第10話
ジェシカの口に出したことは聞いたものによっては不敬とみなされるが、それに関してコーク・ローチは何も言わない。似たような気持ちを抱いていたからだ。
(それについては断然同意します! 国の乱れはあのお二人のせいでしょう!)
「マグーマ・ティレックス伯爵のことについても殿下と手紙のやり取りをしていたことが判明しています。しかも、その内容はほとんどが『王太子の座を返せ』など、自分勝手なものばかりでした。そんな内容の手紙がほぼ毎日届いていたようです」
「……マグーマ様も変わらないのね。心を入れ替えてくだされば良かったのに。むしろ心労で苦しむ弟にそんな手紙を毎日よこすだなんて」
「本当に自業自得の結果であり、反省の色が見られないのは残念です」
「それにつきましては私も同じように思っています。いっそのこと伯爵から男爵に降格すればいいのです。王家から除籍されたくせに未練たらしく実の弟に縋るとは情けない限りです」
ココーク・ローチは率直に意見を述べた。マグーマの悪口くらいならば言ってもいいだろうと思ったのだ。それ以上に迷惑ばかりかけるマグーマには本心から嫌悪していた。
「つまり、現時点で推測できる真相としましては、過剰な労働で疲れ果てたトライセラ殿下が正常な判断ができなくなったために、マグーマ・ティレックス伯爵の手紙の通りの行動に出てしまったということです」
「苦労人の弟が弱っているところにつけ込んでろくでなしの兄が復権を目論んだことで昨日のパーティーが……」
「王家の出自であるにも関わらず兄弟でなんとも醜くて嘆かわしいことか……」
リリィもジェシカも顔をしかめて呆れ果てた。それと同時にトライセラには深く同情する。
「……そのとおりですな。せめて国王陛下があの場にいてくだされば……!」
「甘い判断を下すでしょう。言ってはなんですが国王陛下も王妃様も能天気と言わざるをえませんから」
「………」
確かに、兄は欲深くて醜くい。弟は苦労しすぎて嘆かわしい。その親は能天気というのだから、昨日の出来事は起こりうることだったのだとも言える。あの場にいなかった第三王子はまだ幼い。それを思うと、誰もが国も未来を不安に思うしか無い。
そんな時だった。昨日のことで話している最中に一人の騎士が入ってきたのは。
「えっ、何?」
突然現れた騎士にリリィは困惑することはない。以前にも似たようなことがあったせいか慣れていた。ただ、傍に控えるジェシカと騎士の隊長格のコーク・ローチは不穏な気配を感じていた。
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