第6話 古着屋の話

私の行きつけの古着屋で、小さいながらに欧州のヴィンテージものから店主オリジナルのリメイク作品まで数多くこだわりの品を取り扱う素敵な古着屋があるのだが、その店で見た話である。

店の奥の方のスペースで、海外の軍の払下げ品やデッドストック、100年以上前のフランスアンティークドレス、ハンドメイドの一点ものなどのマニアックな品々が置かれている一角がある。そこは店の奥の方にあり、窓からも離れた位置にあるため常に薄暗い。そして、どうしてもそこだけとても気温が低いというか、寒く感じる事が多々ある。

ある夕方、その店が店休日の日に店の前を通ったのだが、店内からちらりと見えるあの寒い一角に、のっぺりとした人影があった。

じっと棚に向かって、真っ黒い人影が立っている。

秋の赤々とした夕日が差し込んでうっすらと照らされる店のなかは、 店休日ということもあり電気もついていないことからより薄暗い。しかし、なぜだかその黒い人影だけは浮かび上がるようにくっきりとみる事ができた。

男とも女ともつかない、ただ影だけのなにかがそこにいる。

不気味に思って、マネキンだと思いこむことにして、私は足早に立ち去った。

後日、店主にきいたところ、そもそもここ数年新しいマネキンなんて出していないという。

もちろん、店の中にマネキンが増えているなんて言うことも一切なかった。

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