家を継ぐ必要はない。チャールズ殿を婿としてジェイニーが継げばいいことだ。ジェイニーは私の娘なのだからな」
お父様は、にべも無い。
周りに人がいなかったなら、相当罵られていたと思うけど、人目を気にするお父様には、ここで私を怒鳴り散らすことは出来ないわよね。それに今私の隣には王子様がいるし。
お父様の思惑は分かっているわ。
お父様はジェイニーを侯爵家の跡取りにしようとしている。
私とジェイニーを入れ替えることで。
お母様が亡くなってから、私は屋敷から出ることを禁じられた。
勿論アーネストの元に行くこともできなくなったし、女学校にも通っていない。家庭教師すらいない。
屋敷の使用人達も、お母様が生きていらした時からいる者達は、全て解雇された。
私を知っている数少ない近所の人達や、お母様の実家の人達も、成長した私の姿を知らない。
私が成人したから、お父様はすぐに私を嫁にやるでしょう。
王都には戻っては来られないような、辺境の地へやるか、いっそ外国に嫁がされるかもしれない。
そしてジェイニーはチャールズと結婚して、そのまま侯爵家に残る。
お父様が歳を取り、侯爵家の家督を譲る何十年と先には、私の存在は無くなっている。
ジェイニーが跡取りだと認められるでしょうね。
だって戸籍は紙だから。
戸籍に記載されているのはせいぜい両親の名前と生年月日ぐらい。髪の色も目の色も書かれていないし、ましてや細密画なんて添付されていない。
ジェイニーがアイリスだと名乗ってもバレることなんてない。
お父様によく似ているジェイニーが跡取りだと、誰も疑うことはないでしょう。
でもね、お父様達の思惑なんて、私が叩き潰してあげるわ。
さあ、両親に “ざまぁ” をしてあげるわ。
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