4人目のヒロイン・武岡柚希(俺の推し)
これで『ツンデレお嬢様と幸せになる話』のヒロイン候補のうち3人の紹介が終わった。
ツンデレお嬢様メインヒロイン、小雀苺。
クールビューティスポーツ得意ヒロイン、龍崎梨乃。
文学系はわわヒロイン、木虎桃香。
そして残るヒロイン候補はあと1人。
今まで何度も名前が出てきて散々引っ張ってきた、俺の推し。
『武岡柚希』という女の子だ。
お色気要員で不憫な負けヒロイン。俺の本命。
俺は今、猛烈に柚希に会いたくなってきた。
ヒロイン紹介は柚希が最後になっちまったが、決して後回しにしていたわけではない。俺は別に好きなものを最後までとっとくタイプではない。
せっかく推しがいる世界に転生できたんだからできれば一番最初に柚希のところに行きたかったんだが、他のヒロインを差し置いて柚希を優先するのは難しい。これには理由がある。
柚希はヒロイン候補の中で唯一、同じ学校ではない。
同じ学校だったら真っ先に会いに行ってるっての。
ていうかまずそれ以前に柚希は女子高生じゃない。
女子大生、年上のお姉さん系ヒロインだ。
近所に住んでるというわけでもない。電車で15分くらいかかる場所に住んでいる。
同じ学校じゃない、近所にも住んでない。この時点で会う機会は限られる。
普通に生活してるだけじゃあまり会えない。柚希に会いたいなら俺の方から会いに行くのが確実だ。
というわけで学校がない休日。
俺は柚希に会いに行く!
漫画の中の柚希にガチ恋していた俺は、何度も何度も柚希の登場シーンを読み返した。前世の自宅にある単行本は、柚希が出るところだけ紙がヨレヨレになっている。
家の場所、彼女の好きなもの、ちゃんと知ってる。原作とは微妙に違う可能性があるのもわかってるけど、いちいち気にしてられない。何があろうと推しへの愛は止まらない。
身だしなみもファッションも俺のできる範囲でバッチリ決めて、電車に乗り彼女の家に向かう。
到着。
間違いない、柚希の家だ。古いアパートの一室……彼女はここで1人暮らしをしている。なんか1人暮らしをしてるってだけでオトナって感じがして憧れるな。前世の俺は死ぬまで子供部屋おじさんだったから。
原作とまったく同じ、柚希の家だ。漫画じゃない、紙の上じゃない、リアルな柚希の家だ。
俺は今気分が高揚して緊張と感動で足がガクガクしている。
この家に柚希が……柚希が生活してるんだな……食べたり寝たりしてるんだな……
なんかストーカーみたいになってるが、今の俺はなんかおかしくなってるから許してくれ。
俺はゴクリと喉を鳴らして呼び鈴を鳴らした。
ピンポーン
…………
……
なかなか出ない。
あ……もしかしていない? アホな俺はお出かけ中という可能性を考慮していなかった。
そ……そうだよな……女子大生なら休日はショッピングとかしてたりするよな……家に籠もってネットやゲームばっかりしてた俺と一緒にするなって話だよな。
推しに会いに来たけどいませんでした。ショックは大きい。
いないものは仕方ない、帰るか……
そう思ってドアに背を向けて歩き出した瞬間。
バタバタバタ
柚希の家の中から、バタバタした足音が聞こえてきた。相当慌てていてかなりバタバタしてるため、外にも聞こえてきた。
『は、はい!』
そしてインターホンから聞こえてきた声。
アニメで何度も聞いた声と同じ声。柚希の声だ。
俺は転生して初めて、推しの女の子の存在をハッキリと確認した。
柚希……柚希だ……!!
「あ、あああのっ、お、おお俺っ、おっ俺っ……」
俺はテンパってうまくしゃべれない。本当に情けない。
『オレオレ詐欺ですか? 帰ってください』
「ち、違っ……俺、栗田柊斗です!」
『えっ、柊斗くん!?』
名乗るとすぐにドアがガチャッと開いた。
家から出てきた柚希の姿を見て、俺は目が飛び出そうになった。
「ご、ごめんね、柊斗くん。お風呂に入ってたから、すぐ出られなくて……」
「……ッ!!!!!!」
お風呂上がり……推しヒロインとの初対面が、お風呂上がり……!!
上はキャミソール。
下はショートパンツ。
ショートパンツのボタンが嵌められてなくて、チャックも十分上げてない状態で、ちょっと下着が見えてて、急いで着替えたのがよくわかる。
そして大きい胸。でかい、豊満、巨乳、説明不要。
キャミソールとでかい胸の相性は良すぎて、魅惑の胸がさらに強調されていて……男なら誰もが視線を送らずにはいられない谷間がそこにあって……
すごい。すごいとしか言いようがない。さすがお色気担当というだけのことはある。
風呂上がりだから湯気も感じる。それがさらに艶かしくて美しくて。
とにかく好き。尊い。間違いなく俺がガチ恋した推し。
原作でも似たようなシーンがあって同じ格好だけど、推しが輝きすぎて眩しすぎて直視できない。
俺は同じ空間にいる資格ない。俺はここにいてはいけない。消えてしまいたい。なんてめんどくさいオタクの部分が溢れ出る。
俺……彼女の前で栗田柊斗になりきれる気がしない。
柊斗はお色気要員の柚希を前にしても全然性欲みたいなのを見せず平然としていたが、俺はそうはいかない。これで平静を保つなど無理すぎる。
なんかもう性欲全開キモオタ全開で前かがみで、1ミリも主人公になれてない。
なんでラブコメ主人公ってこういうエッチな女の子が目の前にいても平気なんだろうな。好きな女の子に会っただけでデレデレのビンビンになってる俺がバカみてぇじゃねぇか。
「それで、どうしたの柊斗くん。私に何かご用?」
ああ、『柊斗くん』って呼び方もたまらなく好きなんだ。年上のお姉さん感が出ている。
前世の名前忘れたけど前世の名前でも呼んでほしいとか思ってしまう。『○○くん』って呼ばれたい……
「……おーい、柊斗くん?」
「はっ! すみません、えっと、あ、遊びに来ました!」
「そうなの? 嬉しいな。散らかってるけどどうぞあがって」
「しっ、失礼します!」
推しの家にあがれる。幸せ。前世を合わせても今までの人生で一番幸せ。
俺は柚希の部屋に入った。
このラブコメももう終盤。柚希との関係も、もうすでに部屋に入れてもらえるくらいの親しい仲になっている。
乱れた髪型や服装をバッチリ整えた柚希とご対面。
彼女はピンク髪のロングヘアーで、サイドテールにしている。花の髪飾りもつけている。可愛い。死ぬほど可愛い。彼女に出会ってから俺はサイドテール萌えになった。
ピンクとか花とか、お色気要員だからそういう設定にしたみたいな感じのことを作者が言ってたな。安直だな。可愛いからいいけどさ。
さっき彼女は散らかってるって言ってたけど、本当に散らかっている。原作で見た部屋よりも散らかっている。
しかし何の問題もない。私生活がだらしないキレイなお姉さん、大好きだ。
外ではしっかりしてるけど家の中ではだらしないギャップがたまらんのだ。マジで好き、今すぐ結婚したい。
同じ空間にいる資格ないって思ってたのに結婚したいって強く思う……矛盾しているが、オタクってのは矛盾しまくりの意味わかんねぇ生き物なんだよ。
さて、俺は好きな女の子の家に手ぶらで来るほどのバカな男じゃねぇぜ。
柚希に手ブラしてほしい……ハッ、何をバカなこと考えてるんだ。
「ゆ、ゆっ……柚希、さん!」
「なーに? 柊斗くん」
柊斗は柚希を柚希さんって呼んでるが、俺はそう呼ぶだけで心臓バクバクで破裂しそうだ。なんで柊斗は自然に呼べるんだ。信じられん。
「柚希さん……これ、よ、よかったらどうぞ」
「えー、なになに?」
俺は持ってきた紙袋を柚希に渡した。
紙袋の中身を見た柚希はキラキラと瞳を輝かせた。もともと輝いてるけど特に美しく輝いた。
「わーっ、おまんじゅうだ! これ食べていいの!?」
「もちろんです。柚希さんに食べてほしくて買ってきました」
「ありがとう柊斗くん! いただきまーす!」
柚希は甘いものが大好きだ。特にまんじゅうが大好きだ。原作を読み込んだガチ恋オタクの俺は当然知ってる。
柚希のために買ってきた。いきなりアポなしで家に押しかけたんだ、これくらいは当然だ。
「ん~っ、おいし~っ!」
すごく幸せそうに笑顔でまんじゅうを食べる柚希。俺は正座しながらそれを眺める。
あっ……危ない危ない。可愛すぎて尊死するところだった。
お色気要員でオトナのお姉さんなのに、子供っぽい純真無垢な笑顔も見せてくれる。そういうところもたまらなく好きだ。
「ごちそうさま~! 本当にありがとね柊斗くん」
「い、いえそんな……」
5人分はあったと思うのにほとんど1人で食べてしまった。食いしん坊なところも好きだ。
喜んでくれて本当によかった。原作とは違う部分もあるからもしかしたら甘いもの好き設定がない可能性もあるかもしれないと思っていたが、そんなことはなくてホッとした。
彼女の笑顔を見れて俺も幸せだ。
「……ねぇ、ところで柊斗くん」
「は、はい。なんですか?」
「今日の柊斗くん、なんだかいつもと様子が違うね」
「……!!!!!!」
デレデレのユルユルだった俺の心が一気にキュッと引き締まった。
やっぱり不審に思われたか……まあ当然か、まったく栗田柊斗になれてねぇのは自分が一番よくわかってる。
原作の柊斗とはあまりにも別人。栗田柊斗はこんな限界オタクじゃない。
現段階で柚希は柊斗に惚れている。惚れているのは原作の柊斗。俺じゃない。
惚れてる男がどう見ても別人になっていて不審に思わないわけがない。
「…………」
「…………」
俺は返事できない。柚希にジーッと見つめられる。何もかも見透かされてるように感じて、冷や汗がダラダラと垂れていく。
推しと接する俺はあまりにもキモかった……嫌われたかもしれない……
いや、たとえ嫌われたとしても、柚希に会えて柚希の笑顔が見れたんだ。今日彼女の家に来たこと、絶対に後悔しない……!!
柚希は少しずつ俺に近づいてきた。
緊張感が高まる。
ぎゅっ
「ふふっ、なんか今日の柊斗くん可愛い」
「!!!!!!」
柚希は後ろから俺を抱きしめた。
長い髪が俺をくすぐる。めっちゃいい匂いがする。振り返ればそのままキスができそうなほどに近い。
推しがこんなに近くに……俺は今、推しと密着している……!!
むにゅっ
「!!!!!!」
そして、背中に当たる柔らかい胸の感触。
俺の股間に電撃が走ったような衝撃を受けた。童貞にはあまりにも刺激が強すぎる。
嫌われるかもしれないという俺の不安は完全に杞憂に終わった。それはよかったけど、これじゃ俺の理性が崩壊する。
「……好きだよ、柊斗くん」
「!!!!!!」
耳元で可愛い声で囁かれて、俺の細胞は蕩けそうになった。
そう、武岡柚希はものすごく積極的に主人公にアプローチしてくるヒロイン。
ど真ん中にド直球しか投げてこないドストレート系ヒロインだ。
お色気要員、負けヒロインにありがちなタイプだ。
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