お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話
湯島二雨
プロローグ
推しのヒロインが負けて辛い
『私っ、―――くんのことが好き! ずっとずっと、好きだったの!』
『っ……ごめん、―――さん。俺、他に好きな人がいるから……』
『っ……!! う、ううん。こっちこそごめんね……ちゃんと返事してくれて、ありがとう……』
―――――――――
「はあぁ~~~! ちっくしょう……クソが……」
自室のベッドで漫画を読んでいた俺であったが、やや乱暴にその漫画を布団に叩きつけ、ゴロンとふて寝した。
その漫画のタイトルは『ツンデレお嬢様と幸せになる話』。男性向けのラブコメだ。
何の捻りもないタイトルだ。何も考えずにつけたみたいなタイトルだ。
だがそのタイトルのわかりやすさからそれなりに人気を博し、アニメ化も果たした。
アラサー、平社員、彼女いない歴イコール年齢。そしてもちろん童貞。
そんないい歳こいた俺がそのラブコメ漫画を読んで内容が気に入らなくてイライラしているという、なんとまあみっともない姿。
しかしムカつくもんはムカつく。このイライラをどうしてくれようか。
「はあ~、うぜぇ……」
負けヒロイン……
俺はこの言葉大嫌いだな。
主人公と結ばれないってだけで『惨めで無様な負け犬』の烙印を押されるのがものすごく気に入らないのだ。
ああ、今の俺はものすごく機嫌が悪い。俺の『推しヒロイン』が完全敗北を喫して、ものすごい心のダメージを受けた。
悲しい、辛い、うざい、憎い。
この漫画の終盤、俺の推しヒロインは主人公にフラれて、夜に自宅で1人で号泣した。
好きな人(主人公)に積極的にアプローチを続けたが、努力が報われることなくフラれて失恋した。
それでそのヒロインの見せ場はほとんど終わった。
ヒロイン候補は4人いるけど、俺の推しが一番最初にフラれた。一番最初だぞ? ここすごく重要。
主人公にとって、4人のヒロインの中で推しが最下位だということだ。しかも読者人気も最下位だぞ。こんなに悲しい話があるか。
盛り上がることもなくあまりにもあっさりフラれたので何か救済があるのではないかと期待した。
しかしそんなものはなかった。フラれた後、出番すらほとんどなかった。
フラれた後のまともな出番といえば、数年後になった最終回で未だに失恋を引きずってて未練タラタラでいつまでたっても切り替えられなくて、もう一生独身コースなのではないか……みたいな描写がされた、くらいか。
うん、救済じゃなくて死体蹴りだな。ふざけんなよなんだこの扱い。
そう、負けヒロインと呼ばれる存在だ。俺は死んでも認めたくないが、俺の推しは負けヒロインという結果に終わった。
俺が何と言おうとどれだけ騒ごうとも、この事実は変わることはない。俺の推しは負けヒロインで、かませ犬で、当て馬でしかないのだ。
辛い、マジで辛い。食欲もなくなるくらい辛い。泣きたい。
なんとか、この精神的な辛さをなんとかしたい……
落ち着け、俺の推しだけが負けヒロインというわけではないのだ。他の漫画やラノベに負けヒロインなんていくらでもいる。
他のラブコメ作品を読んで、他の負けヒロインを見て精神回復を図る。
推しよりも扱い悪いヒロインを見て安心したいというわけだ。我ながら性格悪いな……
……いや、やっぱりやめよう。なんか虚しい。っていうか推しよりもさらに扱いが悪いヒロインがなかなか見つからなくて余計辛くなってきた。はぁ……
何が負けヒロインだクソくらえ。ていうかそもそも負けヒロインって何なんだよ。辛すぎて負けヒロインが何なのかもよくわからなくなってきたよ。
イライラしすぎて逆に冷静になってきた俺は負けヒロインが何なのかについてよく考える。
負けヒロインにされやすいヒロインというのは一体どういうヒロインなんだろうか。
幼馴染? 青い髪? 妹系? 姉系?
俺はどれも違うと思う。あくまでも俺の個人的な考えだが、一番負ける可能性が高いと思われるヒロイン。それは……
『お色気要員』だ。
お色気要員は、主に読者へのサービスとして入浴とか水着とか下着とか裸とか、肌の露出シーンを多く提供しているヒロインのことだ。
悪い言い方をするとエロしかとりえがないみたいな扱いを受けているキャラだ。
お色気要員は勝てない。マジで勝てない。
なぜ勝てないかっていうと『お色気要員だから』勝てない。そもそも勝っちゃいけない、そういう扱いをされているからだ。
お色気要員は自分の自慢の巨乳、女体を活かして主人公を誘惑する。
主人公がその誘惑に屈した場合、もう致すしかないのだ。致したらもうそこで物語が終わってしまうのだ。
だから勝てないのだ。成人向けでもない限りその致すという展開そのものが大人の事情で無理なのだ。
なので主人公は誘惑に勝つのだ。最後まで耐え抜くのだ。ハーレムが許されるファンタジー世界でもない限りお色気要員に残されたルートは敗北だけなのだ。
そして俺の推しヒロインも、そのお色気要員だ。
『ツンデレお嬢様と幸せになる話』に登場するヒロインの1人。
名前は『
人気はダントツ最下位だが誰が何と言おうと俺の推しヒロインだ。
この作品、タイトルに思いっきりツンデレお嬢様と書いてある。
しかし、俺の推し『武岡柚希』はツンデレじゃないしお嬢様でもない。
つまりタイトルの時点で推しが負けヒロインになることがすでに決まっているのである。最初っから勝てないことが決まっているのである。万が一勝ったらそれはタイトル詐欺だ。
どうあがいても絶対に勝てない。ただ脱いで、でかいおっぱいを揺らして、ひたすら読者に媚びるだけ。それだけの悲しい存在なんだ。
最初から勝てないのがわかってるなら最後まで読んで文句を言うのはお門違いだということは自分自身がよくわかっている。
じゃあ読まなきゃいいじゃん、ってだけの話だからな。
この漫画は悪くない。俺が悪い。それはわかっている。
推しの扱いが悪くて、報われないのがわかっててそれでも読むのをやめない俺がバカだとしか言いようがない。見えてる地雷をわざわざ踏みに行って自爆している俺の責任だ。
辛くなるのがわかっててなんで読むのか。それは『推しだから』だ。それ以上でもそれ以下でもない。
推しだから、柚希のことが好きだから読むんだ。文句あるか。
俺から言わせてもらえば最初から負けるのがわかってるから読まないというのはファンとは言わない。
どんな扱いだろうがどんな末路を迎えようがどれだけバカにされようが、好きなものは好き。最後の最後まで好きな気持ちを貫き通す。それこそが『推しへの愛』なんだ。
それはそれとしてこの作品の終わり方は気に入らないしムカつくけどな。それはそれ、これはこれだ。
このイライラをどうにかして発散したい俺は、ヤケクソで風俗に行って女遊びをした。
この時の俺は血迷っていた。イライラしすぎて頭がおかしくなっていて冷静に物事を考えられない状態になっていた。
その結果、俺は金をケチって数千円の激安風俗に突撃した。バカにも程がある。
案の定大ハズレを引いた。
失礼なのは承知の上だが正直に言うとガチのデブスだった。
いや見た目が悪いだけならまだいい。だがそれだけじゃなくめっちゃ臭かったんだ。ブスなのは我慢できる。臭いのはガチでどうにもならなかった。
地獄の時間が終わった後、俺は目が覚めて正気に戻り、メチャクチャ後悔してメチャクチャ反省した。
二度とこんなバカな行動はしないと心に誓った。
しかし心に誓ったのは意味なかった。二度目というのは二度となかったからだ。
俺はその後、性病にかかった。
童貞だし素人童貞の俺には心当たりは一つしかなかった。
あのデブス、見るからに不潔だとは思ってたがヤバイ病気持ってやがった。
伝染された。金をケチった結果大ハズレを引いて病気感染するという考えうる限り最悪の結果になった。
さらに最悪の最悪な結果を重ね、俺は入院して寝たきり生活になってそのまま死んだ。
死因、性病。運が悪すぎる。
地獄の苦しみを味わい続け、俺は死んだ。
なんだよ。なんなんだよこれ。俺の人生って一体何だったんだ。
漫画でイライラして風俗に行って病気感染して死ぬってなんだよ。マヌケってレベルじゃねぇぞ。
バカみてぇ……死ぬほど哀れだ。
―――――――――
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