第118話 バロー公国(暗躍)

◇ 公都ダリアン ◇


 ダンジョンでやるべきことを終えたエチゴヤ旅団とミューゼラさんは、公都ダリアンへ戻ってきた。


 一度立ち寄った場所なので、私の習得している『転移魔法』を使えば一瞬である。


「はっ!ここはまさか!?」


「はい。公都ダリアンです。あっ、ミューゼラさんには、転移魔法についてはお話していませんでしたね。すみませんが、これについてもご内密にお願いします。」


「むう…サカモト様。本当にあなた方は常軌を逸していますね。まあ、あなた方がいなければバロー公国はどうなっていたことか…。あなた方の功績に免じて、秘匿すべき情報に関しては、漏洩しないと誓います。」


「感謝します。では、大公殿下に報告に参りましょう。」


 ダリアンの街並みを眺めながら王城へ向かった。


 街の様子は、以前よりも落ち着きを取り戻している様子に気付いた。


 周辺の魔物が倒され、魔物侵攻が終息したことが影響しているのだろう。


――― バロー公国 王城 大公の間 ―――


 ミューゼラさんの計らいにより、大公陛下との謁見は、即刻対応して頂けることとなった。


 しかし、謁見は最小人数に限るとの宰相からの指示があり、私とリヨンさん、ミミ、ミザーリアさんのみが、ミューゼラ氏に先導されて大公陛下の御前に参上し、跪いた。


「報告は聞いている。魔物の氾濫の鎮圧、誠に大義であった。」


「はっ。」


 またしても大公殿下からのお言葉ではなく、傍にいる宰相からの言葉であった。


 大公殿下を観察すると、以前よりも更に元気がないご様子である。


(やっぱりおかしいよな?ミューゼラさんの話も気になるし…。)


 大公殿下には、失礼だと思うが、状態が気になる為、片眼鏡で鑑定を行った。


名前 アーニャ・ムルヌ・ウルカ

種族 人間

年齢 16歳

スキル なし

魔法 火 土

状態 呪い(強) 衰弱

説明 バロー公国大公。幼い頃から両親より、大公になるべく英才教育を受け、現在に至る。知能明成で、統治者としての能力は高い。上級貴族達の政治紛争の結果、大公へ押し上げられた。


(やはり、様子がおかしいと思ったら、強力な呪いが架けられているようだ。これは、きっと…。)


 私は一つの答えに辿り着いた。


 ガドーの貿易問題から始まり、バロー公国での魔物の氾濫。


 そして、ボーゲンのダンジョンでの出来事…。


 これらはすべて関連しているということだ。


 私は念話を利用した。仲間に必要事項を伝達しておく必要があったからだ。


「おい!貴様!謁見中に勝手に立ち上がるとは無作法だ!これだからローランネシアの輩は…。」


 宰相がガミガミ言っているし、周りの兵士がざわめき始めたが、ここはお構いなしだ。


 私は大容量の魔法バッグであるタイゲンカバンから『聖なる種火』を取り出した。


 そして、みんなに見えるように掲げた。


「何!それは、まさか…!!」


 宰相は、慌てて声をあげた。


「宰相さんは、お解りのご様子ですね。今は、私でも解ける程度の簡単な結界を施しています。これを解除すると…。」


「ならぬ!わかった。褒美か!?褒美が欲しいのだろう?いいぞ。いくら欲しいのだ。私が何とかしてやろう。」


 宰相の発言に場内は、更にざわめきが起こる。


 宰相が不適切な発言をしているのは、一目瞭然である。


「いいえ。褒美は不要ですよ。この公国の裏側で何が行われているのか、真実が知りたいだけです。」


「さ、さて。それは…何のことを言っておるのだ?さっぱり見当も付かぬことよ。」


「では…結界解除!」


《パリン!》


 私の手の上にあるのは、ダンジョンで入手した『聖なる種火』であった…。


 本来は、聖剣を造る為に入手したのだが、別の使い方があることを知ったので、早速試してみたのである。


 聖なる種火は、結界が解除されると青光が部屋中を照らし、光はやがて落ち着きを取り戻す。


《ぐぁぁぁ!》

《うわぁぁ!》

《うぐぁぁ!》


 部屋中を奇声が突き抜けていく…。


 大公殿下からは、憑き物が取れたかのように、身体から黒い霧のようなものが立ち上り、やがて消滅した。


 だが、宰相や、兵士の一部の様子がおかしい…。


「キサマ!よくもやってくれたな。」


 やはり、予想通り宰相は、悪魔が人間に化けていたようだ。


「やはり、あなた方の仕業でしたか。ダンジョンの瘴気増幅像は、あなた方がやったのでしょう?」


「フン!そこまでわかっていたか…。もう少しでこの国を支配できたものを邪魔しおって…。」


「あなた方が今回の首謀者なのですか?」


「敵にあれこれ教えるかよ!まあ、良い。この国は、もう用済みだ。なら一つだけ教えてやるよ。これから先、世界のあちらこちらに我々の手が及ぶだろう…。今のうちにせいぜい余生を楽しんでおくがいい。」


「このまま逃がすとでも?」


「ほぅ。随分威勢がいいなぁ。これを見てもそう言えるかな?」


 悪魔の鋭い爪が大公殿下の首筋を狙っている。殿下を人質に取るつもりのようだ。


「サカモト様!わたくしの替わりはいくらでも居ます。遠慮せず倒して下さいませ!」


「殿下!そうは参りません。命は等しく尊いのだと思います。当然、アーニャ殿下の替えなど御座いません。そして、公国にとっても大切なお命です。我々が全力で守らせて頂きます。」


「サカモト様…。」


 私は、仲間に会釈した。


 リヨンさんは、新たな能力を解放し、ミザーリアさんは、詠唱を開始していた。


 ミミも屈伸をしながら戦う準備は万端な様子だ。


「貴様ら!少しでも動いたら大公は殺す!」


「リヨンさん!」


「御意!」

『隠密!縮地!』


《グサッ!!》


「何が…!嘘だろ…?」


 相手が瞬きする位の僅かな時間…。


 リヨンさんは、一瞬で悪魔の背後に回り込み、背中から心臓を一突きした。


 悪魔ですら反応できない素早さは、見事の一言である。


 リヨンさんは、『雷使い』により、雷の闘気を纏い、身体能力を格段に向上させた。


 その後、『隠密スキル』で相手からの認識を意図的に外した上で、『縮地』を使い、一瞬で背後を取ったのである。


 心臓を一突きされた悪魔は、大量に吐血した後に絶命した。


 会場は、一瞬で静寂する。


「レイ様、完了致しました。」


「にゃにゃ。ご主人様!終わったにゃん!」


「あらあら。レイ君、こちらも終わったわよ!」


 ミミやミザーリアさんも、リヨンさんと同様に念話が可能となっていた。


 事前に念話で打ち合わせておき、リヨンさんが行動に移った際に、兵士に化けていた悪魔どもを討伐して頂いたのである。


「うぉー!!」

「スゲー!!」

「ブラボー!!」


 会場は、静寂から歓声に置き換わる。


 私達は、大公殿下の救出と、裏で暗躍していた悪魔の討伐を果たしたのであった…。


ーーー to be continued ーーー 

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