幼女が落としたすすきみみずく

烏川 ハル

プロローグ

   

 たくさんの子供を産み、それらを愛しながらも、他人の子供はとって食べていた鬼神。それが釈迦にさとされて、改心した結果、安産や子育ての神として祀られるようになったという。

 そんな「鬼子母神」は、法華経の守護神として、日本でもいくつかの寺院で祀られている。東京都豊島区雑司が谷にある「雑司ヶ谷鬼子母神」もその一つだ。


 雑司ヶ谷鬼子母神では毎年10月に、御会式おえしきと呼ばれる大きなお祭りが行われる。

 3日間に渡るお祭りでは、露店は境内だけでなくその外まで溢れ出す。普段は参道というよりも近隣の商店街といった雰囲気の強い鬼子母神通りに、縁日の屋台がずらりと並び、都電荒川線「鬼子母神前」駅の近くまで続くほどだ。

 雑司ヶ谷鬼子母神の公式ホームページにおいても「年中行事」の項目で言及されており、そこから引用するならば『江戸時代から伝わる年中行事としていまも地域全体の人々が待ちわびる大祭となっています』と書かれているくらいなのだが……。


 かつて、まだ主人公が小学生だった頃。家族と一緒にお祭りに出かけた彼は、大人たちとはぐれてしまう。

 ただし地元の人間として、一人でも家まで帰ることは出来るという安心感もあり、迷子になっても孤独や恐怖を感じることはなかった。むしろ子供一人でお祭りを見て回れる自由さに、新鮮な喜びを感じるほどだった。

 ところが歩き回るうちに、人気ひとけのない住宅街に入り込んでしまう。夜の暗さや静けさをようやく実感し始めた彼が、そこで出会ったのは……。

   

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